勇者が毎朝話しかけてきて仕事にならない

一之三頼

勇者が毎朝話しかけてきて仕事にならない

閑静な朝。

いつものように仕事に取り掛かろうとカウンターの上にある商品リストを手に取る。

と同時に扉が開く。


「商人さん!」

「…………。」

「商人さん!!!」

「…………。」

「デニングさん!!!」

「さっきからうるさいなぁ。聞こえてるから大声を出さないでくれ。」

「もう!それなら返事して下さいよ!おはようございます!」

「あぁ、おはよう。」


朝一番の来訪者は大声で俺を呼びかける。

俺は顔を顰め、辟易とした表情で面倒そうに返事をする。

彼女はプンプンと怒っていたかと思えば、一転屈託のない笑顔で挨拶して来る。

客商売として愛想の悪い振る舞いをしているが、相手が客ならそんな事はしない。

なにせ目の前にいるのは、


「聞いてください!今朝夢を見たんですよ!気が付いたら大きな亀さんの上に乗って空を飛び回る夢を見たんですよ!」

「ほぉ、そうかそうか。で、何の用だ?」

「?用ですか?強いて言うならお話しに来ました!」


俺と話す為に訪れただけの客ではない存在だからだ。


「あのなぁミレーユ、お前一ヶ月前に王様から魔王討伐の為に旅立てって言われたよな?」

「はい!王様から大切な使命を賜りました!」

「ならなんでスタート地点の、この街から出ないんだよ!しかも毎朝毎朝ウチに来ては何も買わずに帰りやがって!大切な使命とやらはどうした!」


そう。魔王討伐の使命を帯びた勇者様(※買い物はしない)なのだ。

普通、勇者が店に来たのなら歓迎するだろう。

一応は勇者になる前から昔馴染みでもあるし、サービスしてやろうとも思っていた。

だがこの勇者は買い物もしないのに毎朝毎朝店に来ては雑談して帰っていくのだ。

最初はもてなしていたが、一週間、半月と経っても旅立つ様子が無い。



「失礼な!街からは出てますよ!ただ魔王に勝てなくて戻ってきているだけなんですから!」

「尚の事旅立てよ!レベル1で魔王に勝てるわけないだろうが!」

「だってこの街からすぐそこに魔王城があるんですよ!行くに決まってるじゃないですか!」

「それでコテンパンにやられてちゃ意味ないだろ!」


そう。何故かこの街から徒歩1時間程度の距離に魔王城があるのだ。

正直意味が分からない。

なんでこんな立地に街を作った。

なんでこんな立地なのに魔王軍は攻めてこない。

なんでこんな立地なのに普通に平和なんだ。

魔王とかほんとは居ないんじゃないのかと思ってすらしまう。

街の外には魔物もいるけど、街に入ってくる様子はない。門番が欠伸してるくらいだ。

城壁に魔物除けの術式が組み込まれていると聞いたことはあるけれど、それにしたっておかしいだろう。


「むぅ、そこは勇者の血に秘められた力が覚醒して「一度でも覚醒なんてした事あったか?」

無いですけど………。」

「と言うか、なんでそこまで頑なに旅立つのを嫌がるんだよ。」

「そ、それは………。」


普通に旅に出てレベルを上げてから魔王に挑んだ方が勝率は高いことくらい、こいつでも分かっているはずだ。

それなのにこの一ヶ月、一度たりとも魔王城以外の所にいった話を聞かない。

疑問に思うのも当然だろう。


「一人だと寂しいじゃないですか。」

「募れよ。仲間を。」


勇者の旅に同行したいって奴なんて募集すれば結構な数が集まるだろう。

確かに玉石混交の可能性も否めないが、何もしないよりはマシだ。


「てか、そもそもこの前ウチに来た時に『とっても強いお友達が出来ました!』って騒いでただろ?そいつを誘えばいいじゃねぇか。」

「えぇっと、それは、そのぉ………。」


自慢するくらいに強い友達を頼るという選択肢だってあるはずなのに、反応が芳しくない。

あぁ、そうか。理解したぞ。


「断られたんだな。」

「えっ!?」

「その反応、図星だろ。さしずめお前が勝手に友達だと思ってただけとかじゃないだろうな。」

「…………。」


俺が予想を話すとミレーユは目を見開いて驚きを露わにする。

次いで更に推論を続けると無言で目を逸らす。沈黙は肯定って事だぞ。

