第3話   600年前

 600年前に、またアリエーテの魂の気配を感じた。


 どうやら200年おきに転生しているようだ。


 今度は5歳のアリエーテを見つけた。


 まだ幼く愛らしい顔をしている。瞳の色はやはり美しい青色だった。


 両親は貿易商を営んでいた。


 一人っ子のアリエーテは、両親に溺愛されていた。


 そんなアリエーテに、レオンは声をかけた。


 人間はほんのわずかな事で死んでしまう。それなら契約をしておきたかった。魂を縛ってしまえば、死ぬことはそうそうなくなる。けれど、アリエーテは、大人のレオンを恐れた。


 顔を見るなり泣かれて、泣き声を聞きつけた母親が走って来た。レオンは身を隠すしかなかった。


 5歳のアリエーテは幼すぎた。


 レオンには見守ることしかできなかった。


 適齢期になったら求婚しようと思った。


 貿易商を営んでいる両親に連れられて、アリエーテはよく船に乗り他国へ赴いていた。


 ふたつの世界を行き来し、珍しい景色や物に目を奪われ、いつも目を輝かせていた。


 ただ極度の人見知りで、人に話かけられただけで体を強ばらせ、愛らしい笑顔は泣き顔に変わる。


 10歳頃になると人見知りは、徐々に収まり、行商人の娘らしく両親の手伝いをする働き者の娘に育っていった。頭も賢く、計算は速かった。


 日々美しく育って行くアリエーテに、レオンは再度声をかけた。


 アリエーテに、拒絶はされなかった。


 会いに行くたびに花束を贈ると、アリエーテはいつも頬を染めて花束を受け取っていた。


 しかし、アリエーテの両親はレオンを嫌っていた。まだやっと10歳になった娘にちょっかいをかける不審な男としてマークされた。


 レオンはアリエーテの両親に会わせてもらえなくなった。アリエーテも両親に注意を受けたのか、レオンが花束を持って会いに行っても、花束は受け取ってもらえなくなった。


 レオンはひどく落胆した。


 目の前に愛おしいアリエーテがいるのに、アリエーテに拒まれてしまう。


 このまま攫ってしまおうかと考え出した。


 魔力を使いアリエーテの両親の動きを止めたら、アリエーテは両親が死んだと思い狂ったように泣くと、自分の胸を店先にあった剣で貫いた。急いでアリエーテの治療をするが、心臓の治療は難しく、まだ幼いアリエーテの血液量では治療まで持ちこたえることができず、結果的にレオンがアリエーテを殺してしまった。


 血で汚れたアリエーテを綺麗に清めて、美しい白いドレスを着せて両親の元に戻した。


 アリエーテの両親は、美しいが命を失った人形のようなアリエーテを見て、嘆き悲しんだ。


 ささやかな葬儀が行われ、アリエーテの亡骸は火に包まれた。


 近づきすぎてはならない。


 アリエーテの愛する者をアリエーテから遠ざけてはならない。


 この時代のアリエーテからは、その事を学んだ。


 レオンはまたアリエーテの転生を待つことにした。

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