第85話 卒業式

 セレスとの戦いを終え、約半年の月日が流れた。今日は七龍学園の卒業式だ。


「サクラ。急ぎなさい。遅刻するわよ!」

「ごめんごめん。寝癖が手強くて……」

「もう、言ってくれれば手伝うのに」

「えへへ、じゃあモフモフさせて?」

「なんでそうなるのよ!」


 そう言いつつも尻尾をモフモフさせてくれるカトレアちゃんはどんどんと感覚が麻痺していそうだな。と一人悪い笑みを浮かべるのは私ことサクラ・トレイルである。


「じゃ、行こうか! 急がないと遅刻しちゃうし!」

「誰のせいよ! だ れ の!」

「ダレノセイダロウネー」


 じゃれ合いつつも卒業式の会場に向かう。

 一年半の魔国での潜入を終え、今年の七月に私とライアスは復学した。私は頭が良いので一ヶ月もあれば他の人に追いつく事が出来たがライアスは最近になってようやく追いついたらしい。

 一人留年したら笑ってやったのに残念だ。


 私とライアスが復学した時期が遅かったせいで、私達の期の三龍生の選抜は揉めに揉めたらしい。

 私達が休学していなければ私、ライアス、シルビアの三人で確定なのに二人帰ってくる時期が分からなかったため、選ぶことができず、代理を立てようとしても、荷が重いと断られる始末だったと学園長に愚痴を言われた。


「相変わらず仲が良いのな」

「サクラさん? 卒業生としての自覚を持ってもう少し落ち着いた生活をするべきだと思いますわ?」

「でたな! 三龍生め!」


 卒業式の会場に着くと先に会場にいた二人が声をかけてきた。

 まさかのスティムとガーベラの二人が三龍生に収まったのだ。私達が復学した時に交代しようとしたらしいが私は面倒だったから、ライアスは勉強について行くのに精一杯だったから断った。


「もう始まるから静かにしてください」


 フューズ先生に注意されて静かにする。実はこの教授、私達が魔国に行ってる間にちゃんとし始めたらしい。正確にはシルビアが戦争の準備など、諸々の対応に追われたせいで授業も受ける暇がなく、フューズ先生がどうにかしないといけない状況に陥ったから仕方なくちゃんとし始めたとの事。


「今日は卒業式だ。学園での経験を糧にしてこれからの人生を過ごして欲しい。いいか諸君。卒業はゴールでは無い。学園での生活はとても、とっても濃いものだったかもしれない」


 学園長の話が始まる。みんなの前ではカッコイイ口調だなーと聞いていたら思いっきりこちらを見てきた。とりあえず手を振ってみると学園長はため息を吐いてから卒業生を見渡した。


「それでも学園での生活よりも卒業後の生活の方が長いのだ。何十倍、人によっては数百倍の期間、生きていく事になる。その中で苦しいこともあるだろう。辛いこともあるだろう。何か死にたくなる程の出来事が起こるかもしれない。それでも諸君らは生きていくんだ。長い長い人生、楽しんだもん勝ちだ。みんなは幸いな事にそんな人物に心当たりがあるだろう?」


 うんうん。私の母なんていつでも楽しそうにしている。


「サクラのことよね」

「サクラのことだろうな」


 カトレアちゃんとライアスの二人が何か話してるが静かにしろと言われたからか小声過ぎて聞こえない。


「真似しろとは言わん。無理だからな。でも、参考にしてみると良いかもしれんな。では、最後に諸君。卒業おめでとう。」


 無理とは言い過ぎでは無かろうか? 他の人が出来ることなら出来てもおかしくないだろう。

 周りに同意を求めようとしたが全員が学園長に同意していそうだ。……なんか仲間外れになったみたいで悲しい。


「仲間外れになんかしないわよ」


 カトレアちゃんが横からそう言ってきた。久しぶりに心を読まれた気がする。


 学園長が下がり、シルビアが登壇する。


「さて、突然ですが私が入学式で言った事を覚えていますか?」


 ガーベラだけは高速で頷いているが他の人は覚えていないようだ。もちろん私も覚えていない。


「ほとんどの方が覚えていないでしょうから簡単に説明しますね。大きく四つ。一つ、学園内は全員平等で過ごそう。二つ、家格に驕らず自らの武器を得ること。三つ、七つある科を越えて手を取り合い成長しよう。そして四つ、魔物が活性化しているから注意しましょう。そんなことを話しました。私個人としては三年間を通じてこれらの事を守ることが出来たと思います。主に半分の期間しか在籍していなかったある人の影響が大きかったと思いますが……。」


 ? なんでみんなこっちを見るんだろうか。もしや寝癖がまだ残ってる!? 慌てて髪を触るけど寝ぐせは無さそうなんだけど!? カトレアちゃんの方を見ると呆れた顔をしつつも教えてくれた。


「……寝癖じゃないわよ」


 そっか、なら良かった。突然慌てだし、すぐに平静に戻った私を見てシルビアが苦笑している。失礼な奴だ。


「なにはともあれ、ここにいる全員が良い経験をすることが出来た三年間だったと思います。名門であるこの七龍学園を卒業出来たことを誇りに持ちこれからの人生を過ごしていきましょう」


 シルビアはそう締めくくり、一礼してから下がっていった。

 こうして卒業式が無事に終わり、カトレアちゃんと一緒に寮へ帰る。


「二人ともおかえり! 学園生活お疲れ様でした!」

「ただいま。セレス!」


 部屋に入るとニコニコ顔のセレスが私を迎えてくれたのだった。

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