第96話 真実の遺跡

 突然だけど魔の森にある遺跡に向かうことになったのは僕ことセレシアだよ。セレスって呼んでね! 正直あの遺跡に入るのはまだ早いと思うけど仕方ない。サクラのことは僕が守るよ!


 真実の遺跡……サクラ達が太古の遺跡と呼んでいるその遺跡に行くことになったのはとある魔族の情報の所為だ。パレードを襲撃してきた魔族から得られた情報の一つに真実の遺跡に多数の魔族が戦争の準備の拠点にしているといった情報があったらしい。そして、僕が怪我を癒してあげたサクラの父親が潜伏してるから捕まえに行くとのこと! サクラの父親はサクラを逆恨みしていて敵対していたらしい……。知ってたら助けなかったのに! 過ぎたことはどうしようもないから今度はしっかりと僕が捕まえるよ!

 それにしても真実の遺跡にサクラの敵が潜んでいるとは。むむむ。面倒なことにならないといいけど……。


 僕が寝ている間に遺跡に着いた。あれ? 遺跡に行くのは明日じゃないの?


「お前は一日寝てたんだよ」

「寝顔も可愛かったよ?」


 な、なんですと! 遺跡に入る前に起こしてくれて良かった。この遺跡にはお母さまが試練として設置したエピゴーネンの鏡があるから僕の複製体が出た瞬間全滅もありえるもんね。起きておかないと!


 サクラとライアスが遺跡の構造について話をしている。ちょくちょく僕が隠れている魔族の数を確認しつつ遺跡の奥へと進んでいく。ゆっくり進むのにしびれを切らしたライアスが二手に分かれるか提案するけどこの遺跡では愚策だよ? 少人数でいる時に僕とレオンの複製体に襲われたらどうするのさ。ふふん。さすがサクラだね。何があるか分かってなくても直感で少人数だと危険だって気付いてるみたい。


 少し進むとサクラが異変に気付く。


「セレス。今までつぶしてきた罠に魔力が込められたものってあった?」

「ないよ? それがどうしたの?」


 魔力を含んだ罠があっても真実の遺跡とエピゴーネンの鏡が二重で魔力を奪っていくから機能しないし普通だよね?


「気の所為ならいいんだけど……。ライアス、魔力が減った感覚はある?」

「ん? そういやいつもの魔法なのに少し魔力を多く消費する感じがするな。いわれないと気が付かない程度だし気にする必要はないだろ」


 楽観的なライアスに呆れていると後ろから魔族の集団が現れる。……うーん。なるべく分断されたくないし、僕も動くかな。僕は殿を買って出て、レオンに先頭に出てもらう。これで分断されても一人になるのは僕かレオンだ。二人ずつに分かれると複製体に挟み撃ちにされたときに守り切れないかもしれないけど僕かレオンが一人になる分には挟み撃ちにされても逃げられる。三人なら直ぐに死ぬことは無いと思うしこの配置が一番かな。


 サクラの指示で魔法の使用を極力減らして魔族を返り討ちにする。うんうん。良い判断だね! ん? なんで僕やレオンが指示を出したりエピゴーネンの鏡について教えたりしないのかって? これはお母さまの出した試練だからね。僕達は口出し厳禁なの。


 しまった! 魔族を迎撃しつつ考え事をしていたら壁が動くのに気付くのが遅れてしまった! 一人壁に阻まれて取り残される。むむむ。僕とレオンの複製体に襲われたら面倒だな。


「はぐれちゃった。向こうの三人は問題ないよね? それよりも僕の方もどうにかしないと」


 向こうはレオンがいるから大丈夫だと思う。後ろを向くと今まで追ってきていた魔族が集まってくる。


「どうしよっかな? とりあえず倒しちゃうかな。えいっ!」


 豊穣の神デメテルを使って魔族を一人残らず縛り上げる。植物から強酸を発生させてそのまま消滅させた。なになに? 逃げてる時にやれば良かったって? そ、そうだね。その通りだよ……。分断されないように意識を向けてたら気付かなかったの……。ポンコツ脳でごめんね? むぅぅぅぅ。サクラがいないから誰も励ましてくれない! さて、どうしよう。膨れてる場合じゃなかった。いつの間にか壁に取り囲まれてるよ……。


「壁は壊すと怒られちゃうし……」


 うんうんと唸っていると一か所道が開いた。……さすがに僕でも分かるよ!? 思いっきり罠だよね!? でも、他に道は……どうしよう。よし、困ったときはこれだね! 怠惰の大罪ベルフェゴール!!


「ふんふん。あっちの道に行くと良さそうだね。早くサクラと合流して褒めてもらおう!」


 ふっふっふ。さすが僕のスキルは優秀だね! あんなところに抜け道があるとは!!

 僕は一本道に見せかけた分岐路の内、隠されていた道を選んで進むことにした。


 ―――


 抜け道を見つけた僕はしばらく一本道を歩く。くふふ。敵の罠を掻い潜った今! サクラと合流できるのももうすぐだね! ルンルン気分で歩いていると少し前に木の実をあげた虫さんとばったり出会う。


「お久しぶりです。セレシア様」

「さ、さま?」

「ええ、セレシア様のおかげでわたくしの研究も進みましたし、敬意をこめてセレシア様とお呼びさせていただきます」


 器用にお辞儀する虫さんだ。……あれ? 僕名前を名乗ったっけ?


「いえいえ、セレシア様ほど有名な方は存じておりますとも」

「ふーん?」


 そっか、僕寝てばかりだから他の神霊達よりも知名度低いと思っていたけど虫にまで名前が知れ渡ってるんだ。ちょっと嬉しくて顔が緩む。くふふ。あ! そういえば!


「ちょっと! 僕があげた木の実を悪用しないでよね!」

「申し訳ございません。ちょっとした研究で管理ミスが起きてしまいまして。ふふふ」

「うーん?」


 そんなことあるのかな? まあいいか。すでに解決したことだし。


「わたくしはセレシア様の御心のままに動きますよ?」

「え? 気持ち悪い」

「ふふふ。傷つきますねぇ」


 どうしよう。知らない間に一度会っただけの虫さんに崇拝されていた件。怖い! サクラ! 助けて!


「冗談は半分ほどにしておいて、こちらへどうぞ」

「半分なの!? 全部冗談じゃないの!?」

「どうでしょう」


 その含み笑い止めて!? 怖いよ!? 行く当てもないから仕方なく付いて行く。どこに行くんだろう? どのみち一本道みたいだし他に行く場所無いけどさ!


 しばらく歩くと最深部にたどり着く。あれ? サクラ達はまだ来てないね?


「こちらの部屋へどうぞ」


 虫さんが明けた扉を通り部屋に入るとそこにはエピゴーネンの鏡が置いてあった。

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