Four color theorem

@taihuuuuuun

2065年 10月3日

光を見た。

闇を見た。

金を見た。

女を見た。

塵を見て、

吐瀉物を見た。

傷ついてる人を見て、

傷つける人を見た。

そうして、静かに座った。


日本、東京。

その中の、小さな小さな町の、大きな大きなビルの横で、私は座っている。

誰かを待っているのではない。むしろ誰かと別れたくないから座っているのだ。

名前も知らない、年齢も知らない、家族構成も、家も、お互いに何も知らない誰かと。

「じゃあ、今日は解散するから~、終わりに花火たこーぜ」

と、この場を仕切る誰かが言う。

少しの沈黙が私たちの中で流れた後、誰かが

「サンセー」

と言った。

祖の言葉が流れを作ったのか、次々と

「うちもー」

「俺もー」

と、声が飛び交った。

「よっしゃ、一発打ち上げっか!と、その前に、、、」

その言葉が小さくなった瞬間、地面に火花が散った。

私たちは少し驚き、飛びのいた。

よく見てみると、ねずみ花火が走り回っていた。

赤い火花を散らしながら、走っていた。

次々と、誰かがねずみ花火に火をつけていく。

私の番が回ってきた。

私は静かに花火に火をともした。

火花が美しく舞った。

しばらくねずみ花火に見とれていたら、空から爆発音がした。

私たちの中の誰かが、花火を打ち上げたのだ。

もちろん夏に見られるような花火ではなく、そのあたりの店で売っているような子供だましの代物だが。

それでも、私たちの心を動かすのには十分だった。

次から次へと、東京のまばゆい夜空に、ちっぽけな花火が吸い込まれてゆく。

きゃあきゃあと、誰かが騒いでいた。

うわあうわあと誰かが驚いていた。

やったやったと誰かが喜んでいた。

その時だった。

遠くから、やかましいサイレンの音とけたたましいメガホンを使った声が、聞こえてきた。

私たちはとっさに逃げ出した。

「また会おう」

そう叫びあって。


2065年、世界は平等になった。

生まれや育ち、容姿で差別されることは完全になくなった。

社会的弱者には徹底した救いの手が差し伸べられ、いまや貧困者は全人類の0.01%未満になったともいわれている。

学校や会社、インフラ設備などはかつて発展途上国と言われた国々にもいきわたり、世界のどこに行っても、PCがあり郵便は即日配達で届き、蛇口をひねれば大量の水が出てくる。

そんな世界になった。

しかし、格差は広まった。

すべての人類が、世界というコースで人生というレースを始めたので、競争は激化する一方だった。

さらに、電子機器が発達し、全てがコンピュータの中で行われるようになった。

娯楽はおろか、学問、音楽、絵画、ファッション、生活、果てはスポーツまでもが、1と0だけの二進数で表されることとなった。

しかも、それらの情報は、誰もがいつでも見れるようになっている。

それで、絶望するのだ。

「何故、自分は持っていないのだろう」と。

自分より幼いのに、自分よりも成功している人の、生活が見れる。

今大成功をしている有名人が、自分と同い年の時、どんなことをしていたかが分かる。

これから成功しそうな人の、顔が分かる。

自分よりも頭脳明晰で、顔がよく、性格もよい人の笑顔が見れる。

確かに探せば、自分よりも下の人間はいるかもしれない。

しかし、それを考えたら終わりだと思って、死ぬ気で努力し、死んでも努力を続け、

上った先には、まだまだ自分は途中にしか過ぎないことを簡単に思い知らされる。

そうして、絶望する。

あきらめてしまう。

今、この世界には、貧困や飢えで苦しんでいる人々はいない。

だが、自殺者は増え、事件の件数は右肩上がり。

人間間でのトラブルは絶えない。

さらには、競争をあきらめたものが増加傾向にある。

競争をあきらめる、それ即ち無意味に生きてゆくこと。

何にも頑張らず、何にも打ち込まず、何にも触れない。

そうすることで、己の奥深くにある自尊心に似た何かを守る。

そうやって、生きる。

今の私がそうだ。    







   

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