第8話 紅い少女は、少年に背を向ける。
少女──白河紅子は一つの手がかりをもとに真堂隆之の居場所を突き止めた。
「タカユキっ!」
しかし隆之の手前に顔も知らぬ少女が一人、目を大きく見開いて、紅子を見ている。その少女は黒岩真奈美その人である。
「……へえ、同類なんて初めて見たなあ」
唇を歪につり上げて、興味深そうに紅子を見る真奈美。
凍てつく空気。泥沼のような殺意。もし、ここで一歩でも動けば殺し合いが始まる。
彼女らの関係を一言で表すのなら、それは──『同族嫌悪』。
紅子と真奈美は見つめ合う。火花が散っているように見える。──紅子は一瞬、真奈美から視線を外し、真奈美の肩越しにいる隆之の姿を見る。「どうしてここにいるんだ」と叫んでいるが、紅子は聞かなかったことにした。ただ一点、それだけが気になって仕方なかった。
「ねえ、一つだけ聞きたいことがあるんだけど」
紅子は真奈美に目を向けて問う。
「うん、なあに?」
視線を合わせて、真奈美は眉をひそめ、目を細める。
「タカユキの足は、あなたがやったの?」
「……そうだね、わたしがやったようなものかも」
唇に指を添えて、悪戯そうに笑ってみせる。
紅子はその仕草に腹が立って、眉間にしわを刻む。
殺し合いは一瞬。早い者勝ちという簡単ルールである。
「……」
紅子は腰にそえたナイフを右手で握る。
「……」
真奈美は両手の爪先を伸ばし、鋭利な刃物と化す。
そして次──真奈美が紅子に向かって走り出す。真奈美は紅子の持つナイフこそが主武装であることを理解していた。だからこそ紅子に距離を詰め、近距離戦に持ち込み、ナイフの刃を受け流す。それで生まれてしまった隙をつくのだ。
──紅子は真奈美が距離を詰めてくるのを、その場で動かず立ち尽くし、待っていた。真奈美の両手の爪──一種の獣のように伸び、鋭いものとなっている。あんなもので刺されたり、切られたりでもすればたまったものじゃないだろう。
相対する二人。真奈美はあと二歩走れば、爪の届く距離内に入れる。そして──もう、あと一歩だ。あとは振り払われるはずの刃を受け流せば、勝利は確定だろう。
しかし──何を思ったのか、紅子はナイフの切先を腕に向けた。そうして、手慣れた動きで、一切表情を崩さずに、その腕を切った。
“──え?”
真奈美はつぶやく。
だが、そこで動きを止めなければ仕留めることは可能だった。
踏み出すはずの一歩を踏み出さなかった。チャンスを、たった一瞬の戸惑いで自身で踏みにじってしまったのだ。
紅子の腕から流れ出た血液は、一本の剣と化す。その剣で真奈美の首を落とした。
真奈美の首と胴体は上手く切り離され、鮮やかな切断面を紅子は最後に目にして、隆之のほうに駆け寄っていった。
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