第22話 いざ、ダンジョンへ
王都から戻ってきた数日後、ロランの両親と妹はマライアの今後屋敷で働くため、ロランも通った執事養成校へと入学した。
「ロラン、父さん達頑張るからな。だが……年も年だし俺は農業しかしてなかったから時間がかかるかもしれん」
「自分のペースで学べば良いよ。無理しない程度にさ」
「ああ。お前からもらったこのペン、大事に使わせてもらうよ」
「うん、頑張ってね!」
そうして三人は学校に通い始め、ロランはアレン、セレナ、ジェードを連れてダンジョンに向かった。
「じゃあ裏ダンジョンから……」
「じゃあじゃないっ! 表の一階からに決まってるだろうっ!? 死んでしまうわ!」
「えぇぇ……。大丈夫だよ。魔物に一撃入れてくれたら後は僕が倒すし。一階からじゃ何年もかかるよ?」
「俺とセレナはまだ弱いんだ。頼むから一階からにしてくれ」
「わかった。じゃあ僕とジェードは後ろから指示を出すからアレン達が前で戦ってくれる?」
「ああ。それで頼む」
ロランはいきなり三人を裏ダンジョンに連れていきパワーレベリングをする予定だったが、アレンの猛反対にあい諦めた。
「ウチはアリだと思うんっスけどね~」
「それはお前達が強く戦いに慣れているからそう思うんだろ。セレナを見ろ」
「「え?」」
「……」
セレナを見るとありえないくらいガタガタと震えていた。加えて先ほどから一言も喋っていない。
「だ、大丈夫セレナ?」
「だっ、だだだだ大丈夫です! い、行きましょう!」
「にゃはは~、無理っぽそうっスね~」
「だ、だって~! 私っ、みんなは生き返らせられるけど自分は死んだら終わりだもんっ!」
そう言うセレナにロランはこう言った。
「そうさせないために僕達がいるんじゃないか。大丈夫だって。ダンジョンの一階なんて弱い魔物しか出てこないんだから」
「う、うん……」
「さあ行こう。まずは戦いに慣れなきゃ」
「わ、わかったわ……」
セレナはロランからもらった杖を抱え足を踏み出した。
「はぁっ!」
「お、アレンさんナイス~」
「てぇいっ!」
「セレナさん! 敵を回復させてどうするんっスか!?」
「ふぇぇぇぇぇんっ!?」
セレナが使っている杖は振るだけで代償なしの完全回復魔法が発動する杖だ。この杖は攻撃向きではなかった。
「だって私これしか攻撃方法ないし!?」
「ロランさん、何か違う杖出してあげて下さいっス……」
「あ、うん。じゃあ……これとか」
ロランはマジックバッグから攻撃できそうな杖を出す。このダンジョンに来る前にマライアから鑑定鏡を借り調べたものだ。
「これは?」
「ホーリーロッドだよ。振れば聖なる光がほとばしり敵を攻撃するらしい」
「あるじゃない! それ貸して!」
「あ、うん。はい」
杖を受け取ったセレナは壁に向かい軽く振ってみた。
「おぉ~!」
聖なる光の刃が壁に向かい飛んだ。
「これよこれ! さあ行くわよ~」
「大変っスね、ロランさん」
「まぁ……。昔はもっと大人しかったんだけどなぁ……」
この二年で慣れたのか、あれが本来の性格なのかわからないが、セレナは遠慮がなくなったように思える。仲間に遠慮されるよりは良いと思い放置していたら、セレナは何でもズバズバ言うようになっていた。
「たぁっ! はぁっ! え~いっ!」
《《ガァァァァァァァァッッ!!》》
遠距離からの攻撃手段を得たセレナはガンガン魔物を倒していった。それに伴いレベルもガンガン上がっていく。
そうして進む事地下十階。
「よし、そろそろ帰ろうか」
「え~……、まだやれるよ?」
「ダメ。そろそろ夕飯の支度する時間だし。僕達は執事とメイドなんだから。仕事はちゃんとしないと」
「はぁ~い」
