「隠されたクエスト」
翌日、僕はエルグドラシル凪の森へと足を運んでいた。先輩と二人きりではなく、シーカーやエルルも一緒。あ、二人に対してタメなのは本人たちがそのほうがいいからと言って聞かないからだ。
「シーカー。本当にここで合ってる?」
「合っとるで。そこに隠れたクエストあるはずや。一人一回までやけど、人数の制限のないクエストがな」
道のない森の中にあるクエスト。トップランカーだった先輩ですら知らなかった情報で少し怪しくもある。でもレベリングついでにと自信満々にお勧めされ、案内されているからそう言えないのも事実。
正直、初心者でもこんな深い森の中にクエストも、NPCもいるはずがないとしか思えない。
「おっと、少年そこで下見てみ?」
探しながら歩いていたがそれらしきものは全く見えなかったのに、急に歩みを止められ指示に従う。
下を見ても、見えるのは草と土。これと言って変わった様子はない。どういうことか説明を求めるため、振り向こうとした刹那。森の中なのにガキンと金属と金属が勢いよくぶつかったような音が響いた。
「そこは一見したら何もないねんけど、一旦特定の場所を通り越してから下を向くと条件が達成されて、襲撃のクエストが起こるんやで。この間偶然見つけたんよ。しかも報酬が上手い」
「なんでそれ早く教えてくれなかったの!?」
「昨日教えよう思ってたのに拒否したんはトーカやろ」
「うぐっ」
聞いてるだけじゃあ特殊な出現方法。攻略ソロを基本としていても簡単に見つかるものではない。それを偶然見つけたというのだから、運がいいとしか思えない。実際ここに来るまで魔物と遭遇した数が少ないし、倒した時必ずと言っていいほどレアアイテムがドロップしていたほどだ。
――そもそもこの間発見したなら昨日以外伝える術無いような。
思わず苦笑いをしていると、警告音と木の葉が擦れる音がけたたましく鳴り響き、暴風が身体の自由を奪った。
「ミカミ、トーカ来るで!」
大きな気配を感じて空を見上げる。木々の葉っぱの隙間から見えたのは大きな翼を四つ備えた魔物。黒くぎらつく鱗、唸りを上げる声から龍だと判断できた。
ここから攻撃は当てられない。それは向こうも同じで、今は準備時間と言ったところだそうだ。しかし一定の距離離れてしまうと未達成として処理されてしまい、一日待たなければ再度挑戦できない。加えて、時間制限もあるからゆったり準備することもできないらしい。
「攻撃、守備、速度、復活バフ、エンチャント……いつでも行ける」
エルルのエンチャンターの本領であるバフ。備えあれば憂いなしと言わんばかりに、色んなバフを発動しては暖かな光となって僕達の身体を護りに入る。
まさか敵が龍だとは思っていなかったものの、バフのおかげで心の余裕ができた。三人とも準備は整ったのを確認したのち、龍が向かった方角へと足を運ぶ。
草木生い茂る森を掻い潜ってたどり着いたのは崖上の広間。その真ん中に先ほど見た龍が鎮座していた。
「貴様か。我が巣に足を踏み入れたのは。恥を知るがいいニンゲン」
ゆっくりと開かれた龍の口からはっきりとその言葉が聞こえ、こちらが龍が喋ったとありがちなリアクションを取るのを遮るように、咆哮と音による衝撃波が飛んで来る。
龍が続けざまに前へ飛ぶ。四枚の羽根で風を掴んでいる為瞬きの間に間合いに入られ、気づいた時には横薙ぎの尻尾攻撃を食らってしまった。
来た道に戻され、大木の幹に背中を強打。ゲームだからこそ痛みで済んでいるが、現実だったら息が止まるし、骨が砕けている。実際、HPバーが今の一撃で五割削られた。防御バフがどのくらい軽減してくれているのかまではわからないけれど、素だったら間違いなく瞬殺だった。
痛みが全身を襲い、立つのがやっとなのは今の攻撃で『裂傷』のデバフを受けているから。動くほど激痛が身体を蝕み、HPが減っていく嫌なデバフだ。
それでも立たなければ戦力にもならない。痛みを我慢しつつ、HPを回復する液体が入ったアイテムを取り出して飲み干し、前を向く。
攻撃を受けたのは僕だけかと思っていたが、エルルも受けていて僕よりも致命的なダメージが入っている様子だった。加えて攻撃の衝撃が強かったのか、気絶していて起きる気配がないときた。
体に鞭を打って駆け寄ろうにも、前線で戦ってる二人が苦戦を強いられている。龍のHPも相応に減っているから互角だろう。とはいえこっちは攻撃力と守備力、素早さとステータスをバフで上昇させてそれだ。先にどっちが倒れるかなんて目に見えている。
「あの龍、強すぎないか……?」
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