第41話 彼とのクリスマス
「あ~ぁ。もうクリスマスだ……」
ついこないだ、ハロウィンなんて言う厄介なイベントが終わり、ようやく冬がやって来たかと思えば、あっという間に聖なる夜へのカウントダウンが始まった。
「去年のクリスマスは楽しかったなぁ……」
窓にチラチラとぶつかる真っ白な雪を見つめながら、思い出を脳内で楽しむ。
いつもなら三人で過ごすクリスマスだけど、今年は違う。
私は駅前にある木製のベンチに腰を下ろして、ついこないだ付き合ったばかりの少し頼りない日向君を待っていた。
「ごめん! お待たせ……」
息を切らしながら、日向君が私の前に登場する。
「遅い。こんな寒い中待たせて」
「本当にごめん」
日向君はすぐに謝る。圧倒的に私が悪い場面でも、彼はすぐに『ごめんね』と優しく謝る。
「ウソ。ぜんぜん気にしてないよ。行こ?」
「うん……」
日向君は少し恥ずかしそうに視線を外した後、呟くようにそう言って私の隣に並んだ。
駅前。クリスマスというだけあって人が多い。だから必然的に、日向君との距離が近くなる。そんな絶妙な距離を保ったまま歩いていると、不意に彼の左手が私の右手にぶつかった。ちらりと横目で日向君の表情を伺うと、彼の顔はケーキに乗ったイチゴみたいに真っ赤に染まっていた。私は、そんな純粋な彼を見てつい吹き出しそうになるのをなんとか堪えて、何でもなかったように歩き続けた。
時間は流れて、空が真っ暗になった。さっきまであんなに真っ白だった雪は、車のヘッドライトに照らされて少しオレンジ色にキラキラと輝いている。
足元の雪から少し視線を上げると、今度は雪が赤や黄色、緑や青色に色を変えているところがあった。更に視線を上げると、雪に色をつけるものの正体が姿を現した。
「綺麗……」
頭にポンと浮かんだ言葉を、真っ白な息とともに素直に外に吐き出した。目の前で色とりどりの花をつける樹木や、可愛らしいサンタクロースやトナカイに、完全に心を奪われてしまった。
「そうだね」
背後から聞こえてきた日向君の声に振り返ると、カシャッという音が彼の手に握られた端末から聞こえてきた。
「いま撮ったでしょ?」
「と、撮ってないよ……」
明らかに慌てた様子の日向君。絶対に撮られている。それは分かっているけれど、
「そっか。勘違いか……」
私はわざと彼を見逃した。そしてまた、彼に背中を向けて一人で歩き出した。背後からは、彼の安堵のため息と小さく息を漏らすしあわせ音が聞こえてきた。
「ほんと、綺麗だね」
「そうだね」
日向君と二人でこのイルミネーションを見ているときだけは、周りの雑音なんて私の耳には届かなかった。
家族以外の人と初めて過ごしたクリスマス。
――これはこれで悪くないな
私は、隣で微笑む日向君と美しいイルミネーションを見てそう思った。
「今年は独りぼっちかな……」
私は机の上にある、イルミネーションとピンボケしてぼんやりと見える彼の背中が写された写真を見て、小さくそう零した。
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