第122話 初日、早くも仕事の概念が
5日後。
昇格試験審査期間に入り、オレのリエンカ家――フィーネの家に通う生活が始まった。
まず、出勤したら与えられた自室へ行って準備を整える。
部屋は、敷地内にある天使たちの居住棟の一室が割り当てられた。
使用人の部屋というともっと簡素な部屋を想像していたが、建物は豪華なホテルのような作りで、部屋も少し小さいが立派な客室といった感じだ。
ふかふかのベッドやソファ、テーブルに椅子、それからたくさんの本が詰まった本棚が置かれている。
クローゼットを開けると、そこには制服がハンガーにかけられていた。
仕事中は、この真っ白な制服を身につけなければならない。
制服は古代ローマの市民が着ていそうな、布を巻き付けるような形状の服。
正直着ている自分に違和感しかないが、まあ制服ならば仕方がない。
首元には銀色の刺繍が施してあり、これが昇格試験審査期間中の神族である印となっている。
「それじゃあ、あとは天使に仕事を習ってちょうだい。……リリア!」
「はい、フィーネ様」
「今日から昇格試験志望の子が入るから、面倒見てあげて」
「かしこまりました。――ええと」
「神乃悠斗と申します」
「ハルト様ですね。私はリリアと申します。このリエンカ家の天使を統括しています。こちらこそよろしくお願いします」
リリアと呼ばれた天使は、薄く紫がかった白髪の少女で、外見年齢は14~15歳といったところだろうか。
邪気の欠片も感じられない微笑みに、思わずドキドキしてしまう。
――というかこんな子どもが統括!?
い、いや、見た目が幼いだけで実はめちゃくちゃ年上って可能性も……。
リリア含め、ほかの天使たちもオレの制服と似たような服を着用しているが、銀色の刺繍はついていなかった。
「よ、よろしくお願いします」
「それじゃあリリア、任せたわよ」
フィーネはそう言って去っていった。
「まず、私たちのことについて簡単に説明しますね。このリエンカ家には、186名の天使が仕えています。仕事は家事やお使い、神族様のお世話、来客時の対応などいろいろあるので、1つずつ覚えてください」
「はい」
リリアは、仕事の流れややるべきことを1から丁寧に説明してくれた。
「――と、そんな感じです。今日はとりあえず、お掃除の見学をしてみましょう。とは言っても、神族様のお屋敷も私たちの居住棟も神殿なので、浄化作用が働くため掃き掃除や拭き掃除はほとんど不要です。なので整理整頓の類が多いです。ついてきてください」
オレはリリアに連れられて、まずは居住棟、それから屋敷と、天使たちが掃除をしているところを見学してまわった。
みんなとても楽しそうに、和気あいあいと働いている。
「この時間は、神族様は昼食を食べ終えて、それぞれ執務室にいらっしゃることが多いです」
「みんなめちゃくちゃ喋ってますけど、いいんですか?」
「? 何がです?」
「いやほら、仕事中に無駄なこと話してて怒られないのかなって」
「ええっ? そんなことで怒りませんよー。コミニュケーションも大事ですから。それに神族様は、基本的に私たちの生活にはノータッチですよ。お仕事も、私たちが自発的にしているだけです」
な、なん……だと……。
え、ええと?
ちょっと早くも仕事の概念が崩壊しそうなんだが!!!
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