第二章 美しい姫

第1話   1000年前

 およそ1000年前、レオンは美しい姫に出会った。


 1000前は、人間界と魔界は繋がっていた。


 アリエーテは、魔族の公爵家の令嬢だった。出会ったのは父が開いた舞踏会だった。


 魔王が開いたダンスパーティーで、レオンは魔王の子で第二王子だった。魔界では魔力が高い者が生まれると世代交代が行われる。


 魔王を継いだのは兄だった。魔力の力は同等だったが、先に生まれた兄に魔王の座を譲った。


 兄は魔王になるときに伴侶となる娘に婚約の話を持ちかけた。話はトントン拍子に決まり、二人は結婚した。結婚と同時に魔王の交代を行われた。

 

 レオンは気ままな魔族となり兄が娶った王妃の妹に恋をした。


 アリエーテは美しく、魔族では珍しい青い瞳をしていた。素直で性格も穏やかで、心遣いのできる優しい女性だった。


 レオンは兄が結婚したすぐ後に、アリエーテに求婚した。


 アリエーテが13歳の誕生日迎えた日だ。


 アリエーテはレオンの求婚を喜んで承諾した。


 デートに誘えば、恥ずかしそうにレオンの後を付いてくる。手を繋ぐまでに1年かかり、キスをするのに、また1年かかった。それほど初々しい姫だった。


 初めて見かけたのはアリエーテが12歳の頃だ。舞踏会会場で、彼女はいつも壁の花になっていた。いつも誰にも声をかけられたくないように、俯いていた。その瞳がレオンを追いかけていることに気付いていた。


 先に見つけたのはレオンだが、話かけるきっかけが掴めなかった。


 家族の顔合わせの時、初めてアリエーテに話かけた。アリエーテは、まだ12歳と幼かった。13歳の誕生日に求婚して、16歳になったら結婚しようと約束をした。


 ままごとのようなデートでもレオンは、初々しいアリエーテを愛おしく思っていた。


 まだ淑女として育ちきっていなかったアリエーテには、たくさんの家庭教師が付けられていた。


 その中に、躾を教える男性教師がいた。


 おとなしいアリエーテは、その男性教師を恐れていた。


 手にはいつも棒を持ち、アリエーテがミスをおかす度に、掌を叩かれていたようだった。


 アリエーテはレオンにその事を打ち明け、助けて欲しいと言った。


 レオンはアリエーテの両親に、その家庭教師を外すように頼んだ。


 程なくして、その家庭教師はアリエーテの先生ではなくなった。


 ホッとした笑顔を見せたアリエーテに、レオンは安心した。


 他の誰かに傷つけられるのは、どうしても我慢がならない。それも女性ではなく男性が傍にいるだけで、婚約者のレオンは、いつも気が気じゃなかった。


 もし、襲われたら。


 もし、犯されたら。


 毎日、心配していた。


 レオンは50歳だった。


 魔族は寿命が長い。


 魔王は永遠を生きるが、魔族は永遠の命はないが、それでも長寿だ。魔族の50歳はまだ大人とは認められない。周りからは子供扱いをされる年齢だった。13歳のアリエーテは、まだ幼子のような年齢だ。それでも、美しい容姿と慎ましい性格に恋をした。


 アリエーテを護りながら、もうすぐ16歳になる前に、アリエーテは元家庭教師に胸を貫かれた。


 魔族は多少の傷や病気では死なないが、心臓を貫かれ失血死を起こせば死んでしまう。


 結婚の血の交換を済ませていなかったレオンに、アリエーテの危機は分からなかった。


 レオンがアリエーテを迎えに行ったとき、アリエーテは既に息絶えていた。


 アリエーテの胸を貫いた元教師も、自決していた。


 元教師はレオンが案じていたように、アリエーテに恋をしていたらしい。


 後から、家族に聞かせられた話では、家庭教師を辞めさせられてからも、何度もアリエーテを訪ねてきていたらしい。叶わない恋だと思いアリエーテを連れて心中したのだと知った。


 美しい死に顔のアリエーテに、キスをして別れをした。


 もっと早く気付いていれば、アリエーテを守ることができたかもしれない。


 レオンはアリエーテの魂が転生するのを待った。


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