エピローグ~そして繰り返される悲劇or喜劇~
ボウッ!
「おわあっ!」
呪いの踊りを踊っていた
「だあっ! 水!」
どたばたと風呂場に走り、水を入れた洗面器を持って来てその中にスマホをぶち込む。
(一体、何が起こって――)
と思った瞬間。彼はその場に倒れて気を失った。
――そこは不思議な空間だった。真っ暗で上下の感覚が分からない。
そこに十代半ばの少女がいた。ぼろぼろの黒いマントを羽織っている。
(……リーザ?)
その少女は彼の小説の主役である魔法少女だ。
少女は彼の目の前まで滑る様に近づいて来た。
「お前の望みを叶えてやりたかったが、わしはここまでだ……」
少女の口から出て来たのは
「わしの記憶を託そう。お前の為に編集部へ鉄槌を下そうとした記憶じゃ。お前の生き霊を操ったり、
と言いながら両手を差し出す。
彼は少女の口から出て来た男の声に驚いてすぐには動けなかった。
「さあ、受け取ってくれ。お前の願いに応えてわしが行ったことじゃ。続きは後任の者……に……」
少女の姿が徐々に薄れて行く。
木尾原は慌てて少女の両手を取った。
すると……。
「これ……は」
釘バット男がヨムカク編集部に現れてから今までの出来事が、全て彼の記憶に刻まれる。
「あんたは……!」
ずっと自分を護ってくれていた存在を知って、彼はほろほろと涙を流し始める。
「俺様の為にやられたのか……」
少女は最後に優しく微笑んでその姿を消した。
――が。
「後任はあたしだよ」
背後から老婆の様に嗄れた声が聞こえた。
彼が振り向くと紫色のドレスを着た妖精の様な美少女がそこにいた。その少女も彼の小説に出て来る
「前任のあいつはやられたけど、あの霊能者が去ってあんたが回復したら仕返しに行くよ!」
嗄れた声の美少女は力強く言った。
「……お、おお」
彼が気圧されつつ少女の言葉に答えたとたん目を覚ました――
気がつけば、そこは自分の部屋だった。
体が
「……夢?」
にしては唐突なスマホの発火現象に説明がつかない。
(だが、この記憶が真実なら俺様はヨムカク編集部に一矢報いたとも言える)
それは呪いを返された反動だったが、守護霊だった存在がその反動の殆どを引き受けたので、彼は体の怠さ程度で済んだのだ。
そして、彼の心は軽くなった。編集部に恐怖をもたらせたこと。何時でも再び恐怖をもたらせられることが彼の心を軽くしたのだ。
ヨムカクコンはまだ続く。この先、木尾原康弘の作品が書籍化されることがあるのか、それはまだ、誰にも分からない。
まだまだ……終わらないのかも知れない。
彼がプロデビューするまで再び悲劇が訪れる可能性は残っている。
了
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