ショタ系配信者だけどありとあらゆる人が女装させてくるしなんか身の危険を感じる
椿
第1話 君の名は
僕こと天城由来(あまぎゆら)はゲーム配信者だ。配信者名は「マギー」。安易すぎる名前だ。
超大手配信者の「チョキ」氏に憧れ、親に泣きついて配信機材を買ってもらい、ワクワク希望を胸に始めてみたが……。
「こんばんは〜」
配信画面を見る。
視聴者数、1。
コメント数、0。
はは、最高だ。
「じゃ、今日もBPEXを始めていこうと思います!」
虚空に向かってそう言った。
もう慣れたものだが、初めはあまりの厳しすぎる現実にお腹を壊した思い出がある。
あんなに高かった配信機材(借金になった)もこれでは浮かばれないだろう。現実とは非情なり。
『こんばんは〜』
すると、チャットに一つのコメントが流れる。名前欄には39の文字。
「39さん、チャットありがとう!今日もがんばります!」
39さんは、僕のゲーム配信をよく見てくれる視聴者さんである。大体いつも来てくれるので、とても心強い存在だ。
『頑張りましょう!』
39さんのコメントににやけつつ、今日も今日とて配信は過ぎていった。
ーーー
ーー
ー
僕は学校では普通に陰キャラである。クラスの隅の方でラノベを読み、目が疲れたらTwitterでタイムラインを眺めるような、模範的陰キャラである。
「でさー!昨日のアレがまじやばくてさー!」
甲高い声が教室内にこだまする。教室の真ん中に居座り、大きな声でケラケラと笑っているのは、このクラスでカースト上位のギャル達だ。
「まじでヤバくね??それ、ガチでこみこみじゃん!!」
あーうるさい。どうしてギャルの会話はあんなに抽象的なんだろう。
しかし、そんなキーキーうるさいギャル中でも落ち着いた人はいる。
「あはは、そうだね。あれは私もエグいと思った」
それが彼女である。ちなみに名前は知らない、陰キャラすぎてクラスの半分くらい名前わからない。
「おい、喋ってないで席つけー」
先生が現れ、HRが始まった。今日も一日学校生活が始まる。配信のことでも考えておこうかな。
あっという間に昼休みになり、お母さんが作ってくれたお弁当を持ち、教室を出る。そして、屋上へつながる階段へ向かった。ここは誰も来ない穴場なのだ。
何を隠そう、リアルぼっちの僕はこんなところでしかご飯を食べられないのだ。だって席とられるし。
昨日の配信を見返しながら、お弁当を口に運ぶ。ふむふむ、今日のご飯は美味しいではないか。
すると、足音が聞こえてきた。やばい、弁当隠さなきゃ。
僕があたふたとしていると、気がついた頃には足音は聞こえなくなっていた。
なぜなら、すでに目の前まで来ていたからだ。
「……天城、こんなとこでご飯食べてんだ」
すらっとした足、短いスカート、長い髪、見上げるとそこにはギャルがいた。
「……何だまってんの」
体がビクっとなる。
「あ、あ、うん。ここで食べてる……」
我ながらなんと情けない。穴があったら入りたい。
「へー……てか、スマホ見えてるけど」
その声に僕は我に帰った。まずい、今スマホの画面は昨日の配信アーカイブだ。
僕は慌ててスマホを取り、ポケットにしまった。バレてませんように……。
「あんた、今の、もしかしてマギー?」
体が硬直する。やばい、見られた?いや待て、まだ挽回できる、僕がマギーだと知られない方法はいくらでもある。
「う、うん。一応そうだよ…」
すると、ギャルは押し黙ってしまった。よく見ると、このギャルはあのクラスの中でもおとなしいギャルだった。
「……てことはやっぱ、あんたがマギーなんだ」
わりぃ、俺死んだ。
「な、ななななななんで!!?僕じゃないよ!!??」
僕はこの時人生で一番どもったと思う。ちなみに2番目は自己紹介の時。
「だって、昨日は視聴者数1人だったよね。だとすれば、あんたがマギーって事になる」
めのまえ が まっくらに なった !
膝から崩れ落ち僕は、虚な目で空を見つめる。そして意を決したように口を開いた。
「ぼ、僕の配信をネタにいくら請求されますか…?」
相手はギャル、僕はインキャ。以上の情報を持って考えれば、つまりこれは金の話になる。
「は、はぁ!?金なんて要らないし!なんでそうなんの!?」
よ、良かった。どうやら僕は無一文借金地獄臓器売却男にならなくて済んだと言うわけだ。
「じゃあ、どうするの…?」
ギャルの方を見上げると、ギャルは目をカッと見開いた後、すぐにそっぽを向かれた。ショックである。
「と、とりあえず何もしないから!今日はちょっと散歩しててたまたま天城のこと見つけただけだから!」
「良かった…」
ホッと胸を撫で下ろす。しかし、良かったのも束の間である。場には気まずい空気が流れていた。
きーんこーん…
チャイムがなった。まて、僕はまだお昼ご飯を食べていないのだが。
「あ、もう春休み終わりだ。あんた、今日も配信するの?」
「あ、うん。一応…」
「ふーん……分かった。じゃあね」
そういうと、ギャルは駆け足で教室に戻っていった。
「ふぅ……」
突然の出来事に僕は軽く腰が抜けていた。いきなりの配信バレ、そして情けない対応。
「そういえば、あのギャルの名前知らないな……」
教室に戻り、残りの授業を受けた。名簿で調べてみると、あのギャルは【金山美久】という名前のようだった。
美久…なにか聞いたことあるような感じがするんだよな。でもそんな親戚いないしな、知り合いはいないから自動的に排除。
そして帰宅。
金山さんにああいった以上、配信をしないわけにはいかない。
部屋に入るとすぐに着替えて機材を用意する。そしていつも通り、配信を開始した。
「こ、こんばんは〜……」
視聴者数、1。
きた、39さんだ。
『こんばんは〜』
「39さんこ、こんばんは!今日も今日とてBPEXやっていきます!!」
すると、スマホに通知が来た。通知画面には緑のアイコン。これはLINE……?、友達いないのに誰だ?
Miku:あんた、ちゃんと配信してんじゃん
「えぇ!?!?」
思わず声を出してしまった。これは十中八九、今日のギャルこと金山さんだ。
な、なんで僕のラインを……?というより、このタイミングでLINEが来る?視聴者数は1人?てことは……
「39さんって……もしかしてそうなんですか?」
僕は震える声でそう言った。チャット欄に流れてくる文字をまじまじと見つめながら。
『やっと気が付いたか』
めのまえ が まっくらに なった!
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