第16話
ドキッと心臓が飛び跳ねた。兄と知幸の距離が近い。
空気感が親密だ。
誤解とは、恋人関係かどうかというだろう。
二人が本当に恋人どうしなら、目のやり場に困っているはずだ。
親密だけれど、男子学生がじゃれ合っている。もしくは、兄が一方的に構っているように見えた。
だから、二人は――
「知兄の片思い?」
プハッと笑う隆之介と、脱力する知幸。
この反応は当たっているのだろうか……?
「どこが片思いだよ。両想いだろ?」
無理やり雪の肩に組んでいた腕を引き寄せ、真剣な顔つきで言った。
「だから、怜生。雪には手をだすなよ」
「……う、うん」
曖昧に頷く怜生とは反対に、隆之介は
「……。そういうこと」
と、何かを察した顔で頷いている。
一瞬の沈黙の後、肩を組まれている知幸からスルっと抜け出た。
「おっ」
知幸は、体重をかけていた相手が居なくなり、ソファに手をついていた。
立った隆之介は、こちらに歩いてくると、怜生に向かって、手を払った。
「ちょっと、端に寄って」
「あ、はい」
「ちょっと、こら。怜生、こっちに座れ」
怜生が座っているところは一人用。男二人が座るには狭い。知幸に腕を引っ張られ、三人がけ用のソファに場所を移った。
「今日呼んだ理由は、知幸との関係を誤解させることでも、プリンを食べることでもない」
ソファの下に手を伸ばし、何かの包みを取り出した。
茶色いクラフト紙の袋。上部を折り、テープ止めされている。片手で持てるほどの大きさだ。
「卒業して、こちらに住むつもりなら、持っていてもいいだろう」
怜生に包み紙を差し出しながら言う。
受け取ると、重くない。見た目より軽い。
「開けてみて」
「はい」
テープを剥がし、中身を出す。
入っていたのは、防犯ブザーが一つ。
そして、もう一つは細長い黒いボディ。
「シャーペン? 違うか。ボールペン?」
持ってみると、ずっしりと重く、ボールペンにしてはひんやりしている。
ノックしてみると、ペン先は先が尖っているけれど、書けそうになかった。
「これは、タッチペン?」
隆之介に伺うように見ると、頷いた。
「タッチペンだが、少し特殊だ。俺の特注品。合格祈願にやる」
「ありがとうございます!」
手の中で転がしてみる。
いたって普通のタッチペンだ。
何が特殊なのだろう。
気になるといえば、重さぐらいだ。
鉄の棒を持っている感じだ。
これで、スマホゲームで連打したら手が疲れるほどに重い。
せっかくなので、自分のスマホをポケットから取り出し、試そうとしたところを隆之介に止められた。
「壊れはしないと思うけど、念のため試すのだったら知幸のにしとけ」
「おい」
怜生が知幸を見ると、止めろというふうに顔を横に振っている。
タッチペンなのに、スマホが壊れるってタッチペンの意味がないのでは。
首を傾げると、手から重みが消えた。
さっきまで手にあったものは、隆之介が持っていた。
軽く投げ上げては転がしている。
「前回のこともある。これは護身用だ。自分の身は自分で守りたいのだろう」
「……!」
どうして、そう思っていることを知っているのだろう。
兄が言ったのかと隣を見ると、眉を上げるだけだ。どう思っているのか読み取れない。
「催涙スプレーとスタンガンもいるか?」
真顔で聞かれ、ぶるぶると横に顔を振った。
明け方にコーヒーを。 立樹 @llias
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