第17話 領主の館へ

<???視点>


 洗礼式が終わったころ、ある一室で高級感漂う服を着た男と執事の格好をした男が書類を見ていた。


「ふむ、この中だと彼女がいいかな?」

「ええ、よろしいかと」


 空いた窓から風が吹きこみ書類を撫でる。書類の何枚かが宙を舞った。


「おや、この子は……?」

「彼女ですか? ステータスは高いですが適正が無い時点で止めたほうがよろしいかと」

「そうだね。でも、一目見てから気になってたんだ」

「……」


 執事の格好をした男が一歩下がる。


「え? なんで引いたの? なにか不思議な感覚があっただけだよ」

「……。安心しました。てっきり少女趣味なのかと」


 納得したような言葉を話しつつも執事の格好をした男はもう一歩後ろに下がる。


「違うよ!? たしかに可愛らしいとは思うけど奥さん一筋だからね?」

「かしこまりました。そういうことにしておきましょう」

「違うからね? 何その分かってますよみたいな笑顔。絶対分かってないからね」

「では、招待状を作ってまいります。気合をいれて……」

「やっぱり分かってない! 気合なんて入れなくていいからね?」

「ええ、承知しております。では」


 執事の格好をした男は一度深々と礼をした後、部屋を出ていった。


「はぁ、異常にステータスの高いのに適正が無なのか、眉唾物だと思っていたけど超級適正とかいうものなのかな?」


 高級な衣服に身を包んだ男の呟きは誰に聞かれることもなく宙に溶けていった……。


 ―――


<サクラ視点>


 昨日に引き続きカトレアちゃんの家にいる私はサクラ・トレイルである。ステータスを確認した後、考えるのを放棄した私は気分転換にお昼ご飯を食べにリビングへと来た。カトレアちゃんのお父さんが仕事に行く前に準備してくれていたらしく。すでに机の上に料理が並んでいた。


「「「「いただきます!」」」」


 すぐにカトレアちゃんのお母さんもやってきてお昼ご飯を食べ始める。


「どこに行ってたのよ。朝起きたら横にいなくてびっくりしたんだからね」

「ごめんね。朝早く起きたから散歩に行ってたの」


 カトレアちゃんの質問にあらかじめ決めていた返答をする。ちゃんと玄関から出てから屋上に行き、玄関から戻ってきた私に死角はない! 


「ふぅん」


 あ、これは嘘がばれてる。カトレアちゃんの尻尾が不機嫌そうに揺れている。後で正直に話さないとずっと機嫌が直らないパターンだ。


「後で教えるから」

「そう」


 カトレアちゃんに耳打ちをする。素っ気ない返事だけど尻尾の揺れから不機嫌さが無くなったようだ。良かった。


「あら~。仲がいいわね~。うらやましいわ~」


 母が混ぜて欲しいと訴えてくるけど気付かなかったことにした。


 ―――


 お昼ご飯を食べ終わり、カトレアちゃんの私室に入る。説明しようとしてはたと気付く。どこから説明しよう……。


「そうなのね。私も何か手伝えるかしら?」

「へ? 信じてくれるの?」

「当り前じゃない。そもそもサクラが嘘ついても分かるもの」

「か、カトレアー!」


 抱き着こうとしたら躱された。おかしい、友情を再確認する場面のはずだったのに。と冗談は置いといて、割とほとんどのことをカトレアちゃんに話した。日本で生きてきたこと。この世界を舞台にしたゲームという物語があったこと。それによると魔王が復活する時期に入っていること。私が魔王を討伐しに行く必要があるかもしれないこと。転生した特典なのか自力でステータスを確認できること。……さすがに昨日お風呂に一緒に入った手前、前世が男だったことは言えなかったけどカトレアちゃんなら気付いていそうだ。


 普通は信じられないような内容ばかりだというのにも関わらずカトレアちゃんはあっさりと信じてくれた。


「それにしてもサクラの持ってる謎知識や、奇行の原因が分かってすっきりしたわ」


 信じてくれたのは嬉しいけどそんな満面の笑みで毒を吐かないで……。


「サクラちゃんとカトレアちゃ~ん。リビングに来てくれる~?」


 そんな話をしていたら母に呼ばれた。なんだろう? カトレアちゃんと一緒に首をかしげつつ、リビングへと向かった。リビングに着くと椅子に座ってた母が便箋を私とカトレアちゃんに渡した。


「領主様からお手紙来てたわよ~」

「はーい。後で……なんて言った?」

「お手紙来てたわよ~?」

「そこじゃなくて、その前は……? 誰からって?」

「領主様からよ~?」

「なんでよ!」


 唐突に母が爆弾を落としてきた。領主からって何? 