流石に少し可哀想になって来た。


「まぁ、なんだ?そう言う事もあるだろ。ほらこれ食って元気出せ。」

「………頂きます。」


リンゴを差し出すとミレーユはこちらに向き直って受け取る。


「そうだ!デニングさん!一緒に旅に出ましょう!」

「断る。俺はただの商人だぞ?何考えてんだ?」

「でも歴史上には戦える商人さんだっているじゃないですか!」

「俺をその武闘派商人と一緒にすんな!それにようやく手に入れた俺の店を放り出して行けるか!」


少しずつ師匠の下で経験を積んで、コツコツ商売してようやく出店許可を貰ったって言うのに、放り出せる訳がない。


「それに私がここに来なくなったらデニングさんだって寂しいですよね?」

「いいや、全く。」

「即答!?酷いです!」


当たり前だろ。お前が毎日来ては駄弁るだけ駄弁って帰るから午前の時間が仕事にならないんだよ。


「ったく。そんなにこの街に愛着があるってんなら、このアイテムの出番だ。」

「その杖は?私の装備は杖じゃなくて剣ですよ?」

「いいか?この杖は転移の杖って言ってな。かつて高名な魔術師が開発した転移魔術を解析して杖に封じ込めた物だ。この杖を転移したい地点に刺しておく、んでもってもう一本杖を用意して、そっちを掲げると刺しといた杖のところまで転移できるって訳だ。まぁ魔力の関係で使い切りの代物だが、便利には変わりない。」

「へぇ!凄いんですね!」

「そうだろう。本来なら二本一組で10,000Gのところをサービスしてやって8,000Gでいいぞ?」

「えい!」


バキッ!


「おい?何してる?」

「これでいつでもデニングさんのお店に来れるので!」

「床をぶち抜く馬鹿がどこにいる!」

「ここにいます!」

「自慢げに貧相な胸張ってんじゃねぇ!」

「な!?失礼な!これでも日々成長してるんですよ!」

「そういうセリフはレベルを上げて言えってんだ。」


俺から杖の片割れを受け取ったかと思えば、いきなり杖を床に突き刺した。

床板を割って。

流石の俺も怒るぞ、これは。

貧乳弄りをされたミレーユは両腕で胸元を隠すが、そもそも隠す程立派なもんなんて持ってねぇだろ。


「むうぅぅ~!もういいです!デニングさんの事なんて知りません!」

「おい、せめて床くらい直して行け!」


ミレーユは膨れっ面をして店を飛び出していった。

どうせまた明日も来るだろうが、床を壊したまま帰るな。

ったく、ただでさえ午前の時間を無駄にしたって言うのに、更に仕事を増やしやがって、あのお転婆め………。

とにかく床を修理しないと店を開けない。手早く直してしまおう。


その後、床の修理を終えて営業を再開。床が抜けないかと冷や冷やしながらも無事、一日を終える。






翌日。


「……………ミレーユが来ない。」


今日も朝から騒がしい少女が訪れると思っていたが、その予想は外れる事になった。

ドアが開き、カランと来訪者を告げる鐘が鳴る。


「邪魔するぞ。」

「いらっしゃいませ。」


一瞬、ミレーユかと思ったが来訪客は別人であった。

髪の色こそミレーユと同じ燃える焔が如き紅色であったが、彼女と違い背は高く、大人の色香を漂わせる女性だった。

しかし商人たるもの鼻の下は伸ばさない。

見たところ高貴な雰囲気も纏っているし、良客の可能性も十分だ。


「何かお探しでしょうか?」

「いや、特に買い物をしに来た、という訳ではないのじゃ。」

「そうでしたか。それではごゆっくりとご覧になって行ってください。」


買い物客ではないと言うが、ミレーユの様に駄弁る訳ではなく、商品をゆっくりと眺めている。

これなら興味を持った商品を買ってもらえるかもしれないし、買ってもらえなくとも良い印象を持ってもらい、また来てもらえれば上々だ。


「これは?」

「それは『集毒の壺』と言いまして。封を切ると周囲の毒素を吸収してくれるアイテムです。使用後も教会に持って行き、浄化の奇蹟を掛けてもらえば再使用も可能な一品ですよ。鉱山労働者に愛用されていますね。それから、他人から悪意を抱かれやすい位の方々にも人気の商品です。」

