第二部 厄災
第40話 再びラス・ベガースへ
始まりはジェードの誘いに乗ったことだ。
「な、なんでこんな額に!?」
厄災まで一ヶ月、一行は枢の転移でラス・ベガースへと到着していた。そしてその日の夜、突然ジェードが部屋にやってきてカジノに行こうと誘ってきたのである。
「もしかしたら最後になるかもしれないんっス! お願いしますよ~ロランさ~ん! ここでギャンブルするのが夢だったんっス~」
相変わらずギャンブルが大好きなジェードには困ったものだ。そんなジェードになぜギャンブルが好きなのか聞いてみた。
「ギャンブルって戦いと同じなんっスよ~。あの勝つか負けるかわからないヒリヒリとした空気! 勝った時の幸福感! もうたまらないんっス!」
「負けた時は?」
「リベンジャー」
「その思考についていけないんですけど!?」
「いいじゃないっスか~。ロランさんお金持ちでしょ?」
「今はそんなにないよ? 戦いにお金いらないと思って国王に渡してきた」
「んなっ!?」
ジェードはロランにしがみついた。
「いくらっスか! 今いくらあるんっスか!?」
「な、なんでそんなに焦ってるの?」
「……てへっ」
どうやら各自部屋に移動した後の一時間で一勝負しに行ったらしい。そして有り金全部貯金してきたそうだ。
「なにやってんの!?」
「ここはギャンブルの聖地っスよ! ここにきて遊ばない奴はギャンブラーじゃないっス! 頼むっス~! あと虹金貨一枚あれば出る気がするんっスよ~」
「わ、わかったからまとわりつかないで!?」
現在ロランの所持金は虹金貨三枚だ。
「さ、行きましょうっス! スロットのレバーがウチを呼んでるっス!」
「次負けたら帰るからね!?」
そうしてカジノに移動し、最初はスロットを回した。
「ぐっ……ぐぬぬぬぬぬっ!」
ジェードが回している台は白金貨で回す高レートの台だ。虹金貨は白金貨百枚にしかならないため、瞬く間に吸い込まれてしまった。
「あのさぁ……もうちょっとお金大事にしたら?」
「い、今リーチ目が入ったんっス! もう少し回せば出るはずなんっス!」
「……なにこの手」
「も、もう一枚貸して欲しいっス……」
「こ、このダメ人間は……」
こんなのでも仲間だ。見捨てるのも忍びないが、このまま近くにいても全てむしられるだけだと思い、ロランはジェードに虹金貨を一枚渡し側を離れた。
「あんなの機械次第じゃないか」
そうしてジェードの側を離れたロランは残り一枚となった虹金貨を手に持ちカジノを見て回った。
「カード、ルーレット、スロット、サイコロか。……せっかくだし僕も何かやってみようかな」
この熱気にあてられたのかもしれない。普段なら絶対に手を出さないギャンブルが楽しそうに見えてしまう。ロランは虹金貨をチップに交換し、サイコロの卓に着いた。
ここは複数人ではなくディーラーと一対一で戦う場らしい。ルールは三つのサイコロを茶碗に放り出た目で役を作るチンコロだ。
一時間後。
「お客さん、負け分はキッチリ払ってもらいますよ?」
「イ、イカサマだ!」
「なに言ってるんですか。サマなんてやってませんよ」
「いや、だって! あんたが親の時だけジゴロとかアラシとかばっかりで……!」
「腕ですよ。ちゃんと力、角度、放る時の目を計算してやってるんですよ。適当に放ってるあなたと違ってね」
「う……」
ぐうの音も出ない。
「ベットは私が虹金貨五枚分。あなたの負け分は虹金貨十枚です」
「そ、そんな金今は持ってないよっ」
「なら借金するしかないですね。ちょっと裏行きましょうか」
「うぅぅ……」
ロランはカジノから連れ出され、借用書を書かされた。借金は虹金貨十枚、利息は一日一割と狂っていた。
「なるべく早く返さないと大変な事になりますよ? ではまたのお越しを」
「二度とくるかっ!」
借りたその場で借金は虹金貨十一枚になってしまった。しかも毎日一割ずつ増えていく。
「や、ヤバい。早く返さないと……」
「あ、ロランさ~ん」
「ん?」
表に出るとジェードが駆けよってきた。
「どうしたんっスか?」
「……はぁぁ」
ロランはジェードにサイコロで負けた事を話した。
「あはははははっ! あれは素人がやっても絶対勝てないやつっスよ。ディーラーはプロ中のプロっス」
「面白そうだと思ったのに……」
「で、借金はいくらっス?」
「虹金貨十一枚。明日になればまた一割増える……」
「……さ、さよならっス~」
「ちょっと! 貸した金は!?」
「スッカラカンっスよ! 厄災が終わったら必ず返すっス!」
「今必要なんだよっ! 一ヶ月も放置したらとんでもない額になっちゃう!」
「それは負けたロランさんが悪いんっス──ってズボン下げないでくださいっス!? 見えるっ! 見えちゃうっス!?」
ロランは必死だった。そしてその同時刻、ロランを負かしたディーラーは。
「【変身解除】っと」
「……」
カジノの一室で変身を解除し、本物と入れ替わっていた。
「わりぃなロラン。保険かけさしてもらったぜ」
こんな事ができる人物は一人しかいない。もちろん枢だ。そしてそれとなくカジノに行かせようとジェードを誘導したのも枢だ。
「闇金だけはマジもんだからなぁ。ま、戦いが終わったらダンジョンで稼いでくれよ。さて、帰るか」
こうして枢の企みにより再びロランに借金ができた。しかも毎日虹金貨十枚に一割の利息が追加されていく容赦のなさだ。
そして宿に戻ったロランは枢に転移してもらえないか頼んだ。
「だ、だめ? なんで!?」
「当たり前だろ。一ヶ月ってのは普通に移動したらそれくらいだって試算にすぎないんだ。もしワープ航法なんて使われたら明日にでも到着されちまうかもしれないんだ。だからここを離れる事は許されん」
「そ、そんな……」
「だいたい闇金から借りた金なんて返す必要ねぇんだよ」
「え?」
「どうせ国から許可された金貸しじゃねぇし、チンピラがやってんだろ。お前なら追い込みかけられても余裕でぶっ倒せるだろうし」
「それやったら僕のギフト全部消えちゃいそうです」
「……その時はその時よ」
枢は椅子から立ち上がってロランにこう告げた。
「だいたいよ、俺はこの星を管理してる神より偉いんだぜ? それに……全ての宇宙で一番偉い神ともダチだからよ。ギフトが消えるくらいで慌てる必要ねぇの」
「は、はぁ……」
「まぁ、どうしても返したいんなら戦いが終わってからにしな。今は大人しく待機だ。いいな?」
「……はい」
ロランはどんどん膨らむ借金に頭を抱えつつ、厄災の襲来に備えるのだった。
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