第3話   脱走

 翌朝、アリエーテがいないことに気付いたシスター達は、騎士に聖女の脱走と知らせた。


 国を支える騎士達が、アリエーテの居場所を探し始めた。


 アリエーテはただ道を歩いていた。


 行き場所が分からない。


 墓地に行きたいが、どこに墓地があるか分からない。


 ただ足を前に出しているだけだった。 


 歩いているアリエーテの横に漆黒のタキードを着た男が並んで歩き始めた。



「美しいお嬢さん、どこに行くんだ?」



 アリエーテはチラリと横を歩く男を見て、何も答えず、ただ真っ直ぐに歩いて行く。



「行き先は、この先、真っ直ぐか?」


「……」


「この先には海があるぞ」



 海があるのかと、やっと自分が目指している場所が分かった。



「その海に飛び込むのか?」



 アリエーテは微笑した。


 それもいいかもしれない。



「おっと、自殺を勧めたら規約違反か」



 男は一人で話している。



「死神がいなければいいが」


「呼んだか、レオン殿。その獲物は俺の物だ」



 タキシードの男の横に、髪の長い男が並んだ。やはり黒いスーツを着て、ネクタイは真っ赤だ。なんと品のない服装をしているのだろう。


 タキシードの男はレオンと言うらしい。



「グルナかよ。魂の回収にはちょっとばかり早くはないか?」


「キザな悪魔の姿が見えたから、ここは早めに挨拶をしておいたほうがいいかと思ってな」



 赤いネクタイの男はグルナ。魂の回収というからには、死神か何かだろうか?


 レオンは悪魔らしい。


 どっちも会いたくはない相手だ。


 アリエーテは二人を置き去りにするように、歩みを早めた。



「おい、ちょっと待て。おまえはお尋ね者だ」



 レオンがアリエーテの横に並ぶが、突然姿を消した。



「そこのお嬢さん。アリエーテ様ではございませんか?」



 警棒を持った騎士二人が、アリエーテを左右から囲んだ。



「アリエーテ様ですね?」


「違うわ」


「その衣装は聖女様の衣装ですね?」


「……」



 アリエーテは騎士に捕まった。


 両親にも会えずに、どこにも行けずに、呆気なく騎士に捕まり、馬車に乗せられた。



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