どうやら漫画家の先輩に気に入られてしまったみたいです。
だみん
第1話
『夢は何ですか?』
そう聞かれたら、
「ラノベ作家です」
僕はそう答える。しかし・・・、堂々と言えない。
夢を語るのが恥ずかしいから?笑われるのが怖いから?周り目が気になるから?
きっと全部だ。そしてそう思ってしまうのは・・・
「お前には無理だ」
誰でもない。僕自身がそう思ってしまっているから。
カタッ、カタカタ、カタッ——。
放課後の図書室にはキーボードを打つ音だけが響く。外からは部活に励んでいる生徒の声が聞こえるし、校内で練習してる吹奏楽部の音なども聞こえているはずなのに不思議と静かという表現が似合う。
基本的に図書室にくる人は少ないが、放課後ともなると僕と図書委員の人を除いてほぼ人の出入りはない。現在も図書委員の生徒が1人カウンターで本を読んでいるのみだ。
そんな図書室の窓側。1番うしろの隅に座ってノートPCを開いている人物こそ僕、遠山環だ。
僕が放課後の図書室にいるのはいつものことだが、本を読んでいるわけではない。
・・・じゃあ何をしているのか。僕はラノベの“プロット”を考えているのだ。ラノベ作家になりたいから。
別に学校が終わったらすぐに帰宅してもいいのだが、毎回誘惑(主にゲームとアニメ)との激戦が繰り広げられる。
なので僕にとって、人が少なく、静かで、誘惑してくるものがない放課後の図書室というのは集中するには絶好の環境と言えるのだ。
そのはずだったのだが・・・
チャリンッ——。
図書室の扉にはベルが付いており、誰かが入ってきたらわかる仕組みになっている。そういう用途でつけられているかは謎だが。
普段この時間帯に誰かが来ることはほとんどなく、人が来るのはかなり珍しいことだ。
「どうぶつ図鑑―、どうぶつ図鑑―」
そう呑気そうな声で呟きながら入ってきた存在を、珍しさからか、はたまたその整いすぎている容姿からか。自然と目で追ってしまっている自分がいた。
綺麗な黒髪のショートヘア。すらっとした綺麗な脚。制服にオーバーサイズのパーカーをゆるく羽織り、ヘッドホンを首から下げている美少女。ネクタイの色が青であることから3年だとがわかった。
数秒間目が離せなかったのはその圧倒的ヒロイン感のせいだろうか。きっとそうだ。決して見惚れていたわけではない。
あれは間違いなくスクールカースト上位の存在であり僕とは交わることのない存在だろう・・・。
「集中集中・・・」
あえて誘惑がない環境をつくっているのに、人に気を取られていては意味がない。ましてや僕とはかけ離れた存在だ。・・・自分で言っていて悲しくなってくるな。
カタッ、カタカタカタ——。
「ねえ君ぃ・・・」
カタカタッ、カタカタカタ——。
「ねえ君ってばー。おーい」
き、気のせいか?僕が話しかけられているような・・・
「・・・もしもーし」
いや、気のせいじゃない。明らかに声が僕に向かっている。
「わぁっ、あ、すみません。まさか僕に話しかけているとは思わなくて」
顔を上げると、1つ前の席にこちら向きに座っている先輩と目があってしまった。
くそ、思ったより近くてびっくりした声を出してしまった。
僕の返答に対し先輩はきょとんとした表情を浮かべているが、僕は何か変なことを言ってしまったのだろうか。
「まさかーって、今私と君しかいないよ?」
変なのーと言ってあははっと笑う。
言われてカウンターの方に目をやると、さっきまでいた図書委員の生徒はすでにいなかった。
女子に耐性がなさすぎるせいか、やはり圧倒的なヒロイン感のせいか。自然と話しかけられている人の候補から自分を除外してしまっていたようだ。
「それで・・・、僕に何か用ですか?」
「あっ、そうそう!君!今何してるの?」
しゅばっと立ち上がり僕が使っているテーブルに手をついてぐっと僕に迫ってくる。
いい匂いがふわっと鼻の奥を刺激して不本意にも心臓が跳ねてしまう。
・・・が、あまりの刺激の強さに思いっきり上体をそらしてしまった。これが今まであまり女子と関わってこなかった弊害だ・・・。
・・・いやまて。断言できる。これは女子耐性があろうがなかろうが関係ない類のものだ。それほどまでにこの先輩は可愛い。
こんな可愛い×先輩という最高の組み合わせに耐えられる男子などいるのだろうか。いやいない。断言しよう!可愛い先輩というのは全男子学生が望んでいるものであり、これを嫌いな人など存在しない!
「・・・あ、ごめんね、つい」
やっと距離感がおかしいことに気づいたらしい先輩はスッと身を引く。
「君がものすごーく!真剣に何かやってるから気になっちゃって」
この言葉で今まで可愛い先輩に話しかけられたことで舞い上がっていた頭の中が急激に冷めていくのが自分自身でも分かった。
何かを期待しているような目・・・
「これは・・・」
言葉が喉の奥で詰まる。一瞬、適当なことを言って誤魔化すということを考えてしまった。
『ラノベを書いています』とすぐに言えない自分が情けなくて、悔しくて、心底嫌になる。
だがなぜだろう、今までずっと誤魔化してきたのに・・・
「ライトノベルの・・・、プロットを書いています」
なぜかこの人に誤魔化しは通じないような気がした。
でもこれでよかったんだ。怖がって言えないよりは何倍もいいのだから。この人には笑われるかもしれないが仕方ない。実際、言えて少しほっとしたのも事実だ。
「え、すごい!なんか嬉しいなー、こんな近くに“仲間”がいたなんて」
先輩はぱんっ!と嬉しそうに胸の前で手を合わせる。
想像とは全く違う反応が返ってきたことに驚くべきなんだろうけど、それ以上に気になることを言っていた。“仲間”という言葉。
「えっと、あの・・・、“仲間”って・・・」
「あ、“仲間”って言っても私はライトノベルを書いているわけじゃないよ?」
意味がわからない・・・。“仲間”という言葉が示す意味は使う側に委ねられるものだと思う。その人が仲間と思ったら、その人の中では仲間なのだから。
だとしてもこの人が示しているものが全くわからない・・・
「じゃあどうゆうことですか・・・」
そんな僕の疑問に対し、先輩は待ってましたと言わんばかりにえっへんと胸を張って言った。
「実は私ね・・・漫画描いてるんだ————」
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