第263話 触らぬ神に祟りなし感がすごい!

 フィーネの知人への挨拶回りがてら、オレの紹介も済ませることになった。

 既にオレの名前は知れ渡っているらしく、挨拶するごとに「あなたが噂の!」「お会いできて光栄です」とまるで芸能人かのごとく注目されてしまう。


 そしてここで知ったのだが。

 まずそもそも、フィーネの知名度――というか注目され具合が半端じゃない。

 もちろんリエンカ家の第3令嬢、ということもあるが、どうやらそれだけではないようだった。


 周囲にいる名門神族たちは、フィーネに気づくと驚いたような顔をする。


「あのフィーネ様が殿方を連れてらっしゃるなんて! フィーネ様も、ついにご婚約されたのかしら?」

「私、フィーネ様から挨拶なさってるところ初めて見たわ」

「わたくしもよ。いつもは最低限しか対応なさらずさっさと帰ってしまわれるのに。わたくしも挨拶して大丈夫かしら」

「ちょっとやめなさいよ! 相手はフィーネ様よ!? リエンカ家に目をつけられたらとんでもないことだわ」


 周囲の令嬢たちのヒソヒソ声が聞こえてくる。

 フィーネは気づいているのかいないのか、まったく気にしていない様子だ。

 今は先日お茶会を主催していたプラネ・スターティア、それから同茶会に参加していたティマ・クロノスと3人で談笑している。


 ――な、なるほど?

 あいつ何食わぬ顔で挨拶しに行くとか言ってたけど、普段はそういう感じなのか。

 というか文字通り「触らぬ神に祟りなし」感がすごい。


「――ハルト殿」

「ん――あ、エリア様」

「楽しんでいただけてますか? ここにはたくさんの令嬢たちがいらっしゃいますし、もしかしたら」

「あ、それはないです」


 こいつ!

 隙あらばフィーネを奪おうとしてくるな!


「それより1つ聞いてもいいですか?」

「はい」

「フィーネは、こういう場でどういう印象を持たれてるんでしょうか……」

「あー、まあフィーネ嬢は男嫌い、パーティー嫌いで有名ですからね」

「えっ」

「あれ、ご存じなかったのですか? 最近こそ最低限の対応はなさるようになりましたが、昔は本当にひどかったんですよ。近寄ってくる男性をことごとく手で追い払って、見向きもせず、ご家族に帰りたいだのなんだの我儘放題で」


 ま、まじか。

 家目当てで寄ってくるヤツは相手にしない、と聞いてはいたけど、まさかそういうレベルだったとは。

 過去に何かあったんだろうか?


「よければ、外を少し散歩しませんか?」

「フィーネは譲りませんよ」

「あはは、それは残念。でも今日はその話ではありませんのでご安心を」

「……まあ、それなら」


 オレはエリアに言われるままに、庭園の方へついて行くことにした。

 庭園はきれいに整備され、様々な美しい花が咲き乱れている。


「庭、すごいですね」

「ありがとうございます。……そういえば、ハルト殿の星には珍しい植物がたくさん生えているとか」


 ――え。


「え? あ、ああ、モモリンのことですか?」

「ええ。ほかにもオレンやブカン……今やどれも神界中に普及していますよね。でも、その種を使って生産しても同じようにはならないとか」

「……そうなんですか?」

「いったいどんな星で生産されてるんです?」

「はは、いたって普通の星ですよ」

「ということは、ハルト殿に何か特別な力がある、と?」

「すみません、オレはただの転生者なのでよく分かってなくて……」


 な、なんだ?

 なんかめっちゃ探られてるんだが!?

 か、帰りたい……。

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