第55話 プレゼント
次の日。私は久しぶりに日向の家に上がった。
「懐かしい……」
懐古の念にすっかり浸っていると、
「ごめんね……」
日向は申し訳なさそうに小さく呟いた。すぐ謝っちゃうところは昔からぜんぜん変わっていないようだ。
「ううん。じゃ、私は本読んで待ってるね?」
「うん。着替えてくる」
前までの居心地の良い定位置に寝転がって、読みかけの本のページを捲る。
「フフ……」
笑えてくるくらい丁寧な言葉がスッと心に溶け込んでくる。日向のそばにいる時がやっぱりいちばん落ち着く。いま、改めて実感した。
「お待たせ。それじゃあ、行こうか」
「うん」
手に持っていた本を机の上にポンと置いてソファーから起き上がる。そして、彼の隣にちょこんと並んだ。
エレベーターで一階まで降りて、マンションの敷地外に出る。
「駅前でなにする?」
「まずはお互いのプレゼントを買おうよ」
日向の問いかけに、頭に浮かんだ文字を素直に吐き出した。
「おっ、いいね」
「そして、一年ぶりにふたりでイルミネーションを見る」
「だね」
小さな予定を立てているうちに、あっという間に目的地に到着した。
そこからはお互いに別行動。私たちはお互いのプレゼントを真剣に選んだ。
そうしてプレゼントを選び終わった時には、空はすっかり真っ暗になっていた。
「じゃあ、プレゼント交換しよ」
「う、うん。気に入るかわからないけど……」
プレゼントを後ろ手に隠して俯きがちの日向。すっごく自信が無いみたいだ。そんな日向の一面が可愛くて仕方ない。
「センスなかったら許さないからね?」
強気にそんなことを言ってるけど、結局のところを言うと日向が時間をかけて、私のことを想って、心を込めて選んでくれたものなら、なにを貰っても嬉しいのである。
「じゃあ、せーので出そう?」
「……うん」
「せーの!」
そう言って、私は眼を瞑りながら後ろ手に持っていた薄めの直方体の箱を日向の前に差し出した。
きつく閉じていた目をゆっくりと開いて日向の手元を見ると、彼の手にも私が差し出した箱と同じサイズの箱が確かに握られていた。
「もしかして……」
「もしかして――」
「「マフラー?」」
声が見事に重なった。
「かぶったかぁ……」
どういうわけか少し悔しそうな日向を見て、急に笑いが込み上げてきた。
「とりあえず。はい、これ」
「ありがとう。じゃあ、僕のも」
「ありがと」
私は日向から受け取ったプレゼントのかわいらしい包装用紙を丁寧に開いて、ゆっくりと箱のふたを持ち上げた。
中から顔を覗かせたマフラーを見て、私はつい、言葉を失った――。
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