光の器
ノンちょろた
第1話「無用の力」
11月29日 金曜日 晴れ。
(今日もぼんやりと光っている)
街中に繰り出していた彰は、行き交う人々を眺めてそう思った。
右手に持っているスマホの時刻は10:24を示している。
(今日の講義は午後からだったよな…)
そんなことを考えながら、遅い朝食を取るための店を探すために頭を右へ左へとせわしく動かす。
どうも僕の目には、他人には見えないものが映っているらしい。特殊な眼力とでも言うのだろうか。
だけどファンタジーなどによくある、かっこよくて、すごく役に立って、世界まで救ってしまう!
…というような優れたものではない。
ただぼんやりとした光が見えるだけだ。
いつから見えるようになったかは正確に覚えていない。
でも幼稚園の頃からは見えるようになっていた。
その光は、常に人の頭にくっついている。
最初はその光が一体何のかわからなかったが、大人になるにつれ、それは俗に言う「魂」というものではないか?と思うようになった。
なぜそう思うようになったかというと、街中で妊婦さんを見た時、その光がお腹にもあったからだ。
でも、たまにお腹に光がない妊婦さんも見かけることがあった。
不思議に思い、僕はネットで少し調べてみた。
するとどうやら妊婦さんには「胎動」という時期が訪れるらしい。
「胎動とは、ママのおなかの中で赤ちゃんが動くことをいいます」
そういう記事がたくさん出てきた。
なるほど聞いたことがある。赤ちゃんがお腹を蹴った、とか妊婦さんが言うあれのことか。
それからは、僕の見ている光はおそらく「魂」というものなんだろう、と確信とも言えるくらい強く思うようになった。
だけど繰り返すが、別に世界を救えるようなすごい能力ではない。
だって、ただぼんやりと光が見えるだけだしね。
:
(ブブッ…)
牛丼のチェーン店で食事を終えると同時に僕のポケットにあるスマホが振動した。
どうやら誰かがメッセージを送ってきたようだ。
「これから伯父さんのところに行くけど、あんたもたまには顔出しなさい。伯父さんもきっと喜ぶわよ」
母からだった。軽い溜息が出た。
伯父さんとは母の兄のことだ。
伯父さんには小さい時によく遊んでもらった。とても優しい人だったので、別に嫌いというわけではない。むしろ好きな方だ。
なぜ過去形なのかと言うと、伯父さんとは会うことはできても、遊ぶことはおろか、話すこともできないからだ。
「遷延性意識障害」
難しい病名だが、よく知られている言葉に置き換えると「植物状態」というものらしい。
自発呼吸があり、脳波も見られる。だけど意識が回復しない。
自分の好きだった人が、なす術もなくベッドにただ横たわる姿を見に行くということに、僕は正直あまり気乗りはしなかった。
しかし、その人の傍で直に話しかけることで意識が回復する可能性もある、とのことだった。
確かにそういうこともあるかも知れない。俗に言う奇跡というやつが。
その可能性というものが「ある」ことも「ない」ことも証明することは誰にもできないんだから、希望を持つことは別に悪いことじゃないとは思う。
でも僕には「ない」ということが何となくわかっていた。
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