「ふむ。ではこれは?」

「お客様、お目が高い!そちらの商品は『蒼霊のブローチ』です。高名な職人の手によって加工され、優秀な聖職者の加護を与えられたブローチでして、見栄えも良く、お守り代わりにもなる人気の一品ですよ!お客様の美しい真紅の髪にも良く映えるかと!やはりお美しい方は自身の輝かせ方を良く理解していらっしゃるのですね!」

「ふふふ、口が上手いのじゃな。そのように口が回るとは聞いたことが無かったが、師匠仕込みと言ったところか。」

「え?」


お客様が笑みを浮かべ、好感触だ、これならば買ってもらえるだろうと思い、頭の中で提示する金額を考えている。

するとまるで俺の事を知っているかのような口ぶりで話し出す。

師匠の知り合いなのだろうか?


「うむ。興味が湧いた。妾の城の招待してやろう。」

「は?」

「『ルポータ』。」


そんな事を考えているのも束の間。

お客様が無詠唱で転移魔術を唱える。

混乱と共に周囲の景色が変化し、気が付くとそこは…………




「庭、園………?」

「ようこそ、我が城へ。歓迎するぞ、商人デニングよ。」


謎の室内庭園だった。

何故か東屋の中にいて、頭上には巨大なホール状の天窓、周囲を見渡せば色鮮やかな花畑や新緑の木々があり、耳を澄ませば小川のせせらぎが聞こえてくる。

意味が分からない。一体何がどうなっているんだ?

俺の混乱を余所にお客様?は話を続ける。


「それと、自己紹介がまだであったたな。妾は魔王。魔王アウルトロスじゃ。」

「は……………?」


今なんて言った?

魔王?

自分の耳を疑う。

なんだって魔王が俺みたいな一商人を拉致するんだ。

さっきみたいに呆けている訳にはいかない。下手したら殺される。

勇者と違って一般人には神の加護なんて付いていない。

肉体の頑丈さも、体力も、魔力も何もかも劣っている。

鍛えればある程度は成長できるが、すぐに壁にぶち当たるだろう。

それに対して勇者は神の加護によって一般人よりも高い能力、才能の上限を有している。

その勇者でさえ経験を積んでレベルを上げなくては手も足も出ない魔王が目の前にいる。

アリと巨象なんて表現でさえ生温い。

それ程までに、生物としての格が違うのだ。

気分を害すれば殺される。

気が向けば殺される。

しかし店で殺されず、こうして連れてこられたと言う事は、少なくとも今すぐに殺されることは無いだろう。

生き延びるためにも、慎重に言葉を選ばなくは。


「ふむ、何やら緊張しておるようじゃな。よい、楽にせよ。別にお主を害そうなどと思っておらぬぞ。それに先ほども言ったが、お主の師匠とは懇意にしておってな。」

「そうだったんですか。」


それで弟子の俺に興味を持ったと言うところか?

しかしそれだけでは魔王であることを明かした事、そしてここまで連れてこられた事の説明にはならない。


「まぁ今回はお主を招いた理由はお主の師匠とは関係が無い。それよりもデニングよ。お主、勇者と親しいらしいな。良ければ話を聞かせてはくれぬか?」

「はい。私の話でよろしければ………。」


良ければなんて言っているが、そもそもそれが要件なら断った瞬間に殺される。

ここは承諾する他ないだろう。

一瞬、敵である勇者の情報収集か?とも考えたが、そもそも幾度となく勇者を撃退している魔王にそんな事をする必要はないだろう。

なにせ勇者を殺すことなく生かして帰す程度に余裕があるのだから。

では何故勇者の話を聞きたいと言ったのか。

少なくともミレーユに不利な情報を言わない程度に話をして真意を探らなくては。


「では勇者の好きな食べ物は?」

「…………は?」

「む?聞こえなかったか?勇者の好物を聞いておるのじゃ。」


聞こえなかった訳ではない。意図が理解できなかったのだ。

好きな食べ物?魔王がなんでそんな事を聞くんだよ。

毒でも盛ろうと言うのか?しかしそんな事をする必要なんてない程の実力差があるだろう。


「勇者は甘いものが好きらしいです。特に東方由来の品の、ワガシ?のダイフク?とが言う物を一度食べたことがあるらしくて、しばらくはその話ばかりされました。」

「ふむ。ワガシ、和菓子か。なるほどのぅ。今度用意してもてなしてやろう。」


これはアレか。完全に舐められてるだけなのでは?

