第36話 カトレアの悩み

 親善試合も終わり。授業にも慣れつつ友達も増えて楽しい学園生活をしているのは私ことサクラ・トレイルである。


 魔法科の授業にはカトレアちゃんとずっと一緒に受けてるし、魔道具科の授業は寮で仲良くなったミーヤとチコや、ルアード商会で丁稚をしているハカセと呼ばれるエルフと授業を受けている。ハカセは知識量が半端なく、前世は電子辞書だったのかな? と思うほどだ。

 ハカセは私がガチャや魔力量を測定する水晶の発案者だと知って私に声をかけてきたらしい。私としても母以外の純粋なエルフとお話するのは初めてでエルフの国についての話も聞いたりした。


 私の髪よりも少し濃いめの色の髪を持った女王が少し前に国を抜け出したって言っていたけどまさか母のことじゃないよね? 

 エルフの言う少し前は数年前から数十年前まで含まれるから可能性が……。

 もしそうだとしたら私エルフのお姫様? ……気付かなかったことにしよう。中身男のお姫様とかみんなの夢を壊すことをしちゃいけない。違うはずだ。……違うよね? 


 今日はミーヤとチコと一緒に魔道具科の授業を受けている。途中、二人が私に気になることを教えてくれた。


「最近カトレアはんの様子が変なんよ。サクラはんは何か知っとる?」

「チコもそう思う! たまに周りをキョロキョロみてるもん!」


 そんなに気になるなら話しかけに行けばいいんじゃ? もちろん私も部屋に帰ったら私も確認するけどね! 


「そんなにカトレアのこと見てるの?」

「ぎくぅ!」

「チコはいつも見てるよ! いつも凛としててカッコいいの!」


 大げさなリアクションをとるミーヤにニコニコと宣言するチコ。私の知らないところでカトレアちゃんはモテモテみたいだ。


「せやからカトレアはんに話しかけるのは緊張してまうんや!」

「チコも!」

「そ、そっか」


 いや、カトレアちゃんが可愛くてカッコよくてモフモフなのは分かってるけど自信満々に言うことではないよね? 


「とりあえず部屋に戻ったらどうしたのか確認してみるね」

「任せたで!」


 その後、授業を終えた私は部屋でカトレアちゃんとお話をする。


「カトレアちゃん。最近困ったことはない?」

「べ、別にないわよ?」


 否定しているけどカトレアちゃんの目が泳いでいる。私だって伊達にカトレアちゃんの幼馴染をしているわけじゃないから心を読んじゃうよ! 


 そうだね……。カトレアちゃんみたいな可愛い子をいじめる人はいないだろうし。勉強だって小さい頃から私が英才教育を施しているからついていけないことは無い。そうなると友達関係か恋愛関係だろう。カトレアちゃんに恋愛はまだ早いから友達に関する悩みが妥当だと思うし、ミーヤとチコの話を聞くと周りが気後れしてカトレアちゃんに話しかけられないことが考えられる。カトレアちゃんがキョロキョロしてるのも友達候補を探しているのだろう。そうなるとカトレアちゃんの悩みはこれだ! 


「ずばり! 友達が欲しい!」


 私がそういうと。カトレアちゃんの肩がぴくっとした。恥ずかしそうにしつつ顔を背ける。ふっ。どうやら当たりのようだ。

 ……あれ? 今の心を読むんじゃなくて推理で結論出してない? 


 まあいいかと気持ちを切り替えているとカトレアちゃんがぽつぽつと言葉を漏らす。


「そうなのよ。魔法科ではサクラがいるから平気だし、サクラ以外にもライアスや殿下とも仲良くしてもらっているわ。でも全員サクラ経由の知り合いだし、商学科には友達がいないのよね」


 私としてはカトレアちゃんがいつも近くにいて嬉しいけどとうとう巣立ちの時が来たのか。親の心境になりつつ話の続きを促す。


「たぶん、私の周りにサクラや殿下みたいな有名人がいるせいでみんな気後れしていると思うのよね」

「え?」


 カトレアちゃんが少し迷走し始めたぞ。単純にカトレアちゃんが可愛すぎて周りが気後れしてるんだと思うよ? 


