第15話:烏丸茶人のブラコン05


 昼休み。


「紅蓮さん」


 是空が紅蓮に声をかけた。


「どうやらお気に入りらしい」


 とは紅蓮の心中。


「オン・ソチリシュタ・ソワカ」


 これも心の中で唱えた。クラスメイトも下卑た視線を送ってくる。紅蓮と是空のコンビはそれほど視線を集める。二人共に一般から幽離した美貌の持ち主であるから。


「…………」


 紅蓮にとって下心のある衆人環視は忌避の対象だが、そんなクラスメイトの中で唯一是空だけが他意無く関わってくる。一種の空気清浄機だ。他者に期待しなくなって長くなるが、こと是空は例外に位置した。


「それで何でしょう?」


 紅蓮は久遠と食事を取る程度しか予定がない。


「一緒に御飯食べよ?」


「学食で良いなら」


 そういうことだった。昼休み。思い思いの過ごし方をする生徒たちに混じって昼食をとる。そんな規定事項。当然一組の扉と隣接する廊下には久遠と八聖が居た。


「兄さん」


 と久遠が紅蓮を呼び、


「無明」


 と八聖が是空を呼ぶ。


「はいはい」


 と二人に合流する二人。それからなし崩しに四人で学食へ。紅蓮はそれだけで辟易した。紅蓮を見てポーッと上気する生徒も居れば、全身を舐め回すように見つめる生徒も出る。


「大丈夫ですよ兄さん」


 久遠がギュッと腕に抱きついた。豊かな胸が押し付けられる。


「怖がらないでください。私だけは味方ですので」


 勇気づける様に言う。


「ありがとうございます」


 紅蓮にとってはそれだけで勇気になる。是空が目を細め、八聖は生暖かい視線を送っていた。けれどもコレは二人が異例なのであって、衆人環視はやはり下卑た下心満載のソレである。神通兄妹を見ればごく自然な感情の発露ではあれど、やはり、


「面白くない」


 も紅蓮と久遠の共通認識。


「久遠さんは本当に紅蓮さんがお好きなんだね」


 苦笑いの是空だったが、紅蓮はその心底を正確に把握する。


「ええ」


 特に気負いも無く肯定する久遠。ブラコンであるのは百も承知だ。


「今更指摘されるまでもない」


 不遜と言うにはあまりに自然体の言葉だった。


「久遠さんもブラコンを?」


「…………」


 ここで表情が固まる久遠。嘆息は紅蓮だ。


「読みはしていますね」


 迂遠な肯定。クリームパスタを食べる。


「やっぱり久遠さんも烏丸先生と知り合いで?」


「烏丸というと……」


「烏丸茶人先生です。ブラコンの作者ですよ」


「見知ってはいますね」


 それだけ。


「どういうことか」


 隣の紅蓮に瞳で問いかける久遠。紅蓮は肩をすくめた。他に対処のしようがない。無論聡い久遠もその意味を覚るが。

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