オシャレな写真

青山えむ

第1話

 初雪はいつだったかな。降ったときは少し騒いだのだろうけれど、すぐに忘れてしまう。

 気づいたら十二月、雪はさらっと積もっている。まだショートブーツで歩けるくらいだ。オシャレもたのしめる。


 師走しわすとはよく言ったものだと思う。毎年十二月になると一気に慌ただしくなる、世間が、周りが。それにつられて私までせわしい気持ちになってしまう。

 今年やり残したことはないか。年内に片づけたい事案はあるか。

 そんなことを思って慌ただしくなるのだろうか。まぁ、周りが……とは言いつつ私も一気に押し進めたくなる。何かを。何か、は分からないけれども。


 私が勤めている製造会社でも、この時期は一気に注文が入る。

 私は事務職だけれども、現場では家電量販店で売られている製品を作っている。お正月のセールで大売出しをする店が多いのだろう。嬉しい悲鳴を上げながら残業の日々だ。注文の追加やキャンセル、配送のトラブルなど様々なことが起こる。


 確かに、注文が入るのはとってもありがたい。けれども疲れてくるのも事実。

 しかし職場でそれを口にするわけにはいかない。疲れているのはみんな一緒だし、愚痴を言うと士気が下がる。少しでも気分を上げるために、ピンクのチークを選ぶ日が増える。


 残業してから帰ると帰宅ラッシュを避けられるので、それはラッキーだった。

 帰り道は、車を運転しながら一口サイズのお菓子を食べてパワーチャージをする。夏だったらコンビニでラテを買ったりしたけれど、寒い時期は車から出たくないのでお菓子を用意してある。

 道路脇には少しだけ雪が残っている。大通りの雪は解けているが、日陰になっている場所はなかなか解けない。この程度の雪で終わればいいなぁ。


 私は二年前から一人暮らしをしている。仕事して帰宅してから晩ごはんを作るのは本当に体力と気力を使う。私の母親も、世の大人も、みんなそれをやってきたのだと思うと心の底から尊敬する。それに気づけただけでも一人暮らしをした価値はあるかな。

 晩ごはんを作るパワーのために、運転中にお菓子でパワーチャージをしていたわけです。我ながら、良いアイデア。


 寒い時期は鍋メニューが続く。材料を切って煮るだけなので楽だというのが一番の理由かな。今日は海鮮だしの鍋つゆにしよう。最近は一人前の分量でポーションタイプになっている商品があるのでとても便利だ。重宝しています。


 鍋の具を食べ終わり、ごはんを入れて雑炊でしめる。

 ゆるくなったごはんをスプーンで食べる。

 はしではなく、スプーン。この楽するゾーンに入ると私はスマホスタンドにスマホを立てかける。いつものアイコンを押す。

 この時間帯に、こうして写真投稿が中心のSNSを見るのが日課になっていた。

 友達の近況を写真投稿で知る。あの人と遊んだとか、あの店に行ったんだとか。程よい距離感が楽だった。


 あとはレシピ動画を見て料理をした気分になる。今後使えそうなら保存しておく。レシピやカフェのページが流れてくる。私へのおすすめなのだろうか。気になるので見てみる。

 最近はカヌレの文字と写真が目につく。私は食べたことがないけれど、先輩が美味しいと言っていた。流行っているのだろうか。チーズケーキもよく出てくる。スフレタイプやベイクド、バスチーもおいしそうだった。

 一番目を引いたのはアフタヌーンティーセット。昔の貴族がお茶会で食べていたやつ。見た目だけで勝っている。いいなぁ、私も食べてみたい。

 私もこの、写真投稿が中心のSNSに登録はしている。ただ、自分で投稿したことがない。

 写真に興味はないし、特に映したい・見せたいものなんてなかったし。でも見ていると、なんだかその気になってしまう。思い立ったが吉日。年内に片づけたいこと。

 決めた! 私もオシャレな写真をアップするぞ!


 

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