第6話 少年は決心をする。

 午後九時。


 少女──白河紅子しらかわあかこは屋敷を抜けて、未だに帰ってこない真堂隆之を探していた。学校にもいないし、街中もあまりに人が多く、とても探せそうな状況ではない。それに電話だってつながりはしなかった。


「……どこ、どこに……」


 血眼で探し続ける紅子。

 どんなに目を凝らして周りを見渡しても、それらしい人物は見つけても他人の空似だった、なんていう結果が連続する。


「……」


 仕方ない、と諦めるようにして目を伏せる。手を強く握りしめて、拳を作る。爪が手のひらに食い込む。


「……こうして、見つけるしかないのね」


 紅い瞳。

 紅子を象徴する、真っ赤な瞳。


 大きな力に、それなりの代償がいる。なにかの映画で同じようなことを言っていた人物がいたけれど、その人は正しい。たしかに大きな力にはそれに伴う代償が必要不可欠となる。


 だからこうして使うことはあまりないのだが……今は迷っている場合じゃない。


 首をぶんぶんと左右に振り、集中する。


 血の在り処。

 

 それはすぐに見つかった。しかし遠い。もし何者かが隆之に危害を加えているというのであれば──、


「許さない」


 そして、


「絶対に殺してやる」


 鬼のように、そう強く自身に誓った。



 * * *


「ハァ……ハァ……ハァ……!」


 体力に限界が来ているのがわかった。

 これ以上は動きが鈍くなる。


 にしても──数が一向に減る気配がしない。倒しても倒しても、また次々と現れる死にぞこない。それらを見るだけでも胃液が喉元までせり上がる想いをしているというのに、こうも何体をも視界におさめなくてはならないのかというと、頭が揺れる。


「ハッ……!」


 かかと落とし。もう速度に問題が生じている。



 だがこうしてわかったことがある。弱点は頭だ。

 それがわかってしまえば、効率が上がり、さらに数を減らせるはずだったのだが──、


“……これじゃ、キリがないぞ……!”


 酷使される体力。

 身体の動き──その速度は下がりつつある。


 いずれ俺は倒れる。それまでにこの場にいる敵を全て倒せなんて、無理に決まってる。


“……生き残れるか、見せてね?”


 生き残る……そうだ、無理して全員を倒す必要はない。生き残るための手段としては、逃げる、というのも立派な手段だろう。


 どこか……どこか出口はないだろうか。


 邪魔な者を押しのけつつ、周りを見渡す。すると、ちょうど人が通れるほどの大きさの通気口がある。俺はそれに目をつけて、駆けつけた。


 通気口の入り口に入る。上半身が入ったところで、足を誰かにつかまれる。

 つかむ力が強いのか、足がつぶれそうになる。

 いや、潰れた。間違いなく、潰れたのだ。右足はもう使いものにならない。


「っっっ……!?」


 千度の熱に焼かれた鉄が右足に触れたかのような。

 もともと右足に爆弾が仕込まれていて、それが今、起爆したような。


 右足から全身に広がっていく熱。

 俺の身体は……そう、炎だ。派手に燃える、決して消すことはできない炎。


「あぁっっっぐ──!」


 その熱に耐えかね、無意識に口から苦悶の声がこぼれ出る。やがて唇から血を吐き出すこととなった。


 でも、今は行かなければならない。

 とにかく、生き残らなくちゃいけないんだよ。


 

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