第44話 カウントダウン
家庭教師の日。僕はいつも通りに明里さんの先生として勉強を教えていた。
「先生、ここは?」
「えっと――」
解くために必要な最低限のヒントを提示する。そうすると、明里さんはハイペースでペンを動かして、見事に正解を導き出した。
「できた!」
「正解! よく解けたね」
明里さんの頭をふわりとなでると、彼女ははずかしそうな、嬉しそうな、そんな絶妙な笑みを浮かべて小さく頷いた。
「今日はこれで終わりで良いかな。時間もちょうどいいしね」
「はい!」
元気よく返事をして家庭教師の時間が終わった途端、
「明日はクリスマス・イブですね!」
と楽しそうに言ってくる。
「そうですね」
明里さんの家ということもあって、敬語で返す。
「明日は十六時に駅前集合だよ?」
明里は僕の耳に口を近づけて、可愛らしくそう囁いた。
「わかってるよ。楽しみだね?」
「はい……」
その後はいつものように軽く雑談をしてから明里の家を出た。小さな門を出てすぐ明里の家を振り返ると、彼女はベランダからかわいらしい笑顔を浮かべてこちらに手を振ってきていた。それに応えるように、僕も小さく手を振り返して踵を返した。ここまでが、明里と付き合い始めてからの家庭教師終わりのルーティンみたいなもの。
「いよいよ明日か……」
聖なる夜へのカウントダウンは、こうしているうちにも刻一刻と0に近づいていく。結局、飛鳥と会話することもできないままクリスマス・イブの前夜を迎えてしまったことを深く後悔する。
「飛鳥は、アイツと過ごすのかな……」
吐き出した言葉は真っ白な溜息になって淋しそうに夜空に溶け込んでいった。
考えれば考える程に締め付けられる僕の心臓。
悔やんでも戻ってこない、あの楽しかった日々。
なんであんなことしてしまったんだと、今日もまた自分のことが大嫌いになる。
「もういいんだ。僕は、明里と過ごすって決めたんだから……」
言い聞かせるように小さくそう言って、乾いた頬をペシッと叩いてから僕は再び、足を動かした。
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