第123話 まずは事前準備を~sideエディアルド~
勇者の剣が隠されたダンジョン、ピアン遺跡に挑むのは半月後となった。あくまで半月後というのは目安であって、準備が整い次第ダンジョンに挑むことになる。
学園がお膳立てしてくれたダンジョンに挑むのとはわけが違うからな。
まずピアン遺跡に関する事前調査も必要だ。
ダンジョンの内容が小説の通りとは限らない。手に入れた情報と小説の内容を答え合わせしていく必要がある。
「ダンジョンに挑む前に、まずは異国の風土に慣れておかなきゃならないぞ」
旅慣れたジョルジュならではのアドバイスだ。ここは亜熱帯の国。高温多湿で雨も多いらしい。慣れない暑さや湿気でやられる可能性が高いので、身体を慣れさせておく必要があるのだ。
「あとマリベール周辺に生息する魔物がどんな魔物か知る必要もある。まずは近場の森でトレーニングを兼ねた魔物退治を行うのが良いだろう」
コーネットは成る程、と頷き、クラリスとデイジーは熱心にメモをとっている。
ソニアとウィストは魔物退治と聞いて俄然燃えてきたのか、目がランランとしている。
アドニスは、頭の中でこの先のスケジュールを整理しているのか、考えるように腕組みをして、天井を見上げている。
セリオットは…………寝ているな。クラスに一人はいるタイプだな、あいつは。
「それに装備の手入れやアイテムの補充も大切だ。今日はまず買い出しからはじめよう」
ジョルジュの言葉に、全員は同時に頷いた。
ホテルのロビーにて、冒険のレクチャーをしてくれるジョルジュは、生徒を引率する先生そのものだ。
修学旅行中の先生と生徒の図だよな、傍から見たら。
◇◆◇
メインストリートはあらゆる専門店がならんでいる。
水専門店や薬草専門店……ペットショップもあるな。主に小型の魔物が売られている。
「ニャーン、ニャァーン」
「……」
魔物……というか、どう見ても茶トラの猫だよな。店の前に置いてある椅子の上で顔を洗う仕草をしている。よく見たら、額の真ん中に小さな角が生えているな。短い毛に埋まるくらい小さくて目立たない角だけど。
猫型の魔物は客の顔を見ると椅子から降りてゴロンと寝転がる。見知らぬ人間に対して、へそ天をするあたり、完全に野生だった時代のことは忘れているな。
うーむ、魔族の件が片付いたら、ペット飼おうかな……俺はどっちかというと犬派なのだが、猫も悪くないな。
猫の顎を撫でる俺を見て、アドニスとコーネットがどこか哀れんだ表情を浮かべる。
「よほどお疲れなのですね……エディアルド様」とコーネット。
「無理もない。身内の馬鹿勇者に振り回されっぱなしだからな。心労も絶えないだろう」とアドニス。
――俺をなんだと思っているんだ? あいつらは。
別に疲れたから猫に癒やされたいわけじゃなくて、そもそも俺は動物が好きなんだよ。どうせ悪役顔の俺には、可愛い動物は似合わないだろうよ。
「全部片付いたら、一緒にペットショップに行きましょうか?」
クラリスが俺の隣にきて、猫の頭を撫でる。彼女も動物は好きみたいだな。
そうだな……ペットと一緒に暮らす生活も悪くないな。
王城だと難しいが、今の俺は無人島公爵だし。二人で犬の散歩とかするのもいいな。
……そういう妄想をしてしまうあたり、俺はやっぱり疲れているのかもしれない。
ずっと猫を愛でていたい所だが、デイジーが水専門店へ入っていったので、俺たちもそちらへ行くことにした。
デイジーが入った店は専門店だけに水だけでも、世界中の水が集められている。○○の森の水や、○○山頂の水、○○の洞窟の泉水など……ミールの水も置いてあったが、ハーディン王国王都にあるよろず屋ペコリンよりも値段が高い。うん百倍近くする値段の上、在庫が小瓶一つだという。
こうしてみると、本当にレアなんだよな。ミールの水って。
飲料水として飲むミネラルウォーターもあれば、薬の材料となる特殊効果のある水まであって、ここだけで一日過ごせそうだ。
「クラリス様、このお水を飲むと肌が艶々になるようですわ」
「本当ですね。化粧水を作るのにも良いみたいですね」
「この前採取したシロジロの実とウルル草を合わせて、治癒魔術の呪文をかけたら、良い化粧水が出来そうですわ」
特にクラリスとデイジーは熱心に色々な水を選んでいた。
俺はとりあえず、良質な睡眠が期待出来るという乳白色の水、クヤルトの水を購入。アドニスは何やら怪しい紫色の水を購入していた……あれは何の水だろ?
