第10話
「はぁ、コレで一件落着だな」
そう言って瑞樹は新聞を机の上に無造作に置く。
「そう……ですね」
如月もチラッと置かれた新聞を見てそれに同意しつつ、飲み物を飲む。
「……」
コップからは欠伸をしている瑞樹の姿が見える。
そんな彼と出会って数日しか経っていないが「私も色々と図太くなった様です」と如月は感じていた。
「まぁ。あの先生は取り調べには素直に応じているらしいし、何より心から反省しているっておやっさんから聞いたよ」
「それは……良かったです」
新聞には五年前の事件に関する情報も書かれており、今回の一件を機にますます塾の送迎をする親御さんが増えた。
「でも、如月のところは変わらず……と」
「夜は仕事をしていますからね」
「電話をした友達に送ってもらえばいいだろ?」
「そっ、それは……申し訳なくて」
「なんでだ? 送らずにまた何かの事件に巻き込まれるよりは全然マシだと俺は思うが」
「それは、確かにそうですが。あの、申し訳ないのは……その。友人を迎えに来る車が高級車でして……その、私が乗るにはあまりにもおこがましいと言いますか」
如月が恥ずかしそうに言うと、瑞樹は「え、そっち?」と言わんばかりの表情で如月を見る。
「まぁ、とりあえず気をつけろよ。今回の一件で、お前さんも見える人間になっちまった様だしな」
「はい」
そう、実は如月も今回の件で『怪異』を見た事により、そういった気配に敏感になってしまった様だ。
しかし、最初はその事に気がつかず、それに気がついたのは犯人が連行された後の事だった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結局のところあの先生は道路に飛び出し車に轢かれそうになった。
「ふん!」
しかし、まるでこうなる事が分かっていたかの様に待ち構えていたおやっさんが先生の首根っこを掴み、すんでのところで引き戻されてそのまま連行されていった。
「はぁ……はぁ」
そして、いきなり色々な事が起きて状況を飲み込めずにその場で固まっていた如月に対し、瑞樹さんは「大丈夫か」と手を貸した。
「あ、ありがとうございま……す」
街灯で照らされえいたはずの敷地内が突然暗くなり、如月が顔を上げると……。
「ヒッ!」
すぐ目の前に黒い塊がその大きな目玉で私を見ていた。
「ん? ああ。お前、見える様になっちまったのか」
如月の様子で気がついた瑞樹さんはおもむろに空いていたもう片手で自分の頭上を軽く払うと……。
「ギッ!」
黒い塊が白いテープの様なモノで更に固定された。
「……」
どうやら、先生に追いつく前に瑞樹によって拘束された様だ。
「え、あの。コレは?」
「ん? ああ。俺、祓っちゃいけねぇ事になっているんだよ。だからコレは固定するための道具」
瑞樹はそう如月に説明し、如月も「へぇ」と適当に相槌を打ったが、正直あまりに色々な事が起きすぎて如月は情報を整理しきれていなかった。
「おっ、来たな」
「え?」
如月は瑞樹が向いている方向を見ると、そこには全身白装束で、目深にフードを被った二人組がいた。
「え、いつの間に……」
「こいつらは基本的に物音も立てずに現れんだよ。気にするな」
そう瑞樹に言われたが、如月はもはや何が何だかよく分からない。
そんな如月を知ってか知らずか、瑞樹はその二人組に「後はお願いします」と言うと。
「よし、帰るぞ」
そう言われて瑞樹に手を引かれて如月たちはその場を後にしたのが昨日の出来事である。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あの」
「ん?」
「私が見た『怪異』はあの後一体どうなったのでしょうか」
如月がおもむろに聞くと、瑞樹はまさかそんな質問が来るとは思っていなかったのか、一瞬無言で固まった。
「あー、本来はこういった話はしねぇんだが。お前さんは見える様になっちまったし、あいつらも見ちまったしな」
「? あの白い人たちを見てはいけなかったのですか?」
「いや、見ちゃいけないと言うかそもそも見えねぇと言うか」
「?」
なぜか言い淀む瑞樹に、如月は首をかしげる。
「まぁ、要するにあの白装束のヤツらは『怪異』が見えるヤツらにしか見えない様にしているんだよ」
「なぜ?」
「お前さんが見た『怪異』を祓っているところを見られないためにな。正直なところ。お祓いってあんまり見られちゃいけねぇんだよ。中には祓われたくないからって見ているヤツに取り憑こうとするヤツらもいるから」
「そっ、そうなんですか」
瑞樹の言葉を聞きながら、如月は「確かに、しそう」とあの時に見た『怪異』を思い出していた。
「さてと、今回の件はこれで終わりなワケだ。手伝ってくれてありがとうな」
「いっ、いえ。私は何も……」
「いや、如月の話を聞いたから『怪異』に気がつけた」
「でっ、でも……」
如月は食い下がる。
なぜそこまで食い下がったのか……それは犯人を追い詰めて『怪異』が犯人を追いかける前に言った言葉――。
『反省の色さえ見せれば……って思っていたが、まぁ無理だよな。反省も何もなく性懲りもなくまた繰り返したんだからよ』
この言葉こそが、瑞樹の本性を現している様に思えてならなかったのだ。そして、如月はそれを「危うい」と感じていた。
「……なんでそこまで食い下がるのか分からねぇけど、お前さんが良いのならありがてぇけどよ」
「!」
瑞樹が照れくさそうに言ったのを聞くと……。
「はい、よろしくお願いします!」
如月は嬉しそうに笑顔で頭を下げ、そして頭を上げてすぐに「あ、ちなみに私は『お前さん』じゃなくて『如月』です」と訂正した――。
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