ロランはふとアレンを見る。
「どうかしたアレン?」
「いや、俺はこれまでただ鍛練を積めば強くなれると劣っていたが……。魔物を倒した方がはるかに効率が良いと思ってな」
「鍛練は大事だよ? でもそれ以上にレベルアップの恩恵は大きいんだよ」
「そうみたいだな。これなら先に地下二百階に行った方が良かったかもな」
「だからそう言ったじゃないか!?」
「すまんすまん。初めてのダンジョンだから緊張していたようだ。明日はお前の提案通りにしよう」
「オッケー。じゃあ戻ろうか」
四人は転移魔法陣で地上へと戻り、ジェードのギフトで屋敷まで転移した。
「マライアさん、今戻りました~。さっそく夕飯の準備始めますね」
「お疲れ様ロラン。大丈夫? 疲れてない?」
「全然ですよ。今日は地下一階からスタートしたので」
「そうなの?」
「はい。二人がヒヨっちゃって」
「あはは。無理もないわね。二人ともまだレベル低かったろうし」
アレンはさっそく中庭で鍛練を始めていた。レベルアップした事で技のキレにどんな影響が出るか知りたいらしい。
「うぇ~……疲れたぁ~……」
セレナは暴れすぎたせいかクタクタになっていた。
「ただいま~!」
「お?」
「今戻りました」
「ん~……勉強って大変ね~」
そこにちょうど三人が帰ってきた。
「お帰り、父さん母さん、リリー」
「ああ……」
「どうしたの、父さん?」
父親はどこか疲れて見えた。
「勉強がな……。それと、周りがロランと同じくらいの年の子だらけでな、テンションについていけなくてな」
「あぁ……、なるほど。みんな元気いっぱいで大変でしょ」
「ああ。今からもう授業についていけるか心配だ」
「大丈夫だよ。わからない所があったら教えるからさ」
「すまんな……」
そんな父親とは対象に、母親と妹は元気いっぱいだった。
「お兄ちゃん聞いて~」
「なに?」
「メイドクラスにね、すっごい綺麗な人いた!」
「綺麗な人?」
「うんっ! でね、話を聞いたらうちの村があった土地を治めてた領主様の娘だった!」
「へぇ~……。もう仲良くなったの?」
「うんっ! 友達いっぱいできた!」
「そっか。じゃあ友達と遊びに行く時は僕に声をかけなよ」
「なんで?」
ロランは首を傾ける妹の耳元でそっと囁いた。
「お小遣いあげるからさ。友達と遊ぶにもお金かかるんだよ」
「お兄ちゃん……、借金は大丈夫なの?」
「もう完済してるから大丈夫。こう見えてお金持ちなんだよ僕」
「そっかぁ~……。じゃあ必要な時に声描けるねっ」
「ああ」
そう言い、妹の頭を撫でてやった。
「さてと、夕飯の支度しなきゃね」
「え? 母さんは休んでて良いよ? 僕が支度するからさ」
「ダメよ。私達居候みたいなものだもの。お仕事はしっかりやらなきゃ」
「疲れてない?」
「大丈夫よ。今日は座学だけだったし」
「そっか。じゃあ一緒に作る?」
「ええっ、ロランの腕前を見せてもらうわ」
「えぇぇぇ……」
そうして二人で厨房に入ったが、調理は主にロランが行った。そして盛り付けを母に頼む。
「……あなた、私より上手いじゃない」
「ギフトで【一流料理人】があるからだよ」
「う、羨ましいわね。っと、こんな感じでどうかしら?」
「うん、上手上手。さすが主婦やってただけあるね」
「家事は問題なさそうなんだけどねぇ。やっぱり作法とかはまだちょっと自信ないわ」
「そこは積み重ねだよ。頑張って」
「ええ。また一緒に暮らすために頑張るわ」
その後、マライアを含め全員で食卓を囲み、穏やかな夜を過ごしたのだった。
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