「ん~。珍しい魔法の適正を持っている人や優秀なステータスを持つ人を領主が学園に推薦してくれるらしいし、その意思確認の招待状じゃないかしら~?」

「私、無の適正のはずなんだけど……」

「ふふふ~。サクラは天才だからね~。優秀さがにじみ出てて目を付けられたんじゃないかしら~?」


 手紙を確認してみると母の言う通り招待状だった。日付は来週になっている。


「学園か……」

「推薦されたら強制ってこともないからしっかり悩んで決めるといいわ~」

「ううん。行けるなら行くよ」

「あら~? 悩まないのね~」

「うん。楽しみだよ」


 SDSのストーリーで主要メンバーが集合するのは学園のある王都だ。この世界が何周目の世界なのかを確認するためにも魔王を討伐する準備をするためにも絶対に行きたい。


 カトレアちゃんも学園に行くと確認し、その日の午後に私と母はメディ村に帰った。


 ―――


 一週間後、今日は領主様の館に行く日だ。


「「カトレア(ちゃん)、おはよう」」

「おはよう、サクラ。今日は遅刻しなかったのね。ローズさんもおはようございます」

「ふっふーん。やればできるのだ」

「はぁ」


 尻尾に抱き着いたらため息をつかれたが逃げられはしなかった。モフモフ。


「でも大丈夫なの? 特殊スキルがばれたんだったら逃げられなくなるかもよ?」

「うーん……。たぶん大丈夫! それよりも学園への推薦だったら一緒に行こうね!」

「なんでそんなに前向きなのかしら。ま、サクラが大丈夫だと思うなら平気でしょ。領主様のところに行くわよ」


 カトレアちゃんの両親はお仕事があって行けないらしく、母が保護者として付いてきている。


「あいかわらず大きいねー」

「そうね。この建物の中に入るって思うと緊張するわ」


 領主の館について大きな建物を見上げる。


「ようこそいらっしゃいました。カトレア様とサクラ様。それからローズ様」

「っ!?」

「はじめまして~。サクラの母でローズと申します~。今日はよろしくお願いしますね~。サクラとカトレアちゃんも挨拶しましょうね~」


 突然の声掛けに驚いたが母は気づいていたみたいだ。気を取り直して挨拶を……。


「は、初めまして。カトレア「セバスっ!?」言いま……。サクラさん?」

「ご、ごめん。初めまして。サクラと言います……」


 思っていた以上にセバスだった。いや執事だった。片眼鏡にびしっとした執事服。高い身長で細身の体。ほとんどの人が執事と言われて思い浮かべる姿だろう。感動したいところだがカトレアちゃんに目が笑ってない笑顔で見られている。どうにかしてカバーしないと……。


「おや、サクラ様はお会いしたことがありましたか? 確かに私はセバスと呼ばれていますが……。あなたのような可憐なお嬢さんを忘れるはずがないのですが」

「い、いえ、あったことはありません。ただ、見た目がまるでセバスだと思いまして……」

「? まるでセバス……ですか? 良く分かりませんが誉め言葉として受け取っておきましょう」


 せっかくカバーしてくれたのに困惑させてしまった。重ねてしてしまった失言もフォローしてくれるなんて、まさにできる執事って感じがする人だ。


「ちょっとサクラ。人前で変なこと言わないでよ……」

「お母さまも今の発言はマナーがなってないと思うわ~」

「ご、ごめんなさい……」


 二人に呆れられてしまった。ちょっと恥ずかしい。


「いえいえ、まだ洗礼式を終えたばかりですから。これから学んでいけば良いのですよ」

「はい、精進します……」

「では旦那様がお待ちです。中へどうぞ」


 セバスさんの案内で屋敷の中に入っていくのだった。

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