第248話 それぞれの気持ちと思惑

 翌々日。訓練の日。

 一通り訓練を終えたあと、バースはまたしても話をする時間を設けてくれた。


「そういえば、この間エリア様にお会いしました」

「ああ、スペース家のご子息か。何か話したのかい?」

「いえ。バースさんと約束があるとかで、軽く挨拶を交わしたくらいです。あ、でも近々パーティーを開催するから来てほしいとかなんとか……」


 バースさんにとって、エリアはどんな存在なんだろう?

 フィーネいわく、バースさんに媚びを売ってるらしいけど……。


「ふむ。で、ハルトはどう答えたんだい?」

「ええと――」


 オレはオレの代わりにフィーネが返答したこと、オレ自身はほとんど発言していないことを告げた。


「そうかそうか」

「……エリア様は、どういった方なんでしょう?」

「はっはっは。まあ優秀な子だよ。それは間違いない。家も申し分ない力を持っているし、彼自身の功績も見事なものだ」


 ――ま、まじか。

 そんな相手に勝てるのか!?


「――ハルトはどう思ったんだい? そんなことを聞いてくるということは、何か思うところがあったんだろう?」

「え……その……」


 どうしよう?

 さすがに「バースさんに媚びを売ってるらしいです」なんて言えない……。


「……さすが名門家のご子息なだけあるな、と。所作の1つ1つがとても洗練されていますし、物腰も柔らかくて思慮深い方だと感じました」

「そうだね。スペース家はうちと同等の力を持つ数少ない名門家だ。つまり、彼は生まれながらにしてそれだけ大きな責任を背負わされているし、そのための教育を受けて育っている」


 そうなんだよな。

 エリアはずっと、家のことを考えながら生きてきたはずだ。

 だからこそリエンカ家との縁を狙っているのだろう。

 どちらかというと、ぽっと出の邪魔者はオレの方だ。


 ――フィーネは断固拒否するなんて言ってたけど。

 でも実際、オレみたいな成り上がりの転生者なんかと婚約するより、エリアみたいなちゃんとした家の子息と結ばれた方が幸せになれるんじゃないか?


 オレには後ろ盾となる家がないし、一緒になっても勢力の拡大は見込めない。

 それにやっぱり、生まれたときから教育を受けているエリアと付け焼き刃のオレではあまりにも――


「……ハルトはうちを継ぎたいのかい?」

「えっ?」

「そんなに不安そうにしなくとも、君はもう既にうちの一員なんだよ。それに君には、後ろ盾以上の価値がある」

「――へ? か、価値、ですか?」

「何といっても、あのフィーネを惚れさせてやる気にさせたんだからね☆ それに君は、ほかのどの神族も持っていない不思議な力をたくさん秘めている。私としては、君を逃す理由がないよ」

「あ、ありがとうございます……」


 バースさんがこんなにオレのことを見てくれてるなんて知らなかった。

 未だ一度も勝ててないし、未熟なところだらけなのに……。


「ただ、スペース家が力を持っているのもまた事実だ。だからハルトも、リエンカ家の一員として、そしてフィーネの伴侶候補として、彼との付き合い方をしっかりと判断していってほしい」

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