愛のまま

来宮ハル

第1話

 寝巻き用の毛羽だったスウェットを脱ぐ瞬間が、毎日のルーティンで二番目に嫌いだ。最近ますます丸みを帯びてきた自分の身体と、それを締めつける下着を見る度に口では説明出来ないような気味悪さを感じる。一般的に見て、あたしの身体は太っているわけでも痩せているわけでもなく、ごくごく普通の女子高校生のそれなんだろう。


 理由は特に分からないが、この身体は、サイズの合っていない服に無理矢理締めつけられているような不快感を覚える。毎朝のことなのに、慣れない。

 ちなみに一番嫌いなのは入浴時に全裸になる時。まん丸なふたつの膨らみを目にすると、余計なものを後からくっつけられたような気分になった。この形を見るたび顔が歪む。


 学校の制服に着替えると、不快感が倍増する。スカートの裾が膝小僧の真ん中あたりをくすぐるし、先ほどまでスウェットに包まれていた脛は問答無用でさらけ出されている。この気持ち悪さといったら。

 外に出されて寒いのか、スカートの裾がこそばゆいのか、それとも他の理由か、あたしの膝小僧は泣きじゃくる子どもみたいにいつも震えていた。


瑞希みずき、さっさと朝ご飯食べんね。遅刻するばい」

「はーい」

「始業式から遅刻なんて、みっともなかよ」

「分かっとる。遅刻なんてせんし」


 皿の上に乗ったハムエッグを食パンの上に乗せ、マヨネーズをかけてから食パンを折りたたむ。こうやって簡単ハムエッグサンドにして、あたしは朝ご飯を胃につめ込む。

 牛乳をぐいっと飲みほし、しっかりと歯を磨いてからあたしは風のように家を飛び出した。


 バス停に到着すると道に沿って四人ほど人が並んでいる。毎朝同じバスに乗る、顔馴染みの人達。軽い会釈だけをしてあたしは最後尾に立つ。風が吹いてå、またスカートの裾が膝をくすぐった。たったそれだけで、全身に鳥肌が立つ。全身がむず痒い気がして、極限まで短くした襟足の辺りをばりばりと掻きむしった。


 あたしが通っているのは長崎市内にある女子校だ。よく進学校の滑り止めで受験をするような学校──別に偏差値が低いわけではないけど。あたしも第一志望の高校が不合格だったので、この高校へ入学した。

 校風は比較的自由だし、制服がスカートということ以外、特段問題はない。先生は生徒思いだし、風紀も乱れていないし、割といい学校だと思っている。


 春休み明けの始業日。玄関先に貼り出されているクラス替えのお知らせに女生徒が群がっている。

 あたしもその中に身体を滑り込ませて、クラス替えのお知らせを確認する。2年B組の欄に桐島きりしま瑞希みずきという文字列を確認して、あたしは女生徒のかたまりからすっと脱する。そして新しい教室へ。クラス替えなんてこれまで何度も経験しているのに、教室へ足を踏み入れるまで身体が固くなるのはなぜだろう。

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