第7話「天の導き」
「たっだいまー…って誰もいないんだけどね」
自分の下宿先アパートに帰宅して一人突っ込みをする潤。
夜のバイトを終えて疲れていた潤は、そのままベッドに横になった。
「しかし、あの彰が天才ねぇ…」
彰が走り去った後、俺は学食で孝弘と話を続けていた。
孝弘の言うことが本当に起きた場合、倫理観とでもいうのか気になることがあったからだ。
それは、胎児の魂を伯父さんが横取りしてしまうケースだ。
その場合、伯父さんは意識を取り戻すかもしれないが、魂のない胎児はどうなるんだろう?
産まれてきたとしてどう育つんだろう?…と。そんな危惧が俺にはあった。
そのことを孝弘に話すと、
「たしかにその可能性はあるだろうね。ぼくも真っ先にそのケースが浮かんだ」
と孝弘も同じ考えを持っていたようだ。
ただ孝弘には俺とは違う別の確信のようなものがあった。
「潤。天才にはね…必ず天が味方するんだ。不思議と凡人が考えるような不都合なんてそこには訪れないんだ。そうなることが当然だと思っている。確信している。これが凡人との違いなんだ」
あれだけ計算高い孝弘が楽観的というかなんというか…そんなことを言うとは思いもしなかった。
(ま、孝弘がそう言うんなら…大丈夫なのかな…)
そうやってモヤモヤしている自分の気持ちをなだめながら目を閉じていると、1通のメッセージがスマホに届いた。
『伯父さんの意識が戻った!伯父さんにも胎児にも光が入った!二人ともありがとー! 彰』
(胎児にも!?)
俺は思わずベッドから跳ね起きた。
気持ちはすこぶる晴れやかになり、なぜか目が潤んでいた。と同時にハッと理解した。
(天才にはね…必ず天が味方するんだ。不思議と凡人が考えるような不都合なんてそこには訪れないんだ)
孝弘の言葉が頭に響く。
彰は走り去るあの時にはもう、こういう結果を見ていたのか、と。
だから笑って走り去った。だからこそあの笑顔だった、と。
ぐるぐるとあの時の状況が潤の頭を巡っていく。
その浮かぶ記憶の中から、彰を送り出すときの孝弘の表情が鮮明に見える。
戸惑いから安堵に変わるような、あの不思議な笑みを。
(そうか…孝弘はあの時、この彰の楽観的とも言える強い想いに気付いたのか…)
「はは…はははは、そういうことか~。でもやっぱ…お前も十分天才だと思うぜ、孝弘」
潤は嬉しそうに笑いながら彰にメッセージを返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます