第20話 推薦を賭けた決闘

 息子君についていくと屋敷のはずれにある訓練場まで案内された。領を守るための兵の訓練場かな? キョロキョロしつつ中に入る。

 母とカトレアちゃんがいつの間にか訓練場の端の方に設置された椅子に座り、セバスさんにもてなされている。私もあっちに行きたい。


 少し遅れて領主様が入ってきて、一枚の紙を見せてきた。


「さて、双方に書類の確認をお願いしようかな」

「書類?」

「ああそうか、サクラ君は決闘をするときの規則を知らなかったね。決闘をするときは勝敗が付いた後に負けたほうが反故しないように書類にするんだよ」

「なるほど、道理ですね。確認します」


 先ほど決まったことが書かれ、一番下には領主様の判が押されている。


「確認しました。問題ありません」

「俺も問題ない」

「よし、それでは始めようか」

「サクラちゃ~ん。頑張ってね~」

「相手は領主様のご子息様なんだから怪我させたらだめよ。気を付けなさい」

「決闘でできた怪我は不問だよ。全力を出せなくなっちゃうからね。もちろん殺すのは禁止だけどね」

「ふん。適正が無の者に怪我を負わせられるわけなかろう」

「やってみないと分からないですよ?」


 そうは言っても今、天の適正を使ってできるのは……。あれくらいかな? 


「では、見届け人は僕。ディアード・グロウズが行うよ。サクラ君の勝利条件は魔法を一度以上使ってスティム君を倒すこと。スティム君の勝利条件はサクラ君が魔法を使う前に倒すこと。双方間違いないね?」

「「大丈夫です」」

「よろしい。では、始め!」


「アースボール」


 さっそく息子君が土の適正の魔法で攻めてきた。私は飛んできた土の球をよけ接近する。


「ふむ、魔法は攻めに使うのか? ならこれくらい破ってみろ。アースウォール」


 土の壁が出てきた。見た感じ高さはあるが厚さはそこそこといったところか。それでも土は元々防御用の適正であるためかなり堅そうだ。でもかなり使えそうだ。一度土壁に触れて魔力を流す。


「はっ!」

「は? お前はゴリラか!」


 な、失礼な奴だ。ただ単に土壁を殴って壊しただけじゃないか。か弱い乙女をゴリラ呼ばわりなんて……。


 接近して格闘術を仕掛ける。武器のない状態での戦闘も母に詰め込まれている。


「どれだけ肉体派なんだ! さっさと騎士科に行け!」

「いえ、せっかくなら魔法科に推薦で入学したいので」


 小手調べのつもりだったけど押し切りそうになってしまった。危ない。調子に乗ってこのまま倒すと負け扱いになるところだった。一度距離をとり魔力を練る。土の破片がすこし桜色を帯びる。


「やっと魔法を見せる気になったか」

「一度魔法を使えばいいんですよね?」


 領主様の方を向いて勝利条件を確認する。


「そうだね。一度魔法を使ってからスティムを倒せばサクラ君の勝ちだ」

「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なくいきますよ」


 領主様がワクワクした顔をしているけど残念。今回の条件なら土の適正にしか見えなくても問題ないのだ。


「アースニードル」

「なっ!? 貴様、無の適正だと言っていただろうが」

「ええ。私は嘘を吐いていませんよ? 大好きな御父上に確認すればよろしいかと」


 土の針を息子君に向けて突き出す。


「アイスウォール」


 土の壁に阻まれそうになるが関係ない。同じ土の魔法でも密度が違う。


「どういうことだ!?」

「遅い、アースジェイル」


 土の針で壁を貫通させ、息子君が驚いている間に土の針を檻状に変化させる。


「負けを認めてくれますか?」

「ちっ、いいだろう。降参だ」

「勝負ありだね。サクラ君の勝利だ。スティムはサクラ君に謝罪すること。それから魔法科への推薦の同意と、入学後にサクラ君が困るようなことがあれば助けること。いいね。私からはサクラ君の入学準備を補助しよう」


 降参する態度まで大きいとは。領主様は領主様でつまらなそうな顔してるけど私はルールを破ってませんからね? 


「おい。貴様、いや、サクラ。先ほどまでの態度を謝罪する。すまなかった」

「いえ、大丈夫です。謝罪は受け取りますね」


 うんうん。素直なのはいいことだ。あ! そうだ。


「領主様。私のステータスを息子君に見せてあげてください」

「誰が息子君だ。俺の名前はスティムだぞ」


 あ、しまった。素で間違えてしまった。一応反省してるからカトレアちゃんはため息つかないで! 


「息子君に見せてもいいのかい? ステータスは個人情報だよ?」


 領主様がニヤニヤしつつ確認してきた。白々しい。私が言わなくても見せていたくせに……。


「かまいませんよ。意地悪をしすぎてしまったので・・・・・・・・・・・・・・


 こういえば領主様に伝わるだろう。


 ―――


 汗を流すために一度シャワーを借りてさっぱりした後、再び応接室に集まった。


「サクラ。この表記は本当か?」


 ステータスを確認した息子君が疑問の声を上げる。


「もちろんですよ。私はか弱い乙女なので」

「か弱い……?」

「カトレア!?」


 ちょっとカトレアちゃん! 横で疑問の声をあげないで! 母も苦笑いしないで! まるで私が間違ってるみたいじゃないか。


「スティム。鑑定結果を誤魔化すことができないのを知ってるだろう? 正真正銘それがサクラ君のステータスだよ」

「しかしっ! そうか。これが身体強化か……。俺も使いたいな」


 息子君の呟きは無視だ。母がちらちら見てくるけど私は教えるつもりはない。母の無言のアピールを必死でスルーしてると領主様が口を開いた。


「それでサクラ君。身体強化以外にどんな魔法を使ったのか教えて欲しいな」


 びっくりして領主様を凝視してしまった。ステータスを見せる代わりに魔法の説明を見逃すって話だったのでは? 


「サクラ君は頭が切れるみたいだけど詰めが甘いところがあるようだね。言質を取るところまでやらないと」


 言質……。確かに言葉にはしてなかった……。ま、通じたら儲けもの程度のことだから良いか。


「……ふぅ。勉強料ってことで納得します。その代わり! 条件が一つあります!」

「……言質とるのは苦手みたいだね? 聞くだけは聞きますよ」


 いやいや、実際に聞いてもらえたら勝ちでしょう。


「では。領主様が示してくださった私への利をカトレアちゃんにも広げてください」

「何言ってるの!?」


 横でカトレアちゃんが驚いているが気にしない。この領主様が承認してくれる条件で一番いいのがこれだろう。


「ふふふっ。いいね。うん。とても良い。そんなことでいいならこちらですべての準備を整えてあげよう。その代わり。ね?」


 カトレアちゃんがこっそりと尻尾で私の背中を叩いて抗議してくるが無視だ。


「あ、あの、領主様? 私は今回何もしていないので……。辞退させていただきます」

「おや。そんなことないよ? カトレア君がいたおかげでサクラ君が秘密を話してくれるのだから。そのお礼だよ」

「ま、待ってください! それなら余計に受け取るわけにもがっ」


 口を止めたら割と本気で睨まれた。怖い! 領主様にアイコンタクトを送る。


「ごめんごめん。言い方が悪かったね。元々二人の支援は推薦が決まった時点ですることにしていたんだ」

「え?」

「こちらとしては元から決めていたことを、まるで今決めたかのように言えばサクラ君が言い渋っていた秘密を教えてくれるところだったんだよ」

「私としては領主様に意趣返ししたかっただけなんだよ」

「サクラ……。あとでじっくりとお話をしましょう」

「ひぇ!」


 まずい。この怒り方はモフモフ禁止令を出されそうだ。そんなことされたらショックでおかしくなってしまう……。


「そろそろ教えて欲しいな? 思ったよりも時間がかかっちゃったからね」

「私がやったのは魔法の制御権の強奪です。それ以外は身体強化くらいしかやってませんよ」


 カトレアちゃんを宥めつつ答える。言葉は足りなくても嘘はついていないからいいだろう。


「それだけかい?」

「ええ。使った魔法としか聞かれていないのでこれ以上は秘密です」


 使った魔法全部・・・・とは言われてないからね。

 しばらく笑顔で見つめあうが領主様が折れた。


「さっそく意趣返しをしてくるとはね。時間もないので諦めましょう。では、推薦を受けるか否かの返答は一週間後までにお願いできますか?」

「いえ、今返答します。私もカトレアも推薦を受けます。よろしくお願いします」


 領主様の質問に二人して頭を下げた。

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