第2話
土曜日、私はデパートに向かう。オシャレなお皿を買うために。
今うちにあるお皿だと写真映えしないので、食器を揃えてからにしようと決めた、それがスタートだ。
目指すは英国の貴族なのでまずはティーポットとティーカップ、ソーサーのセットを買おう。ここのデパートは少し高級だけれども、それにふさわしいものを売っている。もちろん、お菓子を載せるお皿も買わなくちゃ。
デパート入り口を通り抜けるとすぐに宝石売り場がある。厄年もまだだし、友達の結婚式もない。我慢してスルーすると、次は化粧品売り場がある。新色の口紅をプッシュしているポップが目に入る。
新色、コスメ好きな私には魅惑的な単語だった。けれども口紅はすぐに落ちるのであまり使わない。朝メイクしたてはばっちりだが、午後になると素の唇になっている。そのくせ塗り心地は悪いので、せいぜい色つきリップを使う程度だった。
「いらっしゃいませ」
ばっちりメイクをした綺麗なお姉さんが笑顔で呼びかける。一流コスメメーカーの社員だ。さすがに違う、肌が輝いているし目元がキラキラしている。唇もばっちり潤って
商品をチラ見するだけならいいだろうと、カラフルな商品が並ぶカウンターに視線を流す。発色の良いオレンジ色が見えた。私が好きな色だ。
「いかがですか、気になった色はございませんか」
カウンターの綺麗なお姉さんは私の目を見て言う。私の一瞬の視線をつかんだ、さすがプロ。
「その、オレンジ色、綺麗ですね」
シカトは出来ない。私はそれだけを言う。
「まぁお目が高い! こちらは新色なんですよ。よかったらお試しになりませんか。お客様にお似合いだと思いますよ」
試す……。試すだけなら……。いや、はっきりと断らないと。
「お時間大丈夫ですか?」
「あの、今日はお皿を買いに来ていて……化粧品は買わない予定なんですよ」
私は苦笑いをしながら正直に言った。
「もちろん、かまいませんよ。お試しになるだけでも」
「えっ、本当に買わないですけど、いいんですか?」
「ええ、お試しになってくださるだけでも」
「じゃあ、オレンジだけ試そうかな」
私は安心して上機嫌になっていた。
カウンターの椅子に座り、首から小さい紙エプロンをかけられた。
「前髪失礼します」
綺麗なお姉さんはそう言って、ピンで私の前髪をななめに
「あ……すいません、再び失礼します」
「いえ、短いので。あはは」
私の前髪は短めなので、ピンから前髪が落ちてしまった。綺麗なお姉さんは再びピンで留める。
「では今なさっているアイメイクを落としますので、目をつぶっていただけますか」
リムーバーを含んだコットンがまぶたに当てられる。
「今なさっているアイシャドウも綺麗な色ですね、もったいないですがいったん落としますね」
「ありがとうございます、プロの方に誉められて嬉しいです」
私はとても良い気分になっていた。普段は自分でやっているメイク落としが、他人にやってもらうだけでこんなに心地良いなんて。
そういえばマッサージもだなぁ。自分でハンドマッサージをやっても大したことないけれど、お店でやってもらうととても気持ちが良いもんなぁ。
「では、メイクを落とした部分に化粧水をつけて、下地入りのファンデを塗りますね」
「はい」
はい、と言ったものの。そこまでするのかと驚いた。確かにファンデの上からじゃないとアイシャドウは乗らないだろうし。
アイシャドウ一色を試すだけでもここまでするんだなぁ。
メイクを落として再び化粧水からつけてもらう。下地入りのファンデをつけて、お粉をはたく。
お目当てのオレンジ色のアイシャドウの前に、下地代わりにベージュ寄りのクリームアイシャドウを仕込むと説明される。
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