第116話 小さな龍のレクイエム

「えー、コホン。私がこの世界の創造神よ! 名前はオリジン・シアン。オリディアと呼んでね!」


 私の呆れた視線を受けて目を逸らしつつもビシッと決めている女性は私の母さまだ。ちょっと私達子供への愛が重いけど普段はしっかりしているアビスフィアの創造神でもあるね。


 母さまがサクラに礼を言ったと思ったら愚痴が始まった。……あれ? 私も初めて聞いた情報があったよ? 私が死んだら世界が滅びる!? え、過去の世界は私が死んだ後にアービシアが滅ぼしてたわけじゃないの? あれ? あの紙はどういう意味? 私が死んで……いや、私達の内誰か一人でも死ぬと世界が崩壊するならアービシアは大罪の欠片を集められないはず……。でも確かに残り一つだって書いてあったよね? 頭の中が混んがらがる。なるべく早く過去の世界に行かないとだね……。


 私が混乱している間に話が進み、アービシアが母さまの弟であることがサクラに伝わった。はっ! そういえば私とサクラは従姉妹ってことだね! くふふ。お姉ちゃんって呼んで良いんだよ?

 そしてそのままアビスフィアの創造話が始まり、大罪の欠片を私達に振り分けたことが語られた。私は過去の世界で聞いていたから知ってるけどサクラは驚いている。私に怠惰がスキルとして残ってしまったことにサクラが怒り、母さまが謝ってきた。確かに私が暴走する原因だったし、思い出すと辛いこともあるけどそこまで気にしてる訳では無い。だって……そのおかげで特別な人達サクラと龍馬に出会えたからね!


 私達神霊が死ぬと世界が滅びる説明の後、世界の繰り返しについての説明が始まる。


「実は世界の巻き戻しもね、ノーリスクじゃないのよ。一度巻き戻す度に世界の耐久値みたいなものが減っていってね。この世界が耐えきれるのが七回までだったの。今回でセレスちゃんを救えなかったら世界ごと創り直す必要があったから間に合ってくれて良かったわ」


 …………なんですと? 私が世界を滅ぼしたのが1周目だとすると、今回が既に八周目……。もしかしてアビス・シアンの言っているあと一つって、欠片のことじゃない? 世界が崩壊して再構築される間に抜け出せばアビス・シアンが復活する……? さすがに母さんさまがそんなこと許さないよね?


 この後もどんどん話は進み、ご褒美の話になる。


「何のご褒美が欲しい? 日本に戻る?」

「え……?」

「いやー、サクラちゃんの魂を勝手に連れてきちゃったからね! 無事にセレスちゃんもこの世界も救われたからこっちはもう大丈夫なの。あ、勘違いしないでね、絶対に帰らなきゃ行けないってわけでも帰って欲しいってわけでも無いのよ? サクラちゃんの好きにするといいわ。ただ、申し訳無いけど今決めてね?」

「今……決めなきゃいけないの?」

「ええ、私が力を貸せるのは試練を突破した今だけだもの」


 ……!! ちょっと待って!! そんなこと考えても無かった! サクラが日本に帰る? そしたらこの世界は…………。いや、サクラが帰りたいなら邪魔しちゃダメだ! でも、私が過去の世界から帰ってきてもサクラは居ないってこと? この後もずっと一緒に居られないってこと? やだな……。せっかく死なずに済んだのに……。遊ぶ時間もいっぱいあると思ってたのに……。

 黙ってサクラが結論を出すのを待つ。サクラは一度私を見ると母さまと向き合う。


「私は残ります。そもそも今の私なら自力で地球にも行けそうだから」


 やった! やったよ!! 嬉しいね!! サクラが残ってくれるって! むむむ? そうしたらご褒美は何を貰うのかな? ……? なんでそんなことを? 勿体ないと思うんだけど……。


 さて、最初はサクラの故郷まで着いてから旅に出るつもりだったけど気になることも多いしもう旅立とうかな。過去のアービシアの動きも早めに把握して対処したいよね。人の形態になってサクラに声をかける。


「サクラ……」

「どうしたの? ……もう行くんだね」

「うん」


 私の決意が伝わったのかな? やっぱりサクラは私の事をよく分かってるね!


「あの日から僕にとってここが特別な場所になったから。世界を渡って贖罪が終わった後に帰ってきやすいと思うんだ」


 過去の世界の記憶を思い出した場所。サクラに救われた場所。そして、龍馬と会った記憶を思い出した場所。


「そっか……」

「帰って来た時にはサクラのパートナーとして相応しい。サクラに負けないくらい素敵な神霊として帰ってくるからね!」


 すごい速度で成長していくサクラに置いて行かれないように。私の命を助け、知らず知らずの内に世界をも救ってしまう。そんなサクラに相応しいパートナーとなれるように。まずは過去の私の罪を清算して、そして……サクラにも手伝いをしてもらうかもしれないけど、アービシアから世界を守る。そしたら世界を救ったもの同士、最強のタッグになれるよね?


