第118話 黒い石

 ゲートをくぐり抜け、王都ペタルに来たのは私ことサクラとカトレアちゃんの二人だ。アニエス王国に行く前に物資を補給するため、一先ずルアードさんの所へ向かう。


「相変わらず繁盛してるね」

「ガチャとか他の店も真似してるのに何が違うのかしら」


 それは私の入れ知恵が関係してると思う。と言っても価格とラインナップの決め方と、ガチャ限定の品物を作る。とか、転売されないようにするための工夫とか、期間限定ものを作るとかの助言をしただけだけどね。


「おいおい、人前で秘密を暴露しないでくれよ? アドバイザーさん?」

「ルアードさん久しぶり。儲かってる?」

「おう! お陰様でな。働き者の二人に抜けられたのはちと痛いが何とか回せているぞ」


 働き者の二人というとミーヤとチコのことだよね? 次は二人のお店に顔だすかな。


「で、今日はどうした? 何か思いついたか? それとも買い物?」

「今日は買い物だよ。ちょっと長めの旅に出ることになりそうだから買い占めをしようと思ってね」


 お金は学園生活の時にも大量に貰っているし、魔王の脅威を無くし、戦争を回避した報酬も陛下から貰っているため今の私は大金持ちだ。お店の端から端までなんて大人買いも出来ると思う。ふはははは。


「ま、サクラの冗談は置いておいて調味料を一式ちょうだい。念の為水を出す魔道具と少し食料も貰おうかしら」

「カトレアの嬢ちゃんも苦労してそうだな……。だが旅に出るには少なくないか? 光を出す魔道具やら加熱用の魔道具やらは要らないのか?」


 私が全てまかなえますよ? 魔力も多いしどんな魔法もどんと来い!


「そこは便利なエルフが居るから」

「そうか……。サクラみたいなのが多いと商売にならなくなるな」

「ま、サクラ以外にはできない芸当だから気にしなくていいわ」

「そうだな」


 カトレアちゃんとルアードさんがお話している間にお店の人が品物を一式持ってきた。どれどれ?


「少し多くない?」

「おう、二人はお得意様だからな。ミーヤ達の所に浮気されないようにサービスだ」

「えぇ? 少し畑が違うから浮気も何もないと思うんだけど……」

「ま、今はそうなんだが……。二人とも思っていた以上に才能があってな? 油断してるとこっちの客が食われちまう」


 そっかそっか。私が学園時代に二人を鍛えたかいがあったね。


「もしやサクラお前……「じゃ、荷物受け取ったしそろそろ行くね!」」

「おい、話は……「じゃーねー!」」


 何かに気付いたらしきルアードさんの元から離脱する。いやー、勘のいい人は嫌いだよ。


 ため息ついてるカトレアちゃんを連れてミーヤ達の店に行く。二人の店ではチコが金属製品を加工してミーヤが魔法を付与した物を売っている。鍋やフライパン等の一般品から剣刀などの魔法武具、更にはミーヤがお巫山戯で作った用途の分からない魔道具まで二人しか居ないのに幅広く手を出している。


「おっと? 次の獲物が来たでー!」

「カトレアちゃんにサクラちゃんだ! いらっしゃい!」


 ミーヤ……。その挨拶は知り合い以外にしちゃダメだよ? ……してないよね?


「二人とも久しぶり。順調みたいね」


 カトレアちゃんの言う通りまばらではあるけど客は来ている。……客がいる時に次の獲物なんて言ったの? 周りの客は……ええ? なんかほっこりしてない? なんとも思ってないの?


「ミーヤちゃんの人柄だね! みんないい人なの!」


 私が驚いている事に気付いたチコが教えてくれた。今客として来ている人達は学園祭で二人の店に顔を出したことがある人が多く、みんなミーヤの性格を把握してるらしい。


「ちなみに今日のオススメは?」

「今日はどれも駄作かな?」

「……それはダメじゃない?」


二人のお店の客層は大きく二つに分かれていて、片方は一般品や武具を求めている客層。もう片方はミーヤが作った魔道具が目当ての客だ。ミーヤの作る魔道具はどれも試作のようなもので、一品ものも多い。使用用途がよく分からないものも多く、失敗作も多いのにたまに大当たりがある為新種のガチャみたいな扱いをされているのだ。基本毎日ラインナップが変わるため毎日顔を出す客も多いのだとか。顔を出すついでに何か買う人も多く独立してからもずっと黒字経営を維持できているらしい。


「サクラ。これどう思う?」

「なになに? ……なにこれ?」

「うちらも分からんのや。前に道端に落っこちてたのを発見してな。そのままにしとくと危ない思うてハカセはんに封印して貰ったんや」


 カトレアちゃんがミーヤに見せてもらっていたのは禍々しい石のようなものが箱の中に入っている物だった。箱は上面が透明の為中が確認できるけど置いてあっても買おうとは誰も思わないだろう。


「サクラはんは何とかできひんかな? いくらハカセはんが作った箱で封印されとるとはいえずっと持っとるの嫌なんや」

「そうだね……」


 そりゃあこんな禍々しい石は持っていたく無いだろう。捨てても呪われそうだし処分もできずに悩んでいたみたい。とりあえず光の魔法を使ってみよう。…………効いてないね。天の魔法で魔力の流れを感知して分析できるかな? ……いや、全然分かんない。


「とりあえず預かっておくよ。なんとかできるかは分かんないけど……」

「押し付けたみたいになってもうてすまんな。よろしく頼むわ」

「ううん。大丈夫だよ」


 一先ず時の魔法で封印している箱ごと時を止める。そして空の魔法でストレージを開きその中に入れておく。……他のものに混ぜてアイテムボックスの中には入れたくないからね。ストレージの魔法はアイテムボックスと違い容量制限があるけど、ゴミや汚いものなど、アイテムボックスに一緒に入れたくない時に使っている。いや本当は一緒に入れても問題ないけど気持ち的にね……。


 ミーヤとチコの店を冷やかしたら一度王宮に顔を出し、陛下や殿下と少しお話をした。最初、そんな予定は無かったんだけどミーヤから受け取った石について報告するために仕方なく行くことになった。ジークに聞いてみても心当たりは無いらしく、結局私が持ったまま王都を出発することになった。


 急に王宮に行って陛下に会えるのかって? もちろん顔パスですよ。今は旅に出ていても神霊との契約者だからね。

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