「シーカーとエルル」

「なんや少年……まさかこいつのこと知らんで協力してるんかいな」


「まあ……切羽詰まった顔で半ば強制的に協力してって言われて断れなかったので……」


「はぁ……そうか、とりあえずここじゃあめんどくなる。さっきのレストランで落ち合おうや」


 僕の言葉で落ち着きを取り戻したシーカーさんの提案。確かにゲーム内ここだと話しにくいし、聞かれる可能性もある。個別でのやり取りをする方法もあるけど、一対一でしか使えないから今は不向き。


 となれば提案にのって現実で話すしかない。僕たちは直ぐにログアウトしてレストランへと訪れた。


 ログインしたり、ログアウトしたり、戦ったりと今日に限って世話しないゲーム事情。もうないことを祈り、レストランの店員に不思議そうな眼を向けられながら二人を待った。


 座ったのはテーブル席。この後二人が来るからとはいえ、先輩が僕の隣に座っていた。やけに距離が近いように感じるし、警戒の色すらないから本当に怖い。


 心の中で悲鳴が溢れ、変に固まっていると今日だけで耳にタコができるほど聞いた声が聞こえた。


「待たせたなトーカ」


 通路側の方を見れば、またも口から白い棒を生やした関西弁の女性、PN『シーカー』さん。背中に隠れながらこちらを見ているのが、恐らくPN『エルル』さんだろう。


 さらっと先輩の名前がシーカーさんの口から出てきたことを含め、先ほどの問いの答えを、僕達の前の席に座って話し始めた。


「少年」


「水上です」


「そないなのどうでもええやろ……んで少年が聞いてきたことやけど、答えはイエスや。うちはトーカのことを知っとる。せやけど、自分が欲してる情報は、ずばりトーカの正体やろ?」


 名推理と言わんばかりのどや顔で指摘してくる。事実彼女の言うとおり、一番欲しい情報は先輩の正体。それを一言一句間違わずに当ててきたのだから、返す言葉が思いつかない。


「なんなら、ウチらのことも。やな。欲張りなやっちゃなぁ」


 ニヤつきながらまるでこちらの思っていることを掬い取ったような発言。相手の手のひらの上にいるような妙な緊張と感覚に生唾を飲み込む。


「さて、本題や。トーカが何者なのか。ほんまは本人が言うべきやと思うねん」


「な、中々言いづらくて」


「ちゃんと教えなあかんでほんま……まあしゃーないからウチが説明したる。トーカは、フィクロのランカー。それも一位に君臨していたんや。でもある時を境にフィクロから姿を消した」


「ちょうどその時にデータが取られたんだよね……」


「そないなことがあったんやな……道理で姿を消したわけや。ともあれ、ウチが知ってるのはここまでや。リアルじゃあ初めましてやから知らないことばかりやし」


 ランカー。僕がガンシューティングアーケードゲームで一位だったのと同じように、先輩もフィクロのランカーだった。聞いても驚かないのは、初めて会ったときのガンアクションプレイスキルと、教え方の上手さのせいだ。


 加えて嘘である可能性は、信頼の緑が浮かんでいるのだから無いに等しいはずだ。


「ほんでウチらのこと。そんな自分語りしたくないねんけど……ウチはシーカーこと志羽葵しばあおい。職はアサシンのヒューマニア。情報屋やっとる。んで、こっちはエルルこと志羽あかね。職はバッファーの上位互換、エンチャンターや。種族はウチと同じやで」


「だから燃やせたんだ。バッファーだと思ってたから不可視の灼熱を付与あれ見てひやひやしたよ」


「せやろ? そのままだとバッファーと間違われるからそれを利用したんや。まあ……本当は自信もってやってくれるとありがたいんやけどな……」


「しょ、正直、咄嗟……来るって思わな、かった。一番強い、トウカ以外、勝てた、から。油断、してた」


 ずっと下を向いていた茜さんが独特な口調で言葉を発した。漸く目が合った途端、黒が強い感情から何かしらの恐怖を抱えているのが見えた。何に対しての恐怖なのかまでは隠れていて見えない。こういう感情の色はあまり見ないが、他人の、それも初対面の感情だ。詮索しないに限る。


「み、水上君、凄い。魔法、効かなかった。なんで……?」


「せやな、それは不思議だったんよ。なんで効かないん?」


「いや、効いてましたよ。あと少しでHP終わってました」


「じゃあ耐性か……そういえば少年のこと改めて教えてもろて良き?」

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