一撃必殺!地雷ちゃん!

人生

1 連絡先を交換すると見せかけて位置情報を取得しています。




 中学の卒業式である。


 俺は部活で親しくしていた後輩に呼び出され、ひと気のない校舎裏でそいつと対峙していた。


「先輩、今日で卒業お別れですね……。寂しくなります。先輩もきっと私との別れが辛いだろうと思います」


「いや? 別に引っ越す訳じゃあるまいし。俺の行く高校、同じ町内だし?」


「……雰囲気とか台無しなんですけど? 先輩には情緒ってものがないんですか?」


「んー、あんまり? ところで話って何? お金なら貸さないよ」


「今まで借りたことありましたか? まったくもう……」


 はあ、と大げさに肩を竦め、ため息をつく後輩。ため息をつきたいのはこちらだ。これから友人たちと卒業祝いに遊びに行くはずだったのに。なぜか連中、にやにやしながら俺を置いて先に行ってしまった。


「で?」


「これからは先輩とも会えなくなりますので、連絡先を交換しておこうと思いまして」


「ほう。そういえば……。何? ケータイ買ってもらったの?」


「はい! 来年……いやもう四月からは私も中三ですので。受験のために塾とか通ったりしますので。ついに、スマホを頂きました」


 にっこりしながらスマホを取り出す後輩である。新品のスマホ。よっぽど嬉しかったのだろう、宝物でも見せるように誇らしげだ。


「これで私もようやく今時の女子たちの仲間入りです」


「ようやく仲間に入れたんだ。これでもうぼっちじゃないな。今時の女子たちと仲良くね、それじゃ」


「ちょっとちょっと、どんな冷血漢ですか。何も私、スマホを自慢しにきた訳じゃないですよ。ラインを交換しましょう、せっかくなので!」


「まあ、いいけど――」


 と、頷きながら自分のスマホを取り出したところで、後輩にひったくられた。


「私が設定してあげますね。どうせ先輩はこういうの不慣れでしょうから」


「まあ、否定はしない。……しないが、パスワード知らんだろ。ロック解除しようとして使用不可とかにするなよ」


「大丈夫ですよ、パスワードなら知ってるので」


「……なんて?」


「はい、出来ましたよ。これで私と先輩の間には切っても切れないラインが出来ました」


「なんだか嫌だな、切ってもいい?」


 ともあれ、そうして俺と後輩は別れた。中学最後のやりとりだった。




 そして――高校の入学式の日がやってきた。


 新しい制服だなんだといろいろ手間取ってしまって、家を出るのが遅れた。初日から遅刻なんてしたくない――そう気持ちが急いていたからか、曲がり角から現れた人物に気付かず、


「うわっ、」「きゃっ……!」


 と、ベタな衝突。入学式の日にこれは何か運命的なものを感じる、などと後ろに倒れながら俺はのんきに思っていた。


 その――宙を舞うトーストに気付くまでは。


(ジャム塗ってある……)


 赤いジャムの塗られたトーストが、宙を舞っている。このままでは真新しい制服に染みがつく――しかし、回避など出来るはずもなく。


「ぐ……」


 地面に臀部を強かに打ち付ける。


 トーストは――俺の、股間の上に落下した。

 奇跡的に、ジャムの塗られた方が上だった。


「おお! これは奇跡ですよ! 普通、重さ的にジャムの塗られた方が下になるはずなのに! もしかしてあなた、私の運命の人では?」


 何やら、よく聞きなれた声。パンを咥えて曲がり角から現れた運命の人が誰かと思えば、


「おや、誰かと思えば先輩じゃないですか! 奇遇ですね。ところでそれ私の朝食なので、動かないでくださいね、今食べます」


「やめろやめろ、人の股間に顔を近づけるな。朝から何やってるんだこの破廉恥後輩」


 トーストを回収し、地面に膝をつく後輩から逃れる。立ち上がり、制服についたパンくずを払い落す。せっかくなのでトーストはもらうことにした。これをそのまま返すのは、なんか嫌だった。


「それ朝食だって言いましたよね……? 昼まで飢えろと?」


「そんなことより、」


「先輩が私の食べかけを食べてる、これ、割と重要」


「遅刻しそうだから、それじゃ」


「ちょっと待ってくださいよー、せっかく久々に会ったんですから、もうちょっとこの可愛い後輩に構いません?」


「言うほど久々でもないし可愛くもない」


「つれない先輩にめげない後輩である。……最近どうですか? 私のいない高校がっこう、寂しいですか?」


「これから入学するんだが?」


「先輩のいない学校は静かですよ」


「俺はそんなにうるさかった? 学年違うのに?」


「せっかくなので途中まで一緒に行きましょ」


「いや、方向、真逆だから。だからぶつかったんだろ俺たち」



 ――そう、この時はまだ、ただの偶然だと思っていたのです……。



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