第12話 マライア動く

 朝町を出発したマライアは休みなく馬車を走らせ続け翌日王都に到着した。そしてその足で王に面会を求めた。


「いきなりどうしたのだマライアよ。そなたがここに顔を出すという事は火急の要件なのだろう?」


 マライアは国王の前で膝をつき頭を下げながらこう告げた。


「はい。以前より裏取りをしていましたオズワルド伯爵家について、謀反の恐れがあるため報せに」

「な、なんだと!? 誠か!」

「はっ。オズワルド伯爵家は隣国【バイアラン帝国】と裏で手を組み、無傷のまま帝国兵をこちらに送らせる密約を交わしております。かの家は国防のためと多少の悪事は見逃してきましたが……国に仇なす行為に触れたためもはや看過できない状態に入りました。証拠はこちらに」

「……うむ」


 国王はマライアから資料を受け取り目を通していった。


「……そうか。オズワルドは帝国から賄賂と共に自分の安全と帝国での地位を餌に釣られたか」

「はい。そして帝国に放った密偵の話ですと、どうやら戦の準備が始まっているようです」

「猶予はない……か。あいわかった。公安部に命ずる。オズワルド伯爵家の一族郎党捕縛して参れ」

「はっ!」


 その数日後、オズワルド伯爵の親類縁者全員が捕縛され、王都にて公開裁判を受ける事になった。


「被告デュール・オズワルドは帝国と結託し、我が国を脅かした嫌疑がかけられておる。何か言い分はあるか?」

「わ、ワシは潔白だ! やましい事など一つもないわっ!」

「情状酌量の余地なしか。仕方ない、証人をこちらへ」

「はっ!」


 すると証言台に帝国の貴族が連れてこられた。


「なっ!?」

「バイアラン帝国リンカー領主【ハラルド・リンカー】殿。そなたはこのデュール・オズワルドと結託し、我が国へと侵攻を企てた。この事実に間違いはないか?」

「はい。私はそこのデュール・オズワルドにこの話を持ち掛けられ、仕方なく受け入れました」

「う、嘘を吐くなぁぁぁぁぁぁっ! 話を持ってきたのは貴様だろうが!」

「黙らせろ」

「はっ! 【サイレンス】」

「──! ──!!」


 オズワルドは魔法で口を塞がれた。


「では帝国は被害者であり、我が国に侵攻する意思はない。間違いないか?」

「もちろんですとも。我が国とグロウシェイド王国の兵力は拮抗しておりますからな。戦ともなれば双方に甚大な被害がもたらされるでしょう。我が皇帝はそこまで愚かではありません」

「ふむ。この裁判での証言は記録されておる。もし侵攻してくるならばこちらとしても迎え撃つ準備は整っておる。帝国には賢い選択を期待する」

「ははぁ」


 そして裁判長はオズワルド伯爵に沙汰を下した。


「デュール・オズワルドの罪は重く、到底見逃せるものではない。国民全ての命を危険に晒した罪はその方ら親類縁者全ての命をもって償ってもらう。明日、刑場にて斬首刑に処す。連れていけ」

「はっ!」

「──っ! ──っ!!」


 オズワルドは親類縁者共々、愚劣な行いの代償として裁かれた。


「ではハラルド殿は解放しましょう。ここでの証言をお忘れなきよう」

「ええ、これからも良き関係であると伝えましょう」


 王の狙いはこれだった。命を救う代わりに侵攻を止めさせ、オズワルドも裁く。まさに計画通りに事が運んだ。


「これで一安心か。マライア、よくやった」

「ありがとうございます。ですが引き続き部下に監視は続けさせます。万が一があっては困りますから」

「うむ。後はそなたに任せる。下がって良いぞ」

「はっ」


 そして翌日、オズワルドは親類縁者共々斬首刑に処された。その中にはセレナを虐めていた女も当然含まれている。


「は、離してっ! 私はなにもしてないじゃないっ! あぐっ!」


 女の首が斬首台に固定される。そして泣き叫ぶ女の前にマライアが姿を見せた。


「ふふっ、今から死ぬ気分はどうかしら?」

「た、助けてぇ……っ! 死にたくないっ!」

「無理ね。全部あなたが悪いんだもの」

「……え?」


 マライアは女の頬を撫でながらこう言った。


「あなたは私のロランを侮辱した」

「ロ、ロラン……って。あの執事見習いの……」

「そう。あれは私のなのよ。ロランを侮辱する事は私を侮辱する事と同義よ。あなたの幼稚な行いで皆死ぬのよ。まぁ……いずれ伯爵の罪で同じ事になっていたけどね。死が早まったのはあなたのせいよ。絶望して──死になさい」

「──あ」


 マライアは笑顔でロープを切った。目の前で女の首が落ち、マライアの顔が朱に染まった。


「……ふぅ、スッキリしたわ」


 マライアは立ち上がり兵士に言った。


「後は任せるわ」

「はっ!」


 立ち去るマライアにオズワルド伯爵が叫んだ。


「この悪魔めぇぇぇぇぇっ! 呪ってやるからなぁぁぁぁぁぁっ!!」

「悪魔ねぇ。自分の罪を棚にあげてよく言うわ。さっさと地獄に落ちなさい。娘も先に行って待ってるそうよ?」

「ひ、人でなしがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 その後、オズワルドの親類縁者は国家転覆罪を企てた裏切り者として等しく裁かれた。


「ただいま、ロラン~?」

「あ、お帰りなさい! ってなんですかその血は!?」

「あぁ……これはね……。ふふっ、内緒」

「もうっ、早くお風呂で洗い流してきて下さい! 服は恐らくもうダメですね。処分しておきます」

「はぁ~い」


 そして久しぶりに四人で食卓を囲んだ。


「で、マライアさんは何してたんですか?」

「ちょっと悪人を懲らしめてたかな。国王の命令でね」

「……もしやオズワルド伯爵の件ですか?」

「あらアレン。なぜ、そう思ったのかしら?」

「いや、少し前にあの令嬢が兵士に連行されていきましたので」

「……そ。まぁ……正解よ。オズワルドは帝国と組んで戦を起こそうとしていたの」

「「「えっ!?」」」


 これには三人も驚いていた。


「そ、それでどうなったんですか? 戦は起こるんですか!?」

「大丈夫よ。未然に防ぐ事が私の仕事だからね。伯爵には家族もろともきっちり罪を精算してもらったわ」

「……斬首刑ですか。バカな親を持つと子は辛いな」

「あの人……死んじゃったんですね」

「そうね。オズワルド伯爵は大罪を犯してしまったのだから仕方ないわ」


 貴族であるアレンはこの事態をしっかりと把握していた。だがロランはどうにも受け入れられなかった。


「マライアさん、罪を犯したのは伯爵だけじゃないですか。なぜ親族全員が裁かれなければならないんですか?」

「そうね。じゃあもし伯爵だけを裁いたとして、残された親族は国をどう思うかしら?」

「それは……」

「わかるでしょう? 残された親族は国を恨み、同じ事を繰り返すわ。しかも二度目ともなればより狡猾にね。それだけ伯爵の犯した罪はそれだけ重いのよ。今回は未然に防ぐ事ができたけど次はどうなるかわからないわ。国を守るという事は生半可な覚悟では無理なのよ」

「……はい」


 マライアの言い分はわかる。国を、民を守るという事はこういう事なのだろう。


「国を守るって大変なんですね」

「そうね。戦は起こってからじゃ遅いのよ」

「はいっ!」


 こうして伯爵家の問題は片付き、国は戦を回避できたのだった。

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