「だから私から声をかけてみようと思うの。……私から話しかけると迷惑がかかっちゃうかしら?」


 カトレアちゃんには悪いけど不安そうにしながら話すカトレアちゃんが可愛すぎる。永久保存したい。……そうだ! カメラ作ろう! 名前は念写機とかが良いかな? ハカセに相談だな。


「サクラ? やっぱり答えられないのね。……分かったわ。一人で我慢「待って待って。大丈夫だよ!」」


 思考を飛ばしてる間にカトレアちゃんが結論を出そうとしてしまった。危なかった。それにしてもなんでこんなにネガティブなんだろう。


「私ならカトレアちゃんに話しかけられたら泣いて喜ぶし、他の人も一緒だと思うよ!」

「サクラならそうでしょうね……。でもサクラは変人だし」


 慰めたらディスられた!? 


「今日はどうしてそんなにネガティブなの?」

「だっていつも視線は感じるのよ? なのに周りを見るとみんな視線を逸らすの! 嫌われてると思うじゃない! それに今いる私の友達だって全部サクラがいないと関わることの無かった人達だし! 私一人で友達を作ったことは無いのよ!」


 布団にくるまってしまったカトレアちゃんを見て思う。今回は私がお節介せずに見守らないとダメな案件だと。


「カトレア。やるだけ頑張ってみて。私は応援してるから。失敗したら私のところにおいで。いつでもモフモフする準備はできてるからね! いたっ」

「そこは慰めるところでしょう?」


 カトレアちゃんから枕が飛んできた。ちょっと怒っているけどネガティブな思考は振り切れたようで良かった。


 この後、枕投げが白熱した私達は、苦情が入って寮母さんに怒られるまで枕投げを続けていた。


 ―――


 次の日、授業が終わるとカトレアちゃんから報告が来た。


「友達ができなかったわ……」

「え? どうして?」


 全人類カトレアちゃんに話しかけられたら狂喜乱舞してもおかしくないのに……。


「いや、話しかけたら相手をしてくれたんだけどね? 私が話しかける前までは楽しそうにしてたのに私が話しかけた瞬間がちがちに緊張し始めたし、緊張しないでって言っても気を遣わせちゃったみたいで固かったのよ……」

「それは……」


 カトレアちゃんが崇拝されてない? といった言葉を飲み込む。言っても信じてもらえないだろうし、気休めを言うよりは建設的な話をした方がいいだろう。……でもどうしようか。私が裏で動くとカトレアちゃんにばれそうだし……。


「だからね。サクラが魔道具科の昼休みにどうしているか観察しようと思うの! サクラ相手だと気が抜けて緊張しないと思うし、サクラの真似をしようかと思って」

「あれ? 私ディスられてる?」


 なんか最近よくディスられてない? 


「気の所為よ! というわけで明日の授業が終わったらサクラを見に行くけど話しかけてこないでね!」

「分かったよ」


 カトレアちゃんを見かけたら反射的に声掛けしてしまいそうだけど我慢しないとだね! 


 ―――


 次の日、魔道具科の授業に出るとミーヤとチコが泣きついてきた。


「サクラはん。どないしよ。昨日カトレアはんに声をかけられたんやけど失礼な態度をとってしもうたかもしれん」

「チコ。カトレアちゃんに見惚れて上の空で話をしちゃったの! カトレアちゃん怒ってなかった?」

「お前らかーい」


 思わず突っ込んでしまった。昨日のカトレアちゃんの話を聞いててもしかしたらって頭を過ったけど二人のことだったとは……。とりあえず謝っとくか。


「二人を緊張させちゃったみたいでごめんね。またカトレアが話かけた時は私と接するみたいに接して欲しいな」

「なんでサクラはんが謝るんや?」


 確かに私が謝ることじゃないけど……。


「昨日カトレアが気を遣わせちゃったって反省してたの。だから代わりにかな」

「そんな……」


 二人がショックを受けてる。この様子なら次はうまく友達になってくれそうかな? 

 あ、昨日の宣言通りカトレアちゃんが廊下からこっそり覗いているのに気づく。周りの生徒が少しざわついていてバレバレだけどいいのかな? そう思ってカトレアちゃんを見てるとミーヤが立ち上がって大声で宣言した。


「よっしゃ! 今度はうちらからカトレアはんに突撃するで!」


 ミーヤの宣言が聞こえたらしいカトレアちゃんの耳と尻尾がピンと立つ。びっくりした様子に思わず笑ってしまった。


「なんや。悪いか?」

「ううん? いいことだと思うよ。今がチャンスだと思うな」


 訝しむミーヤにそう答えつつカトレアちゃんの方を指さす。カトレアちゃんが近くにいたことに気付いたミーヤとチコが固まると三人が見つめあう格好になった。しばらくして現状を把握したらしいカトレアちゃんの顔が真っ赤になる。それを見た二人がカトレアちゃんをもみくちゃにするのを見て思う。


 良かったね。カトレアちゃん! 

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