借金奴隷から始まる成り上がり!~自由を求めて足掻いた結果、世界を救う英雄になりました~

夜夢

第一部 始まり

第1話 借金奴隷にされました

 これは少年時代に不幸な出来事に巻き込まれ、それでも腐らずにやがて英雄へと至る少年の物語である。


 ここは世界の片隅にある国【グロウシェイド王国】。その中にある小さく長閑な村で少年は両親と妹の四人で仲良く暮らしていた。


 そんな少年の夢は一流の冒険者になる事だった。一流の冒険者になれば両親と妹に今より良い暮らしをさせてあげられる。少年の家は村の中でも貧しい方だった。


 父親は農作業に従事し、母親は村にある宿屋の手伝いをしている。それでも家族四人で裕福に暮らす事はかなわない。


 妹はまだ幼く、両親が働いている間は少年が面倒を見ていた。


 この世界では成人すると神様から必ず一つ以上何かしらの【ギフト】といわれる特別な力を授かる事ができる。この世界ではこのギフトが先の人生を左右すると言っても過言ではない。


 そして少年もこの儀式を受ける日が間近に迫っていた。


 しかしそんなある日の夕食時、いつもと変わらない普通の食事時だったが、少年はスープを半分ほど平らげたところで強烈な眠気に襲われた。少年は突然の眠気に抗えず、テーブルに伏してしまった。


 そんな少年を見て母親が涙を浮かべる。


「あなた……、どうしても【ロラン】を置いていかなきゃならないの? こんなの……あんまりよ……っ」

「家族を守るためにはもうこうするしかなかったんだ……っ! ロラン、愚かな父を許してくれ……っ!」


 そんな両親にロランの妹が首を傾げて尋ねる。


「パパ、ママ? なんかお兄ちゃん寝ちゃったよ~?」

「つ、疲れてるのよ! さあ、あなたも早くご飯食べちゃいなさい」

「? は~い」


 そしてロランの妹もスープを口に含むと深い眠りに就いた。


「よし、今の内に荷物をまとめよう。必要最低限の物だけにしてくれ。深夜村のみんなが寝静まった頃に村を出るぞ」

「うっうっ……」


 母親は度々寝息を立てるロランを見ながら涙を流す。


 そして翌朝。村がにわかにざわつき始めた。


「なんだぁあいつら?」

「あのナリ、悪党にちげぇねぇ。関わらんとこうや」

「くわばらくわばら……」


 村では見慣れない三人のいかつい男がロランの家に入る。そして家の中を見回した後、テーブルに伏して眠るロランを叩き起こし始めた。


「おい、おいっ!! 起きろごらぁっ!」

「わぶっ!? な、なに!?」


 ロランは怒号と顔にバケツで水をかけられ飛び起きた。そして何事かと辺りを見回す。すると目の前に初めて見る髭面スキンヘッドのいかにもな悪人がいた。ロランは声を震わせながら何とか尋ねた。


