矛盾
昔、言葉がでなくなってしまったことがある
スーパーでのバイト中、お客さんにクレームを言われたのが原因だった。
普段は大丈夫でも、レジに立つと言葉がでなくなってしまう。
必要最低限の言葉だけを、なんとか喉の奥からしぼりだしていた。
全神経を集中して、全身の力を使って、蚊の鳴くような声を。
仕事の日は、二時間寝ては起きてをくりかえすようになったこともある。
でも、コンビニでバイトするようになってからは接客が得意になった。
いわゆるクレーマーの人にも、きちんと対応できるようになった。
仲のいい常連さんもできて、なかには好意を寄せてくれた人もいた。
だけど、自分が客側になるとダメだった。
何かを聞くのも緊張してしまうし、
ひとりでお店に入るのも得意じゃない。
他人が怖くて、
どんな人も自分とは違う世界に住んでいるように感じられた。
でも、他の人からは話しやすいと言われたり、
嬉しい言葉を言われたりもした。
おもしろくて優しいし、彼女できないなんてことないよ。
もしかしたら、
それが本当の僕なんだと信じればよかったのかもしれない。
臆病で緊張しやすく、
他人が怖くて仕方がない自分から脱却できるはずだと。
でも、僕が怖いのは他人だけではなかった。
自分には心がないのではないか、
他人の気持ちがわからないのではないか。
それが真実なら、僕の中に矛盾はない。
僕の親しみやすさも優しさも、きっと偽りなのだろう。
少なくとも、僕の中にある盾は矛によって貫かれている。
自分を罰するように、何度も何度も。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます