【WEB版】悪役令嬢に転生した私と悪役王子に転生した俺

秋作

目が覚めたら悪役でした

第1話 婚約破棄……そして~side穂香~


「ごめん……穂香、別れて欲しいんだ」


 そう告げてきたのは、正式な婚約者の筈だった清水しみずマサヤだった。彼の隣には泣きそうな顔で俯いている女性がいる。

 私、山本穂香やまもとほのかは今、修羅場の真っ只中にいた。



「君は強いし、俺がいなくても一人で生きていけるだろ? だけど彼女は俺がいないと駄目なんだ」

「……」


 つまりこの男は私と正式に婚約しておきながら、別の女とも付き合っていたわけだ。

 相手の女性はまだ二十歳そこそこ。つい最近、職場の厳しさに耐えかねて、仕事を辞めたそうだ。他の勤め先を探していたところなかなか見つからず、友達に誘われたコンパで偶然マサヤと出会ったわけだ。もうね、婚約中にコンパ行く時点でアウトだわ。


「いいわ、婚約破棄しましょう。結婚する前にあなたのクズさが分かって良かったわ」

「な……そんな言い方はないだろっ!?」

「マサヤ、あなたネットニュースの芸能人の不倫ネタ読んでいた時には、こいつはクズだって散々叩いていたくせに、自分の時には随分と甘いんじゃないの?」

「お、俺は結婚していないから不倫じゃない!!」

「ふーん、じゃ、浮気はクズじゃないんだ?」

「俺と彼女は運命的な出会いを果たしたんだ。浮気じゃなくて本気だ!!」

「そう。本気だったら二股してもいいってことね?」

「う…………だ、だからお前みたいな一言も二言も多い女は嫌だったんだ! もう俺はうんざりだったんだよ!!」


 反論できなくなったとたんに逆ギレ。

 まぁ、自分でも可愛げがないっていうのは分かっていますよ? 職場では勝ち気な性格が禍して、お局様呼ばわりされていた。


 それでもあなたがいたから、何を言われても平気だった。

 あなたという守りたい存在があったから。

 でもあなたもそんな私にうんざりしていたってわけね。


 その場にいるのも馬鹿らしくなり、席を立ち上がった。一瞬だけど、相手の女がくすりと笑ったような気がした。

 私は内心むっとしながら、伝票をひったくりレジの方へ向かう。


「あ、俺の分も払っておいてよ」


 背中越しに図々しいことを言ってくる馬鹿。

 一体どの口が言っているのよ!? 

 私はとっとと自分の分だけ支払いを済ませてから、鞄からスマホを取り出した。

 そしてマサヤの番号を消去してやる。当然LI○Eもブロックしておく。


 それにしても、生活能力が無いマサヤが、か弱い女の子とやらを守ってあげられるのだろうか? 

 あの娘、訪れる度に汚部屋になっていた彼の家に行ったことあるのかな? 

 私が綺麗に片付けた三日後には、足の踏み場もない状態になっているのだから、部屋を散らかす才能は天下一だと思うわ。

 あの部屋をもう片付けなくて済むのかと思うと気が楽だわ。

 私はその時、寂しさや喪失感と同時に、ほっとした気持ちになる。

 きっとまだ他にもいい出会いがあるかもしれないし、結婚する前にマサヤがクズ男だって分かって良かった、と思わなきゃ。


「……」


 ……楽しかった日々もたくさんあった。

 一緒に遊園地に行ったり、動物園に行ったり。カフェでとりとめのない話をする時間も癒やしだった。彼と一緒に居ると童心に返ることができた。

そのことを思い出すと胸が締め付けられ、目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。


 こうして私の恋愛は婚約破棄という形で終わりを告げたのだった。

 私が婚約破棄したことを聞いた両親は、大喜びで見合い写真を送ってきた。元々マサヤのことは気に入っていなかったのよね。

送られて来た見合い写真は、うん、どれも真面目そうな感じの人だな。とにかく眼鏡率が高い。

 ……あ、眼鏡をかけていない人発見。この人の顔、タイプかも。ふうん、ユウキタイチ。へぇタイチ君かぁ。

 うわ、でも勤め先が元彼と同じ会社だわ。

 大きい会社だし、部署も違うから気にしなくてもいいような気がするけどね。避けた方が無難といえば無難。

 顔は特別いいってわけじゃないけど、かといって悪くはない。いわゆるフツメン。

 でもこういうあっさりした感じの顔って好きなんだよね。

 勤め先は引っかかるけど、一回この人とお見合いしよっかなぁ……いやいや、その前にせっかくフリーになったのだし、しばらくはお一人様を楽しみたい所。

 お見合いは心の整理がついてからでもいいじゃない。

 とりあえず姪っ子が勧めてきたライトノベルでも読もうかな。典型的なシンデレラストーリーだけど、けっこう面白かったし。


“運命の愛~平民の少女が王妃になるまで~”


 平民少女ミミリアとハーディン国の第二王子であるアーノルド王子は身分差の恋物語。だけどその王子様には婚約者がいて……あ、駄目だわ。今の私にはぐりぐり傷を抉る話だった。

 自分が婚約破棄にあってなかったら、心の底から楽しめたのだけど。

 家に引きこもるよりは、久々の休日だし、買い物に行こうかな。せっかくフリーになったんだし、一人気ままな買い物をしたいわ。

 いつもと違うメイクや服、靴をはくと気分も変わる。

 私はアパートの部屋から出て階段を降りようとした時、あまり履き慣れない高いヒールを履いていたせいだろうか。

 階段から脚を踏み外し、転げ落ちることになる。


 頭を角にぶつけた感覚は覚えている。

 とてつもない痛みが走ったことも。

 だけどそれ以上は分からない。

 私の意識はそこで途切れたのだ。










――――――――

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