「ど、どちら様でしょうか?」

「あぁん? 見りゃわかんだろうが。取り立てだよ取り立て! おう、親はどこ行った? 隠すとためにならねぇぞゴラ」

「え?」


 男に言われ初めて少年は家の中を見回した。家の中はほぼ空で、元から物は少なかったが、わずかにあった金目の物は全て消えていた。


「え? じゃねぇんだよ。今日は返済日だ。利息分の白金貨三枚、どこにある」

「し、白金貨三枚!? そんなお金家にはないですよっ!?」


 この世界の通貨は全世界一律であり、最小単位が銅貨、続いて銀貨、金貨、大金貨、白金貨、黒金貨、虹金貨となる。


 国の情勢により貨幣価値は変わるが、平均してリンゴ一個が銀貨一枚なので、男が言った白金貨三枚はロランにとっては見たこともない大金だ。


「借りた金は返す。こりゃあ当たり前の事だぜ、坊主。親が逃げたんなら……坊主が代わりに払わなきゃなぁ?」

「……え? な、なんで!? 知ってるんだぞっ! この国じゃ親の借金は子どもに引き継がれないんだって!」

「あ? ははははははははははっ」

「な、なにがおかしいんだよっ」


 男は大声で笑った後、少年の胸ぐらを掴み持ち上げた。


「うぐっ!?」

「ガキの癖になかなか勉強してんじゃねぇか。偉い偉い。だがよぉ……そりゃあ表の金貸しに限るんだわ」

「お、表……っ」

「おう、俺らは裏の金貸しだ。他にも色々やってるぜぇ? 殺し、密売、後は……奴隷商とかな?」


 男の言葉を聞いた少年の顔色は真っ青になった。


「こ、殺すの?」

「はぁ? んな金にならねぇ事すっかよ。お前は面もまぁ良いしよ、奴隷落ちだな。お前の親が借りた金は利息分を含めて虹金貨三枚と白金貨三枚だ」

「そ、そんなに借りてるわけないっ! 見ての通り家は貧乏だろっ!」

「坊主、連帯保証制度って知ってるか?」

「連帯……保証……。ま、まさか……」

「お前の親父はダチに騙されて虹金貨三枚の借金を背負っちまったんだわ」

「そ、そんなっ!? 借りた人は!?」

「もう飛んじまってんよ。行方不明だ」


 借りた本人が返せない場合、同じく借用書にサインをした者が支払わなければならない。ロランの父親は友人を信じ、借用書にサインを書いていた。テーブルに借用書が置かれサインを確認したが、確かに父親の筆跡だった。


「ウチの金利はトイチよ。十日で一割の利息が発生するんだわ。つまり、今日が最初の返済日って事だ。さあ、今すぐ利息分の白金貨三枚払ってもらおうか」


 そんな大金を子どもが支払えるわけもない。男は家の中に押し入ってすぐに異変に気付いていた。そしてこの状況から一番金になる道筋をすでに立てていた。


「払えねぇならお前は借金奴隷だ。虹金貨三枚白金貨三枚、さあ払ってもらおうか?」

「は、払え……ません……っ」

「なら仕方ねぇな。おい、このガキ連れていつもの商人に売っ払ってきな」

「「へいっ」」

「は、離せちきしょぉぉぉぉぉぉぉっ! なんで僕が知らない誰かの借りたお金を返さなきゃならないんだよぉっ!」

「それがルールだからだ。嫌なら裏の金貸しなんて使わなきゃいい。それでも借りたのはお前の親父のダチだ。まぁ……恨むならそいつを恨むんだな」


 そうしてロランは父親が親友に騙され背負った借金をさらに背負わされ借金奴隷へと堕ちた。借金奴隷は売り主から借金の額を引き継いだ奴隷商人の物となる。借金を全て返済して初めて自由になれる。


 この時点でロランが抱えた借金は虹金貨三枚と白金貨三枚だ。普通に働いた所で到底返済できる額ではない。


 ロランは逃げられないように手足に枷を嵌められ、馬車で奴隷商人の屋敷へと運ばれることになった。村の住人もロランが連れて行かれる様をチラチラと見ていたが、関わらないようにと助けもしない。


 ロランは頭から布を被せられ馬車で運ばれていった。景色が見えず、自分がどうなるかわからなかったロランにとって馬車がどれだけ移動したかもわからない。


 やがて馬車が止まり、ロランは布を被せられたまま男二人に運ばれていく。どうやら目的地に到着したようだ。


 男二人が立ち止まり、ロランを脅した男が会話を始めた。


「姉御、また奴隷の買取り頼みたいんっすが……」

「はぁ? またかい? つい先週もあんたん所から買い取ってやったばかりじゃないかい」


 室内で立派なデスクに座りキセルをふかしながら金を数えている女がいる。髪は真っ赤で片目に眼帯をしていた。


「いや、借り主が飛んじまいまして。けど……今回の商品はちっとばかり自身がありますぜ? おい」

「「へい」」


 男二人が少年にかけられていた布を外した。


「ま、まぶし──」


 急に布を外されたため、ランプの灯りが少年の目に突き刺さる。


「こ、これは……っ!」

「へへ、どうです姉御~? まだ儀式前の極上品でさぁ」


 女はごくりと唾を飲み込んだ。


「い、いくらだい?」

「虹金貨四枚でさぁ」

「え? 額がちが──」

「買った!」

「毎度~」


 男はちゃっかり額を上乗せし女から金をぶん取った。


「それじゃあ姉御、そいつは姉御が売るなり貸し出すなり好きに使ってくだせぇ。それじゃあ俺はこれで」

「しっしっ!」


 女は男達を手で追い払い、男達は金を懐にしまい込みながらゲスい笑みを浮かべ部屋を出て行った。少年は女と二人きりにされ困惑していた。


「んっふっふ~。あぁ……なんて可愛らしいのぉ~」

「うわっ、ちょっと何を!?」


 女商人は少年の身体をペタペタと触りまくる。


「坊や、名前は?」

「ロ、【ロラン】……」

「ロランね。私は奴隷商人の【マライア】よ。今日からあなたは私の物。虹金貨四枚返済するまでね」

「ぼ、僕の借金は虹金貨三枚と白金貨三枚だったのに!」


 マライアの手が怪しくロランの頬を撫でる。


「問題はそこじゃないわ。重要なとこは私がいくらであなたを買ったかよ」

「そ、そんな……」


 すると突然マライアは落胆するロランを抱きしめ耳元でこう囁いた。


「それでもロラン? あなた、私に買われて良かったと思うわよ?」

「……え?」

「確かに私は裏の仕事をしてるけどね、奴隷に対して酷い扱いをしないわ。前の奴隷も借金奴隷だったけどね、ギフトを得てから適切な職を見つけてあげたのよ。今は屋敷を出て仕事をしながら借金を返してくれてるわ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。まぁ……私が傍に置きたくなかったから追い出したんだけどね。あなたは可愛いから借金を返し終わるまで傍に置いてあげても良いわよ?」

「か、可愛いって……。僕男ですよ?」


 マライアは狼狽えるロランから離れ尋ねた。


「ロラン、あなた儀式はいつなの?」

「えっと、来月です」

「そう。なら来月になったら私と神殿に行きましょ。どんなギフトを授かるか楽しみね」


 この世界では成人と共に儀式を受け、その場で神からギフトを授かる。人によっては複数のギフトを得られる事もあるが、いくつ与えられるかは神次第なのだとか。


「じゃあロラン、あなたの仕事は私の世話よ。屋敷の中を案内するからついておいで」

「せ、世話……?」

「ギフトを授かるまでは適した仕事もわからないしね。戦闘系のギフトなら迷宮探索者、頭脳系なら研究者みたいなね。他にも様々なギフトはあるけど……まだあなたには何もない。何をさせるにしてもまだ早いのよ」

「そ、そっか……」

「だから簡単な仕事をしてもらうのよ。屋敷の掃除とか調理とかね」

「それくらいならまぁ……」

「さ、行きましょ」

「は、はいっ!」


 それからロランはマライアの案内で屋敷の中を見て回った。そこは今まで暮らしていたあばら屋とは全くの別世界でキラキラと輝いて見えた。だが人の気配は全くなく、未だに誰とも遭遇していない。


「あの、他に人は……」

「いないわ。私こう見えて人が嫌いなのよ。特に大人はね。私のギフトは人の裏を知る事ができるのよ。私に嘘は通じない。けれど人は嘘を吐く。だから私は一人が好きなのよ」

「じゃあ僕は……?」

「ロランは……正直者ね。嘘吐けないタイプでしょ? 心を覗くまでもないかな。裏表のない子どもは大好きよ。さ、話はここまで。最初の仕事は二人分の食事を作る事よ。できたら私の部屋で一緒に食べましょ」

「は、はいっ!」

 

 こうしてロランの奴隷生活が幕を開けたのだった。

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