「うん。私も負けないよ!」


 一度ハグをしてから鎮魂歌レクイエムを使う。スキルを使うと徐々にサクラの姿がかすれていく。


 ―またね―


 そう一言。サクラに聞こえていたかは分からない。けど、聞こえていなくても大丈夫。きっと伝わってるはずだから。


 ―――


 目の前の景色が変わる。目の前には雲をも貫く大木がある。


「ここは……半年前、最後に龍馬と会った場所だね」


 前と違うのは木の横に小さな……木が大きすぎて小さく見えるけど大きいね。大きな屋敷があり、庭に小さな湖ができている。誰か住み着いたのかな?

 ふと後ろを振り向く。するとびっくりした表情の龍馬が私の真後ろにいた。ふふん! 驚かせようって思ってもお見通しなんだからね!


「ち、ばれてたか」

「龍馬は単純だからね! 私には手に取るように分かったよ!」

「そうかそうか」


 ふっ。と笑いつつ私の頭を撫でる龍馬。ちょっと? 信じてないね? 本当に分かったんだからね!? だから頭を撫でて誤魔化さないで! え? 止めるのはダメ!


「まったく、体は成長しても中身は変わらないな」

「むぅ。成長してるもん」

「そういうことにしておくよ。レディ? エスコートは必要ですか?」


 そういうとこ! そういうところだよ龍馬!! 顔が熱くなって思わずそっぽを向く。別に照れてなんていないんだからね! 平静を装って返事をする。


「お、おにゃがいしま……」

「ぷっ」


 うにゃああぁああ!! 噛んじゃった……。今の私は恥ずかしくて顔が真っ赤になってると思う。笑わないで? 恥ずかしくて死んじゃうから! 私はレディなんだよ? 男の人は気付かないふりしないとダメでしょう??


「笑った笑った。それでこそセレスだよな」

「むぅぅ」

「ほれほれ、膨れるな。過去の世界を助けに行くんだろう? 忘れ物はないか?」

「うn…………あ! レオンに言伝忘れてた……」

「セレス……」


 ジト目止めて! 心に来る! 今日ここに来てからずっとポンコツなんだけど? どうしたの私!!


「ま、俺の力を貸すか。どうせなら狐の嬢ちゃんにもプレゼントを渡しておけよ。その様子だと思い立ったが吉日みたいに挨拶せずにこっち来たんだろう?」

「うぐっ」


 私がポンコツなのはここに来てからじゃなくて今日ずっとだったみたい。ぐぬぬ。


「ま、ここの空間に来たら急いでも急がなくても決まった時間帯に出るんだ。ゆっくり行こうぜ?」

「私この空間が何処かも分かってないんだけど?」

「気にすんな。ほれ行くぞ」


 龍馬にせっつかれて歩き出す。


「どこ行くの?」

「あ? レオンの所だろう? 俺はその間に野暮用こなしておくから早く行ってこい」

「そうじゃなくて、どうやって移動するの?」


 どうやってこの空間から出るのか分からないんだけど? にやりと笑う龍馬に嫌な予感がする。


「決まってるだろう? 歌え。そのためにスキルを鎮魂歌にしたんだ」


 決まってないが? そんな話聞いてないが?


「ほれ、あの屋敷の近くにステージを用意したんだ。そこで歌ってくれ。俺は縁側で見守ってるから」


 い、いやだ。何の拷問だろうか。うぅぅ。龍馬に引き摺られて湖の前までくる。ここまで来たら仕方ない。腹を括って……何を歌うの? 私歌なんて歌ったこと無いよ? 笑ってないで教えて!


「ぷっくくく。冗談だ。行きたい世界を思い浮かべて湖に入るだけで良い。まずは練習にレオンの所からだな。間違えてもサクラの所に行くなよ? 恥ずかしい思いをするぞ?」


 龍馬のバカ! 性格悪くなってない!? もう十二分に恥ずかしい思いをしたんですけど? ジト目を送りつつも龍馬が差し出してくれた手を握る。


「さ、小さな龍を鎮めに行こうか」

「龍?」

「そ、セレス達の戦闘形態は俺達の世界に出てくる龍って生き物に似てるんだ。セレスは小さいから小さな龍だな」

「ふうん? なら私が使う鎮魂歌はさしずめ“小さな龍のレクイエム”ってとこかな?」

「お、そうだな。じゃ、レディ? 一緒に頑張りましょうね?」


 ウインクをしてくる龍馬に苦笑しつつスキルを発動する。


鎮魂歌レクイエム

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