もし生きて帰れたら本格的にミレーユを冒険の旅に叩きださなくては、そのうち本当に気まぐれで殺されかねない。そうならない為にもレベルを上げさせなくては。


「では次の質問じゃ。勇者の普段の生活は問題なさそうか?友達とかはおるのじゃろうか?」

「…………問題ないかと。」

「そうかそうか!」


親か!学問所の教師に我が子の事を尋ねる親か!

魔王から出てくる質問じゃないだろう!さっきの質問も!この質問も!

………まぁ、友達に関しては俺も心配になるが、一応俺が友達って事にしておいてやろう。

この質問の意図はなんだ?普段から仲間を連れて来ないから、その理由でも探っているのか?


「そうじゃのぅ。次は…………。」

「魔王さん!」

「おや、思ったよりも早い来客じゃな。」


魔王が次の質問をしようとすると、聞き覚えのある声が響き渡る。

魔王は特に驚いた様子もなく、来訪者を見やる事もない。


「『ルポータ』。」


またしても魔王が無詠唱で転移魔術を唱える。

気が付くとそこは玉座の間だった。

魔王は玉座に腰掛け、勇者が対峙するというおとぎ話のワンシーンのような光景を目にしていた。




障壁の向こう側から。


「…………!………………!」

「……。……………。…………。」

「………………!」


障壁の影響か、ミレーユと魔王が何を話しているのかが聞こえない。

ここから見える景色はミレーユが剣を抜き、魔王に斬りかかる姿だった。

レベル1で魔王に勝てる訳がない。

レベル1ではスキルも、魔術も習得していない。出来る事は手元にある剣で攻撃するだけ。

それに対して魔王は先ほど、無詠唱で魔術を行使する能力を見せた。

恐らく転移魔術だけでなく、他の魔術も無詠唱で行使する事が出来るだろう。

何一つとして勝てる要素が無いのだ。

一蹴されて終わる………




と思われた。

しかし現実は違った。


「速っ!?」


目にも留まらぬ速度で一瞬で間合いを詰め、下段から魔王の首を狙う。

しかし魔王はどこからともなく取り出した剣で容易くそれを防ぐ。

それでもミレーユはひるまず、むしろ勢いを強めて凄まじい速度の剣戟を浴びせる。

しかし魔王は涼しい顔でそれを全て防ぎきる。

一瞬の隙を突き、魔王は軽く剣を振るう。それだけで地面は抉れ、斬撃は空を裂き、壁を割る。

かすりでもすれば、それだけで致命傷になり得る斬撃をミレーユはギリギリのところで回避し、再び攻撃に転じる。

そんな攻防を僅か数秒で3度、4度と行うと、魔王は斬撃と共に後方へ下がり距離を取る。

すかさずミレーユは更に距離を詰めようとするが、それよりも早く魔王が魔術を行使する。

空中には赤、青、緑、茶色の球体が現れ、ミレーユへと飛翔する。

ミレーユはそれを避け、剣で捌き、前進する。

そして魔王に肉薄すると、




ミレーユの首元には刃が添えられていた。

そしてその刃がミレーユを切り裂く


「ミレーユ!」






事は無かった。

魔王が指をパチンと鳴らすと障壁が消える。

先程からの事態の進行速度に脳が追い付かない。


「また負けちゃいましたぁ………。」

「くくく。筋は悪くはないが、まだまだじゃな。観客がおったが、これでは盛り上がりに欠けるぞ。」

「うぅ……精進します………。」

「ま、待った!一体どういう事だ!?何がどうなってるんだよ!?」


和気藹々と会話をするミレーユと魔王。

つい先ほどまで激しい戦闘を繰り広げていたのが嘘のようだ。


「なんじゃ、話しておらぬのか?」

「えっと、実はですね………。」






「はぁ!?魔王と友達!?」


何言ってんだ?この勇者は。


「正確には妾に一太刀でも浴びせる事が出来れば友として認めてやる、と言う話じゃがな。」

「魔王さんを倒すんじゃなくて友達になるって素敵じゃないですか?私が勝ったらお名前も教えてもらうんですよ!」

「ほんとに何なんだよお前は。………名前?」

「はい!魔王さんが言ったんです!お名前を聞いたら勝った時に教えてくれるって。」

「えぇぇーーー!!?何でですか!?デニングさん、まさか私より先に魔王さんを倒したんですか!?ずるいです!」

「んな訳あるか!普通に自己紹介しただけだよ!てか俺が魔王に勝てる訳ねぇだろ!」






『あなたが魔王さんですね!』

『ほう、そういうお主は妾を討伐しに参った勇者と見受ける。』

『魔王さん!私と友達になって下さい!』

『くく、くくくく!友とな?くくくくく!愉快愉快!実に愉快よ!よかろう。妾に勝つことが出来れば友になってやろう。』

『勝てば良いんですね!約束ですよ!』




『うぅ、負けちゃいました………。』

『まだまだ未熟も未熟。碌にスキルも魔術も習得せずに妾に挑もうとは、呆れを通り越してある意味、賞賛にすら値するのぅ。どれ、『カバリー』。』

『わぁ、傷を治してくれたんですか?ありがとうございます。』

『妾も退屈しておってのぅ。妾には何度でも挑むがよい。その代わり……。』

『その代わり?』

『茶会に付き合ってもらうぞ。』

『はい!喜んで!ところで、魔王さん。』

『なんじゃ?』

『魔王さんのお名前ってなんて言うんですか?』

『ふむ……。そうじゃな。妾に勝つことが出来たら教えてやろう。』

『えー!』

『くくくくく。精々足掻くのじゃな。』






「はぁ~~~~~…………。」

「デニングさん?」

「お前なぁ!ほんっとに馬鹿か!?馬鹿だろ!馬鹿なんだな!」

「馬鹿馬鹿言い過ぎですよ!」

「そりゃそうだろ!なんだよ、魔王と友達!?お茶会!?こっちがどれだけ心配した事か!」


常識的に考えてあり得ない。

勇者と魔王が手を取り合うって部分も、友達になる為に命がけで戦うって部分も。

そんな事してないで堅実にレベルを上げて魔王を倒す方が………

いや、待て、


「そもそもお前、レベル1だろ?なんであんなに動けるんだよ。」

「なんででしょうか?分かりません!」

「自信満々に言ってんじゃねぇ!」


レベル。

それは強くなる上で絶対的に必要な物。

レベルが上がる事で能力値が上昇し、強くなれる。

レベルが上がらなくは、どれだけ基礎鍛錬を積んでも能力が上がらないのだ。

魔術を理論で理解していてもレベルが上がらなくては発動しない。

剣術などのスキルも型を模倣する事は出来てもレベルが上がらないと効果を発揮しない。

詳しい原理は分からないが、教会の連中曰く『裁定』とかなんとか言ってるが、とにかくレベル1であの戦闘能力は間違いなくおかしい。


「そこは、アレじゃよ。妾との戦いの中で成長したんじゃろ。」

「きっとそうですよ!勇者の秘められた能力が覚醒してる感じです!」

「そんな適当な訳が………。」


訳が分からない。

一瞬『でも勇者だし』と思ったりもしたが、今日一日で幾度となく混乱した頭が思考を拒む。

結局、何故か魔王のお茶会に参加させられ、ミレーユと一緒に帰還した。






翌朝、ベッドから身を起こし、『夢だったのか』と思った。

それ程までに強烈な出来事であり、夢ならば良かったと思う出来事だったのだ。

しかし現実は残酷だ。


「デニングさん!おはようございます!」

「商人よ、今日も妾に面白い話を聞かせるがよい。」


朝から騒がしい来訪者が1人増えたのだ。

しかも邪険にする訳にはいかない圧倒的強者が。

仮に追い出そうとしたら街が、いや国が亡ぶ。


「毎朝これとか、仕事にならねぇ………。」

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