第42話:俺のことをどう思ってるのかな?

「俺は美玖が本気で好きだからぁっっ!!」

「翔也……くん……」


 突然美玖の両目から、涙がぶわっと溢れ出した。 え、え、え?


 これ、どういう涙?

 美玖は喜んでる? 悲しんでる?


「あの……美玖は俺のことをどう思ってるのかな?」


 俺の告白をどう受け止めたのか。

 心配で不安で頭がくらくらする。


「あのね翔也君。私、何日か前にお姉ちゃんにがんばれって励まされたのですよ」


 何を?


「でもなかなか勇気が出なくて、今日も一日中ずっと悩んでいたのです」

「そうなのか……」


 なんのことかわからないけど。


「でもやっぱり私には無理だなぁって諦めていたのです」

「えっと……何をかな?」

「私の気持ちを翔也君に伝えることをです」

「そう……なんだ」

「私も……翔也君が好きです」

「えっ……? ホントに?」

「はい」

「えっと……緑川は?」

「緑川君なんて存在しません」


 存在しません?

 どういうこと?


「あ、えっと……ホントはあの時、『みどうくん』と言いたかったのです」

「ホントに!?」

「はい」


 美玖は顔を真っ赤にして俯いてる。

 恥ずかしすぎて俺の顔をまったく見れない感じ。

 可愛すぎる。どうしたらいいんだ。

 いきなり抱きしめてしまいそうだ。


 それにしても、俺ってバカだ。

 美玖には他に好きな人がいるって勘違いして、ずっと自分の気持ちを抑えてたなんて。


「翔也君……」

「ん? なに?」


 美玖が顔を上げた。

 真っ赤に火照る顔に、目には涙が浮かんでる。


「こんな地味でブスな私なんかが、あなたを好きでごめんなさい」

「なに謝ってんだよ。美玖が俺を好きでいてくれてよかった。美玖は可愛い。すっごく可愛い。自信を持て」

「翔也君はずっとそう言って、私を励ましてくれました。ホントにありがとうございます」

「励ましたんじゃなくて、ホントにそう思ってるんだよ。顔はもちろんだけど、性格も言動も、そのすべてが可愛い。可愛すぎて、俺、どうしたらいいのかわからないくらい大好きだ」


 俺の言葉を聞いて、美玖は少し微笑んだ。

 良かった。わかってくれたんだ。


「ホントですか?」

「ああ、ホントだ」

「おっぱいよりも私が好きですか?」

「いや、おっぱいも込みで美玖が好きだ……って何言わせんだよ!」

「ふふふ、そうですか。ありがとうございます」


 おっぱいより私って、その選択肢おかしいだろ!

 でもこういう真剣なんだか冗談なんだか、よくわからないアホなこと言うのも美玖の可愛いとこなんだよなぁ。


 ヤバ。俺、美玖が可愛いか好きしか言ってない。

 語彙力崩壊してる。


「あ、翔也君。ずっと立ってるのもなんなので、座りましょうか」

「あ、そうだね」


 床の座布団に二人で座る。

 そしてどちらからともなく、今まであった出来事なんかを話し始めた。


 ウチのカフェに美玖が初めて来たのは偶然だったこと。でもそこが俺の実家の店だと知って、俺に会うために毎週来てたこと。

 そんなことを美玖は話してくれた。


 俺の方は、美玖のエッチな小説を偶然見てしまった日から、ずっと美玖を可愛いと思ってたことを打ち明けた。


 愛洲あいすさんのことは、こんなふうに言っておいた。


「さっきお姉さんと顔を合わせた時にさ。『美玖のことを大切にしてくれ。決して軽々しく行動はしないように』って言われたよ。美玖はお姉さんに愛されてるな」


 美玖はちょっと驚いたけど納得してくれた。


 よく考えたら、始めからこんなふうに説明しとけばよかったのかもしれない。


 他にも色々、あんなことあったよね、こんなことあったよねなんて会話を交わす。

 そんな何げない会話が楽しい。


 時々ドアのところが気になってチラリと見るが、愛洲さんが覗いてる様子はない。

 ドアの向こうで耳をそば立ててる可能性は否定できないが。


 なにはともあれこの日俺と美玖は、『恋人ごっこ』から『ホントの恋人』にバージョンアップした。 




***


 それから数日が経った。

 学校では俺と美玖が付き合い始めたことは、もちろん誰にも言ってない。

 ただ一人、親友の遊助を除いては。


「堅田さんは見る目があるよ」


 遊助はびっくりしながらも、温かく祝福してくれた。


 教室では俺と美玖の距離感は今までと変わらないけど、放課後の部室では恋人同士の時間を過ごすことができる。


 だけど不思議なもので、美玖は以前のようにエッチに迫ってきていない。それどころか恥ずかしそうな態度を見せることが多い。 


 本物の恋人同士になったらすぐに先へと進もうとするかと思ったら、かえって恥ずかしいみたいだ。

 それと、より大切に二人の関係を育てていきたいという思いもあるのかもしれない。


 それは俺も同じだ。


「翔也君。明後日の日曜日、ウチに遊びに来ませんか?」


 金曜日の部室で美玖が言った。


「お姉ちゃんが、ぜひ翔也君にちゃんと挨拶しときたいって言ってるのです」


 それはなんともまあ、恐ろしい話だ。

 でもそんなことを美玖に言うわけにもいかない。

 それに断ったりしたら、きっと愛洲あいすさんからクレームの電話がかかってくるだろう。


「うん、いいよ」


 何げなく答えたけれども、もしかしたら俺の顔は引きつっていたかもしれない。

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