第153話 悪役王子は勇者と共闘する③~sideクラリス~
普段、謁見の間として使われる広間には、ロバート元将軍、元宮廷魔術師長のリオール伯爵、元宮廷薬師長のフレイル子爵……この人はクロノム公爵のお師匠様にあたる方ね。
それから軍関係の貴族たち、実行部隊の隊長格にあたる騎士達も集結していた。ただ、第三部隊と第四部隊の隊長は不在で、聞くところによると城内の薬を持ち出して逃げてしまったのだとか。
隊長格の人でも残念な人がいたみたいね。
それに加え、アーノルド派の騎士や貴族も何だか苦々しい表情を浮かべながらも、広間の隅に立っていた。
エディアルド様がアーノルド陛下と共に現れ、玉座の前に立った。
私は彼らの後ろの方に控えておく。
二人が並んで立つこともさることながら、瀕死だった国王が完全回復している姿に、その場にいる全員が驚いていた。
その時、広間の隅の方からヤジが飛ぶ。
「例え陛下の兄君とはいえ、国王の隣に立つとは何と無礼な!」
「今すぐそこから下がれ!」
「例え王族でも許されぬことだ!!」
あの人達、アマリリス島に来ていた人たちよね?
エディアルド様こそ王に相応しいとか言っていたくせに。いざ、アーノルド陛下が元気になったとたん、エディアルド様を邪魔者扱いしているわ。
その時アーノルド陛下が声を荒げた。
「黙れ! 僕は望んで兄と共にここにいる。お前達はいつから王族よりも偉くなった?」
「もちろん私どもが偉そうに申し上げる立場ではないことは百も承知です。しかし、エディアルド公爵はあなたの隣にいるべき人間ではない!」
声高に訴えるその貴族に、アーノルド陛下はおかしな冗談でも聞いたかのように冷笑する
「分かっているじゃないか。君は偉そうなだけで、実際は偉くはないよね?」
「……」
反論する貴族を笑顔で黙らせるアーノルド陛下。
死にかけてから、性格変わった? ……しかも、今まで見せたことがないくらい冷ややかな表情だ。
「魔族襲来の際、君たちは使用人を囮に使って真っ先に逃げたらしいね? 偉いどころか、貴族として……いや人間として恥ずべき行動をとっているような君たちが、僕の意向に逆らうような発言を平然とするなんて、一体どういう神経しているの?」
少しどころじゃない。
味方である貴族に対して、あからさまに侮蔑の眼差しを向けるなんて……もしかして今まで秘められていたブラックな性格が目覚めたのかしら。
ああやって嫌味を言う時の表情、エディアルド様に似ているかも。
「しかし、そいつは無人島公爵……」
「王族をそいつ呼ばわりか……不敬罪だな。そこの身の程知らずを牢に入れておいて」
元々自分の味方だったであろう貴族に、一つも容赦がないわ。
兵士に連行される貴族は恨めしそうにアーノルド陛下を見て怒鳴り散らす。
「誰のお陰で国王になれたと思っているんだ!? 私がどれだけ、王太后様に献金を渡したか、その恩をなんだと思っている!?」
「あの時はありがとう」
「それだけ!?」
「もう十分に母上と美味しい思いしたでしょ? 美しい思い出を胸に抱いて、牢で大人しくしていてくれる?」
アーノルド陛下は爽やかな笑顔で、恩人であろう貴族に手を振った。
なまじ爽やかなだけに、空恐ろしいものを感じるわ。
他のアーノルド派の貴族たちの顔からたちまち血の気が引く。
「さて、他に兄上が僕の隣にいることに不服を抱く者は?」
笑顔のまま尋ねるアーノルド陛下に、貴族達は首を横に振る。
そりゃあんな光景を見て逆らう人間がいたら、相当アホだわ。
その場の統制をとるために、味方の貴族をためらいなく断罪するアーノルド陛下の姿に、ロバート将軍は感心しているみたいね。
あの人はエディアルド様を王に推挙しているけれど、アーノルド陛下のことも個人的には気に掛けていた人だものね。
アーノルド陛下はよく通る声で全員に告げる。
「全軍はこれより我が兄、エディアルド=ハーディン公爵の指揮の元、動いてもらう。私自身もこの先は兄の指揮下につく。他の皆も心得よ、兄上に逆らう者は不敬罪とみなし投獄する」
「「「ははっっ!!」」」
