20
「何も楽しい事が無い」
築希の言っていた口癖が今の僕には良く分かる。
目標というか、夢や希望、何も無いから余計に気分が滅入る。
生き甲斐みたいなもんが無いから虚無感が襲ってくる。
だが、それも終わりかも知れない。
相変わらず微動だにしない宇宙人さんだが、僕は少し浮き足だっている。
先ほど聞こえたのは、きっとこの宇宙人さんだ。
幻聴なんかじゃ無いはずだ。
意志疎通もあるが、僕の思考から読みとって発せられた言葉だと思う。
それだと、今はまだ思い浮かばないが、会話?に似たコミュニケーションも取れるのではないかと推測する。
退屈で当たり障りの無い毎日に終止符を打つ事が出来るかも知れない。
この出会いが運がいいのか、それとも悪いのか?
それこそどっちでも良い。
答えの出ない自問自答だけど、それが少し楽しく感じる。
「愛子を殺したのはあなた様ですか?」
僕は尋ねるが答えない宇宙人さん。
偶然にしろ、宇宙人さんの仕業にしろ、僕にはどっちでも良かった。
呪縛から解き放たれたこの解放感。
愛子に対しての愛情は少なからずあった。
だけど、なのに、どうして、そんなにショックを受けていない自分が怖い。
年を重ねればお互い老けていく。
それは当たり前の事だが、それに伴い、なぁなぁで過ごす日々を想像するだけで気が滅入る。
婆ちゃんが亡くなった時は悲しかったのに、時が経ち、法事になると面倒くさいという気持ちの方が強くなった。
それと同じような、近いような感覚。
赤の他人に対する共感性が欠落しているんだと思う。
感動系のお涙頂戴映画を観てて笑ってしまう様な自分がいる。
ここで泣かせにきてるんだなとか冷静になってしまう。
そんな映画の俳優が、鬼気迫る様な必死な演技を見てると堪えきれない笑みが出てしまう。
人間としてひねくれを拗らせている。
自分の、その咎めようのない性格が気持ち悪い。
普通でありたい。
皆と同じ様に共感したい。
深く考えずに平穏な日々を送りたいと願う反面、代わり映えのしない毎日が息苦しい。
築希が自殺したのも、僕と同じ様に生きている事に楽しさを見出だせなかったからだと思う。
宇宙人さんが僕のアパートへやって来たのが偶然であろうが理由があろうが、どっちでも良かった。
この平穏で平凡な毎日に止めを刺したい。
僕は宇宙人さんの正面を向いて正座をした。
「あなたに何が出来ますか?」
真顔でそう尋ねた。
返事は無い。
それは分かっていた。
それでも僕は再び尋ねた。
「あなたには何が出来るんですか?」
暫くの沈黙。
人形を相手に独り言を言ってる気分だ。
「あなたになー・・・」
『お前の希望通り』
遮り、宇宙人が答えた。
いや、宇宙人さんが答えてくれた。
やはり幻聴なんかじゃ無かった。
口は動いていないが、はっきりと至近距離で聞こえた。
てか、そもそも口なんか無いが、そんな事より意志疎通が出来るのが嬉しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます