終章 余韻
―― 1 ――
「つ、」
至近距離で炊かれた強烈な閃光に、開いたばかりの油断していた両目を焼かれる。思わず腕で庇ったけれど、手遅れだったらしく奪われた視力が戻るのに時間を要した。痛みを伴う白の中で、現実が少しずつ像を結ぶのを待つ。
昼休みの3年C組の教室。
僕の机の周りには、小さな人だかりができていた。
「ちょっと、
「私たち、今日までみんなで勉強して頑張って作ったんです。どうしたらメッセージを上に載せられるかなって何度も工夫してみたりして」
「うんうん」
机の上にはデコレーションの施された色とりどりのケーキが所狭しと置かれていた。
一個じゃない。メッセージカードと蝋燭が一つずつ立てられて、全部で十八個。
「随分、力作だね……」
「伝えたいことが多すぎて! 結局こうなりました! 全部、召し上がってください!」
「それはちょっと難しそうだけど。気持ちは嬉しいよ。一個はいただくから、あとは教室のみんなに分けてもいいかな? もちろん君たちにも」
威勢のいい返事が返ってきて、僕はほっと胸を撫で下ろす。
旧校舎での一件から、いや、それまでのことも含めた一連の事件から二週間が経っていた。
月が変わって、気候が変わって、昼間でも随分肌寒くなってきている。先週から制服も、長袖の冬服に変わった。男女同じデザインの紺のブレザーが教室の印象を大きく変えている。
当時はそれなりに学園を賑やかした事件の噂も、もうほとんど話題にする人はいない。それはきっといいことだ。忘れずにいるのは、僕ら当事者だけでいいのだから。
あれから三日ほど、僕は目を覚まさなかった。
だから僕の知る事の顛末は、後から
少し、不安になる噂を耳に挟んだ。
なんでも、見つからなかったらしい――首だけが。
それが何を示しているのか僕にはわからなかったし、わかる必要も無かったし、これからもわかることはないだろう。ただずっと、その事実が頭を巡っている、というだけ。
ほんの少し、不吉な予感がするだけだ。
開帝通信の刊行は今も続いている。
僕は
小袖咲依は抜け目ない。彼女が三年間で作り上げた新聞部という組織は、その長を失っても驚くほど機能を損なわずに成立していた。何やら小袖さんの秘蔵っ子であった二年生の新部長が今は彼女の代わりに全てを回しているらしい。
小袖咲依の代替となりうる後輩、というなんとも力のある言葉は僕にとって十分に恐怖の対象だった。できれば出会わずに、静かに残りの学園生活を送りたいものだ。
「先輩が食べるのは、もちろん私が作ったケーキですよね!」
「うんうん」
「でもこちらの方が見た目もいいし、櫂先輩に似合うと思います」
「うんうん」
静かに学園生活を、送りたいんだけど。
「ありがとう。それならどちらもいただくよ。ただごめん約束があるんだ。両方とも預かるね」
「あ、ちょっとせんぱーい!」
僕は両手にケーキを持って、逃げるように席を後にした。
昼休みはまだ半分、少し待たせているだろうけど、お土産で機嫌を取ることにしよう。
そんなふうに考えて、歩きながら手元のケーキに視線を落とした。
『二千年前から愛しています。先輩』
『お嫁にしてください。櫂へ』
「………………」
あの子たちには悪いけど、メッセージカードだけは先に食べてしまおうか。
ため息を一つ廊下に溶かして、僕は屋上への道を急いだ。
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