アーノルド国王の言葉に、ロバート将軍たちは揃ったように跪き頭を下げた。
隅っこの方にいるアーノルド派の貴族は凄く嫌そうな顔で頭をさげているけどね。
あ……ロバート将軍、目に涙を浮かべているわ。兄弟が並んで立っている光景に感激したのかな。
厳つい見かけによらず、とても涙もろい方なのね。
◇◆◇
集結した騎士や兵士たちは、城を守護する部隊と、魔族軍への攻撃部隊の二つに分けられた。
ロバート将軍、コーネット先輩、リオール元魔術師長と、フレイル元薬師長は王城を守護する部隊に。
エディアルド様と私、ソニアとウィスト。それからアーノルド陛下と四守護士たちは攻撃部隊に加わることになった。
しかし――――
「何故無人島公爵の指図なんか受けないといけないんだ!?」
この後に及んで抗議するのは四守護士のガイヴだ。最後まで空気が読めていない。
エルダがこそっと耳打ちして教えてくれたけど、彼はエディアルド様を迎えにアマリリス島へ行くことも、頑なに拒否していたみたい。
ガイヴはゲルドと共にアマリリス島には行かず、王城を防衛することにしたみたい。もともと四守護士の半分は防衛に回すつもりだったので、問題なかったみたいだけど。
今回は総司令官となったエディアルド様の指示に従いたくないと、駄々をこねているのだから困ったものね。
すかさずイヴァンがガイヴの頭を叩いたけどね。
「な、何をするんだ、イヴァン」
「不満なら今すぐ出て行け」
「不満だよっっ!! 何で、何で、皆してこんな無能に従うんだよ!? しかも陛下まで……カーティスに殺され掛けて、頭がおかしくなったんじゃないのか!!」
「無礼者」
さらにガイヴの頭を叩くイヴァン。アーノルドは諫めるようにイヴァンの肩を叩いてから、どこか哀れむようにガイヴを見た。
「カーティスに殺され掛けて頭がおかしくなったんじゃなくて、カーティスに殺され掛けて、おかしかった頭が正常になったんだよ」
「な……何言ってんだ。あんただって、すました顔して内心では、ずっと馬鹿にしてたじゃないか。エディアルド殿下を」
……ガイヴ、国王陛下に対しても結構失礼な物言いね。
エディアルド様に対してだけじゃなく、そもそも礼儀知らずな人だったのね。
アーノルド陛下は自嘲して言った。
「うん。馬鹿にしていた。でも、馬鹿にしながらも、薄々気づいていた。兄上が僕より能力が上であることに。それに気づかない振りをして、ずっと馬鹿にしてきたんだ」
「な、何だよ、それは……!! エディアルドがあんたよりも有能だって、そんなのあるわけないだろ!? あんたはカーティスに裏切られ、殺され掛けたから頭がおかしくなっているだけだ! 目を覚ましてくれよ!!」
「いい加減空気読んで?」
顔を真っ赤にして力説するガイヴに対し、一言だけ返すアーノルド陛下。
笑顔なのに口調はこの上なく冷たい。
一言だけだけど、相手に圧をかけるには十分だった。
ガイヴは悔しそうに唇を噛みしめた。幼い頃から馬鹿にしてきた存在に命令されるのは、彼にとっては我慢ならないみたいね。
ガイヴもアーノルド陛下のように、一回死にかけた方がいいのかも? ……なんて物騒なこと考えちゃったわ。
それまでガイヴに同調してエディアルド様を馬鹿にしていたゲルドでさえ、さすがに空気を読んで黙って従っているのにね。
「ガイヴ、君は王城に残ってロバート将軍の補助をしてもらおうか」
エディアルド様の言葉に、ガイヴは嫌だと言わんばかりにそっぽ向く。エディアルド様は軽く肩をすくめ、隣にいるアーノルド陛下に耳打ちをする。
「ガイヴ、国王命令だ。お前は王城に残ってロバート将軍を助けるように」
「……くっっ……承知しました」
アーノルド陛下には絶対的な忠誠心を持つガイヴは、反射的に頭を下げていた。
でも納得がいかないのか、顔はまだ悔しさを滲ませているけどね。
ガイヴのようにエディアルド様のことを認めたくない人も、まだまだいるのでしょうね。
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