「ハイランダー専用スキル」
作戦の締めを飾るのは、僕のスキル。先輩の合図と共に剣を地面に放り投げ、人差し指と親指を立てた右手で銃の形を作る。
そのままでは急な挙動不審な行動で頭のネジが飛んだのかと勘違いされるだろうが、それについては問題はない。
「エクステンドブレイカー」
小さく呟いたスキル名。詠唱はない代わりに手の中に現れる違和感をしっかり感じていないと発動しない、ハイランダー専用のスキルだ。
効果は僕の指先から魔力の弾丸が放たれるだけ。接近戦の多いハイランダーの唯一の遠距離攻撃。それを極めると本当に初心者向けのオールラウンダーとなると聞いたが、接近戦で慣れてしまうプレイヤーが多く、このスキルの存在や使い心地は一部の人しか知らないらしい。
ちなみにこのスキルは先日の鹿を倒した後に手に入れたスキルで、使うのはこれが初めてだったりする。
そしてこれが使えたということはエルルさんがちゃんと気絶している証拠。起きないうちに
「はっ! エルルを倒したんは驚いたけど、そないな見せかけの銃でウチを倒せると思ったら大間違いやで!」
「なら、私の腕から出ることをお勧めするよ。逃がさないけどね」
先輩に向けてバンっと自らの口で発砲音を出せば、手ごたえなんてあるわけないのに、引き金を引き反動の重みが伝わってくる。
薄く色づいた魔力の塊が刹那の速さで先輩を。捕まっているシーカーさんもろとも撃ち抜いた。
*********
「うちらの負けや……」
初スキルお披露目後、もはや一方的とも思えるくらいに勝負がついた。全ては、先輩が考えた自らの命を犠牲にして相手を捕縛する『見かけ通りは思うつぼ』作戦の賜物だが。
戦闘が終わりを迎えると、戦闘開始直前の町の活気が戻っていた。そんな中で、最低限通行人に邪魔にならないように道端へ移動し、シーカーさんとエルルさんが改まって正座をしている。エルルさんに至っては巻き添えだから凄く暗くなっていた。
「仕方ない。約束は約束や、うちらが持ってる情報をあげたる」
「そのことなんだけどさ」
突然先輩がシーカーさんの言葉を止め、話を始めた。
「初手のコンボ。やろうと思えばすぐに私たちをやれたよね」
「そ、それは、まあそう、やけど」
「そこで私をやらなかったのが敗因だよ。せっかく連敗記録塗りつぶせたのにもったいないことしたね
小さく笑って発せられた名前。目の前にいる人の愛称を今付けたのかと思えば、当の本人は目を大きく開けて固まっていた。
「なんでその名前……」
「まあわかるわけないよね。
すっと手慣れた動きで顔を隠している兜の面を上げた先輩は、見覚えないかなと言わんばかりにしゃがみ込んで彼女の顔を見つめる。
直後、彼女の顔が青くなった。どうしてなのかは全くわからないけど、とにかく先輩の顔を見た瞬間からシーカーさんの言葉が詰まり始めて、目が泳いでいる。
でも流石フルダイブゲームだ。現実でしかわかりえない血の気の引いた顔色を見事に再現している。
「な、なんで、早う言うてくれなかったんや……そないならレイドを二人で倒したんも納得できるやさかいに、戦う必要もなかったやん……」
「まあ、リアルであったのは初めてだったし、面白そうだったから」
「悪魔や……」
「まあ、話を戻すけど、私たちが勝った報酬。情報じゃなくて、仲間になってくれないかな。事情はリアルで話すけど」
「そないなこと、断ろうに断れんがな……」
僕を置いて話が盛り上がる二人。エルルさんは先輩のことを知って気絶してるけれど、先輩がそんなに凄い人なのか正直疑わしい。そもそも僕に協力してと言ったのに、実際何が目的なのか、どうして協力を求めてきたのか
こうした出来事を前に、本当に信じて協力していいのかちょっと不安になってきた。なにか良からぬことをしているのか、巻き込まれたのか。考えれば考える程、謎に包まれた真実の沼に落ちていく。
――このままではだめだ。
脳が訴えた。このままでは不安という名の深い海に飲み込まれると。何も知らない状態では協力なんて出来やしないと。
直後、僕の口は自然と動いていた。
「あの、シーカーさん……この人のこと何か知ってるんですか?」
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