次に入った店は防具屋だ。
剣だけじゃなく、防具もちゃんとしたものをそろえたいからな。騎士二人には防御力が高く、軽い素材で出来た胸当てを買う。ダンジョンの中は、重装備よりは軽装備の方が望ましいからな。俺も同じ素材の胸当てを買うことにした。身に付けると服のように軽い。軽すぎて本当に防御力があるのか不安になるが、ナイフを突き立ててもびくともしない頑丈さはあるみたいだった。
クラリスやコーネットも一番防御力が高い魔術師のフードマントと魔術師の服を買っていた。
魔術師の服はかなりスタイリッシュで、ハーディン王国ではゆったりしたチュニックタイプが多かったが、こっちは体型のメリハリを強調するワンピースタイプが主流だ。
ユスティの防具は防御力も高いし、何よりデザイン性が高いのがいいな。
それから訪れたのは魔石専門店だ。
ワゴンの中に雑然と置かれたものもあれば、宝石のように硝子ケースに保管された高価なものまで色々ある。
ただのアクセサリーを作る時は、ワゴンの中の魔石を宝石代わりに使う人が多いようだ。
この店に入って断然目を輝かせたのはコーネットだ。
店員を呼んで魔石の効能を尋ねつつ、どれを買うか吟味する。
アドニスはショーケースの中に入った紫魔石をじっと見ているな。紫魔石はアマリリス島でしか採れない魔石だ。恐らく彼自身が採掘したものなのだろう。自分が出荷した魔石がこの値で売られているのか……とでも思っているのだろうな。
一番テンションが上がったのは本屋だった。八階建ての建物、全てが本屋なのだ。
これはもう(セリオット以外)全員の目が輝いていたな。
しかも屋上は買った本が読めるよう、憩いの公園広場になっている。
大衆向けの小説から、魔術の専門店まで、ありとあらゆる本が置いてある。特にハーディン王国にはあまり置いていない呪術について書かれた本や、ピアン遺跡について書かれた本は買っておきたい所だ。
あとユスティの歴史や、現在のことが詳しく書かれた本も欲しいところだな。
ハーディン王国にもこういった本屋があればいいんだけどな。
マリベール滞在中、俺たちはこの本屋に足繁く通うことになるのだった。
早朝はトレーニングを兼ねた魔物退治。
学園に通っていた頃、俺とウィストのルーティーンだったが、セリオットの案内で、ヴィネとジン以外は全員参加することになった。
マリベール付近にあるその森は、東京都くらいの面積がある広大な森だ。大型の魔物が多く、かなり倒し甲斐があった。
倒した魔物は冒険者ギルドの館に併設した買い取り業者の店に持っていくと、お金に換えてくれる。
魔物を倒すと経験値も得られ、お金にもなる。やっぱり小説の世界というよりは、RPGの世界っぽいよな。
しかし最近はこの辺りの魔物も以前より狂暴化しているらしい。
確か小説によると魔族の皇子ディノは、この世界を自分のものにするために、あらゆる場所に瘴気を発生させる黒い魔石を置いているんだよな。
石のサイズはウズラ卵ぐらいらしいからな。小さい石なのに、森中に広がるくらいの瘴気を放っているのだから、とてつもない大容量だよな。
魔物は瘴気を吸ったことによって凶暴化し、しかもディノの言うことには何でも従うようになってしまう。
もし小説の通りだとすればこの森のどこかに瘴気を発生させている黒い石がある筈なのだが、東京都サイズの広大な森の中、ウズラ卵サイズの石を探すのは至難の業だ。
森を覆うくらいの清浄魔術をかければ、黒の魔石は浄化されるが、それをやってのけるには多数の上級魔術師を集めなければならない。しかも永続型ではない魔術の効果を持続させる魔石も必要になる。
何にしても今は、魔族の皇子ディノを倒すことを考えないとな。魔石を作った張本人、ディノを倒せば魔石の効果はなくなる筈だからな。
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