「ミカミ君、君にはがっかりだよ」
正直相当な腕前を持つ先輩でも苦戦を強いられているのなら勝てる気はしない。情報を提供してきたシーカーは報酬のことを知っていたのだから間違いなくクリアしているはずだけど、一人でクリアできる難易度じゃないのは一目瞭然だった。
それに動体視力は先輩の方が上、ミリ単位で動いたものを見極めて的確な回避行動を起こせていたものの、回避の方が多くて攻撃は少ないように見える。
対して僕の動体視力ではシーカーの素早い動きと同じ速度を叩きだす龍の動きを捉えることができていない。このままだと足手まといもいいところだ。
「ミカミ!!」「ミカミ君!危ない!」
「え」
相手の強さに呆然としていて、二人の声を聴くまでそれに気づかなかった。はっと我に返っても遅く、目の前に隕石と思えてしまう大きさの火球があった。
HPも残り少ない。このまま受けてしまうと退場待ったなしだ。かといって身体が言うことを聞かない。無理やり動かしたとしてもその範囲から逃れれる自信は全くない。一体何を見込んで僕を選んだのかはわからないけど、結局僕の実力はここまでだ。
死に際だからかはわからないけど、時間がゆっくりと流れるような変な気分に浸りながら目を閉じた。
僅かな時間でHPがごりっと削られる。焼ける痛みも多少感じる。ゲームの世界なのに意識が遠のくのがはっきりとわかる。ここまで再現されているのは正直驚きでしかないが、所詮はゲーム。一分のリスポーンタイムを経て、始まりの町の教会で復活した。
直後、僕の隣で淡い光が形を作り始める。滅多に見ることはない復活の瞬間を目の当たりにし驚いていると、現れたのは先輩。それも武装の解けた状態で目がしっかりと合った。先輩とわかったのはフレンドの状態とIDが見れたからだ。
――って、え? 先輩が死んだ……?
復活の瞬間に驚いてそのことに気づくのが遅れた。歴戦を潜り抜けていた先輩がいくら押されていたとはいえ、あっけなくリスポーンするはずがない。最悪あの場から逃げてここに来ることだってできたはず。なのにどうして先輩がここに……?
理解に困っていると、宝石のような赤と黄色のオッドアイを据わらせ、小顔に似つかわしくないほど怒りのオーラを放ち言った。
「ミカミ君、君にはがっかりしたよ。君の力なら最初のはともかく、さっきのブレスくらい避けれたはずだよ」
「いや、その」
「言い訳無用」
信用していたからこそ、先輩の言葉一つ一つが鋭い刃となって、僕の精神を攻撃してくる。だから人は信用したくないんだ。簡単に裏切って、仲間として認めなくなるから。先輩もその一人。そう考えるにつれて、僕も苛立ちが溢れてくる。
けれどその怒りをぶつける直前。先輩が息を強めに吐いて口火を切った。
「それで、何で悩んでたのさ。どうせあれを見て、足手まといだとか思ったんじゃないの?」
「そ、そうだよ……! 先輩は僕の何を見て頼ったのか知らないけど、いきなり埒られて、こんなゲーム紹介されて挙句に手伝え? 話に流されて断ろうにも断れなくて、今に至る僕も僕だけどさぁ! 初日に言ったよね、困るって! 僕達は協力関係だって言うのに、先輩はいつも隠し事ばかりで、重要なことは一つも教えてくれないし! 僕には見合わない敵に瞬殺されたのに会うやいなや第一声ががっかりとかさぁ! 僕のこと何もわからないくせに勝手に先輩のエゴを押し付けてきて、先輩結構自己中なの自覚するべきだよ! そもそも僕よりも全然動ける知り合いが近くにいるんだから、僕を育てるよりその人と一緒にやったらどうなの!?」
悩んでいたことをそっくりそのまま当てられて、とうとう爆発してしまった。ため込んでいたものがあふれ出て、申し訳なさで先輩の顔をまともに見ることができない。本当はこんなこと言うつもりはなかったのになんて後悔してももう遅く。
「……ごめん、そんなに、気にしてるって、思わなくて……ごめん」
その言葉に顔を見上げると一瞬怒りの表情ではなく、今にも泣きそうな顔をしていて、そのまま光の粒になって消えた。フレンド状態はオフライン。つまりログアウトしたようだ。
言うつもりのない言葉が出たとはいえ、流石に言い過ぎた。謝ろうにも今ログアウトして話すのは気が引ける。というか気まずさが空気の壁になって話すらできない気がして仕方ない。
もう気分的にゲームはできない。家に帰るにもログアウトは必須で、先輩のことが頭をよぎる。それでも多分戦場を離れてここに向かっているシーカーたちには申し訳ないけど、僕もログアウトすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます