第46話 歓迎会
二人は一度商会に戻り明日の出発に向け話を詰める。ロランは往復二日ならばここを離れても大丈夫だろうと判断し、エリシアの懇願を了承した。
「ありがとうっ! 出発は日の出前ね!」
「……早いですね」
「本当なら今すぐにでも出発したいのだけれどね」
「それはちょっと……」
この後職場の先輩達と歓迎会の約束があるため、それだけは遠慮させてもらった。少しの金を工面するだけのはずがとんでもない事に巻き込まれてしまったロランだった。
そして夜になり、ロランはエリクサー三本を売った金を持ち待ち合わせ場所に向かった。
「お~いロラン! こっちだこっち!」
「あ、先輩!」
待ち合わせ場所に着くともう先輩達が全員揃って待っていた。
「遅かったな。なにかあったか?」
「いや、それがですね……」
ロランは依頼内容を隠しつつ遅れた理由を話した。
「マ、マリーベル商会だと!?」
「すご~い! そこってこの都市一番の大商会じゃない!」
「お前なんだってそんな所に?」
「ちょっと財布に余裕がなかったもので……。いらない物を売りにいったんですよ」
「いらない物?」
「え、えぇ。以前ダンジョンで拾った物です」
「ダンジョンって! お前まさか戦いもできるのか!?」
「はい。執事は強くないと勤まりませんから」
「「「執事ってなんだ……」」」
次々とロランの力が露になっていくが、先輩達は逆に頭を悩ませるのだった。
そうして集まった一同はまず居酒屋に入った。
「「「「「かんぱーい!」」」」」
「か、乾杯」
歓迎会が始まりテーブルにどんどん料理が運ばれてくる。
「ん~! 美味しいっ。うちの店高級志向だから落ち着かないのよね~」
「だな。確かに美味いけど……庶民は居酒屋だよな」
運ばれてきた料理は肉野菜炒め、茹でた豆、サラダ盛り、肉厚な魚、鶏肉のソテー、芋煮だ。ありふれた料理だが実に落ち着く。
「ロランの作る料理も美味いが、俺はこっちだなぁ」
そこで一人の先輩がロランに尋ねた。
「ロランはさ、こういった居酒屋料理とか作れんの?」
「え? そうですね……。まぁ、作れますよ?」
「マジかよ!? 試しにどんな料理か言ってみ?」
「えっと……」
ロランは安価だが美味い料理を思い浮かべる。
「とりあえず焼き鳥、肉巻き、唐揚げ、磯辺揚げ、ほうれん草のバターソテーに……」
「も、もう良いっ! ここの料理が物足りなくなるから止めてくれぇぇぇぇぇっ!?」
「「「あはははははっ」」」
するとそこに居酒屋の店員が酒を運んできた。
「あんたら料理人かい?」
「え? まぁはい。カジノのレストランで働いてますが」
「ああ! あの最近やたらと人気の!」
「それはこのロラン君のおかげで~す」
「わわっ、先輩っ!?」
酔ってきたのか女の先輩がロランに後ろから抱きついてきて無理矢理手を上げさせられた。
「へぇ~……。実はちょっと聞こえてたんだよなぁ。焼き鳥がどうとか……。どんな料理か教えてもらっても良いかな?」
「え?」
すると先輩達が悪のりし、何ならロランが作ってこいと言い出した。それを店員と思っていたが実は店長だった男が快諾し、ロランを厨房まで引きずっていった。
「な、なんでこんな事に!?」
「まぁまぁ。今日の飲み代サービスするからさ! レストランを盛り上げたみたいにサクッとこう……な?」
「わ、わかりました」
それからロランによる料理教室が始まり、厨房スタッフがメモをとりながらロランの料理をマスターしていく。
「すげぇなぁ……。使ってる食材はうちのなのにめちゃくちゃ美味そうだ!」
「どうぞ食べてみて下さい」
「お、おぉ。じゃあ……この焼き鳥から」
店長が手にとったのは鶏皮だ。味は塩。表面をカリッと焼き上げ中は柔らかく仕上げた。
「う──うめぇぇぇぇぇぇっ!? なんじゃこりゃ!? 塩しか使ってねぇのに美味すぎるっ!?」
「店長! こっちの砂肝もやべぇっす!」
「いやいやこのねぎまだろ! これに勝てるもんはねぇ!」
「次はタレでどうぞ」
「「「か、神がいるっ!!」」」
そうして新たな料理を教え、作った料理をテーブルに運ぶ。
「……うん、なんかもう店やった方が良いわお前」
「そうね。これなら毎日大繁盛間違いなしだわ」
「この肉巻きとか酒に合いすぎるな! 一次会で潰れちまうぜ俺は……」
このロランが教えた料理をメインにこの居酒屋は大繁盛するのだがそれはまだ先の話だ。
こうして飲み代をサービスしてもらった一同は大満足で一次会を終えた。
「それじゃ私達はもう帰るわね~。あんた達はいかがわしいお店に行くんでしょ?」
「いかがわしくねぇっつーの。健全な店だわ。おっとロラン、どこ行くのかな?」
ロランはこっそり帰ろうとしたが見つかり、先輩に羽交い締めにされていた。
「あ、明日朝から馬車移動なんですよぉ~」
「なら馬車で寝れるな。よし、次行くぞ~」
「えぇぇぇ……」
「「「いってらっしゃ~い」」」
ロランは先輩達に連れられ女の子がお酌してくれる店に連れていかれた。そしてそこでたっぷり飲まされる。
「なぁ、ここ知ってる店?」
「んにゃ、店の前で声かけられた」
「は? だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だろ。一人セット銀貨四枚って言ってたし」
「なら良いけどよ……」
そこで女の子が先輩に声を掛けてきた。
「お兄さ~ん、私達も飲みたいな~?」
「おうっ、飲め飲め!」
「ありがと~! すいませ~ん!」
ボーイが女の子にドリンクを運んでくる。それから女の子達はどんどん酒を飲んでいった。先輩達もかなり酔い、そろそろ帰ろうと会計を頼む。そこで先輩達が真っ青になった。
「な、なんだこの額!?」
「どうしたんですか~?」
「どうしたもこうしたも……。一人銀貨四枚だろ!?」
「はい」
「それがなんで大金貨四枚になってんだよ!? おかしいだろ!」
「どうかしましたか?」
「「「うっ!?」」」
先輩の叫び声を聞いたのか強面でスキンヘッドの黒服が席に現れた。女の子達はそそくさと姿を消す。
「ど、どうかしましたかじゃねぇよ。大金貨四枚ってなんだよ! 俺は一人銀貨四枚だっつーから……」
「はい、セット料金は一人銀貨四枚ですよ。こちらが明細になります」
「あん? んなっ!?」
明細に詳しく料金が記されている。
「セット四人で金貨一枚に銀貨二枚、氷代金貨五枚……水代金貨五枚……。フード代金貨一枚と銀貨八枚、指名料女の子三人で金貨七枚……。女の子ドリンク……大金貨二枚!? めちゃくちゃだっ!!」
「何がめちゃくちゃなんでしょうかね? あなた方、女の子にあれだけ飲まして楽しい時間過ごしたでしょう?」
「こんなの払えるわけねぇだろ!」
「ちょっ、先輩抑えて!」
ロランは慌てて立ち上がる先輩を止めた。
「とにかく、払ってもらわなきゃ帰せませんよ。大金貨四枚、きっちり払うか……払えないなら痛い目を見たあげく金貸しの所に行ってもらうしかありませんがね?」
「くっ、このぼったくりが……っ!」
「これがウチの料金なんで。さ、どうしますか?」
すると次々に強面の黒服が現れ卓を囲んだ。
「先輩、ここは僕が出しますよ」
「え?」
ロランはスッと大金貨四枚をテーブルに置いた。
「ロラン! 払わなくて良いっ! こんなぼったくりの店によっ!」
「でも……確かに楽しみましたし、払わなきゃ荒事になるでしょ?」
「それは……」
「だったら払いましょう。で、次の被害者を出さないように宣伝してやりましょうよ。それでおしまいにしましょ?」
「……すまんロラン。絶対返すからよ」
「大丈夫ですよ。マリーベル商会でいらない物を売ったお金がまだありますから」
そうして高い授業料を払い、ロラン達は店を出た。
「……はぁ。まさかこんなクソ店があるとはな」
「だから知らない店に入るのは嫌なんだよ。キャッチとかもっての外だ」
「シラケたな。帰るべ……」
「「おお……」」
先輩達は肩を落としながら帰っていった。そしてロランは一人それを見届け、再び店に戻る。
「いらっ──なんだ、金持ちの兄ちゃんか。どうし──ぐほっ!?」
「てめぇっ!!」
ロランの拳がスキンヘッドの腹にめり込んだ。
「ぼったくりは犯罪だよ? 先輩達の悲しそうな背中……見てらんなかった」
「「あぁんっ!?」」
ロランは盛大に酔っぱらっていた。
「悪者は退治しなきゃ。はっ!」
「んごぉぉぉぉぉっ!?」
黒服がロランの蹴りを喰らいカウンターにぶっ飛んでいく。
「次」
「「「舐めんなごらぁぁぁぁぁっ!!」」」
「舐めてるのはあなた達でしょ。せいっ!!」
「ぐがぁぁぁぁ……っ!」
「い、いでぇぇ……っ」
次々に襲い掛かってくる黒服を薙ぎ倒し、最後に立っていたのはロランだけだった。そしてロランは床に転がるスキンヘッドの男の前にしゃがみこう告げた。
「今回だけはこれで許してあげるよ。もしまた他のお客様にも同じ事したらまた来るから」
「ぐっ……、わ、わかった。も、もうやんねぇよ……ぐふっ」
「そう祈るよ。じゃあまた」
ロランは赤い顔で宿に戻るのだった。
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