第2話 リトルtale
中学最後の夏、嫌々連れられた祖母の家。
蒸し暑いです。駄菓子屋には地元の子らが集まりベンチでアイスを食べてるじゃないか。おじさんがアイス棒を買ってあげるから仲良くしてねと言い出しそうなくらい若い子たちだ。額から滴り落ちる汗はボクのシャツへと染み込み、それは周りの人間にも女子高生にだって同じことだ、僕からしたら眼福眼福…。夏は男にとって大きな脱皮の季節というが、どこの皮だろう、あそこの皮と言われれば今季の脱皮は終えてるので鼻が高い。毎年この季節は田舎のばあちゃんちに1週間帰省する。それが我がヤのアイデンティティのひとつだ。
『てる~荷物運んでちょうだい』
母親の甲高い声が疲れ切ったボクの脳天を打つ。一度無視をしてみようと考えた。中学3年の大切な時期。天王山じゃないのか。天王山を制し受験を制すんじゃないのか。そんな関係のないことを持ち出し自分を正当化していたところで2度目の咆哮がした。
『てる。アナタの為を思って机まで持ってきたのよ。アナタがあ-だこ-だ言って一緒に来ようとしないから、、』
と途中でボクは不機嫌混じりに立ち上がりせかせかと荷物の方へと向かった。1週間の荷物とは思えないほど多い。小さな引っ越しのように感じた。あえて小さめのものを抱え長い廊下を歩く。端には骨董品やら花瓶やら割ったら大変そうなものばかりだ。つい勢いよくやってしまいたくなる。高いところで下を見ると飛んでみたくなる様なものだ。遠くからでも母の声が家中に轟く。あれそこに物を置いて、そこの物はこっち。まるで我がヤ顔の母。ボクは母をあまり好きではない。さっきの『アナタノタメ』この言葉がもつ恣意性にもうんざりしてる。相手を慮るフリして実は自分の好き放題したい。その為の前提のようなものであり、ついでなんだ。
母はとてもずるい人だ。でもその方が生きやすいのかなとも考える。となりの芝は青すぎた。そんなことを考え戻ると、机の上には千円札とメモが置かれていた。
『てるちゃん、これで好きなものを買って外で散歩でもしてきなね』
ボクが金で動く男だと思ってるのかこんなもので僕が動くはずがないだろう、、、。
でも置いておくのも勿体無い。せっかくの気持ちだ。受け取らないわけにはいかんだろう。近所の駄菓子屋にでも子どもと戯れに行くかな。そうすると善は急げだ。札束をチラつかせるために早く行かねば。草木をかき分け、整地されていない道を駆け、景色を置き去りにした。チャイムが町中に響き、空は赤く染まり、坂の上の駄菓子屋は夕陽に照らされていた。
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