04 登場人物紹介

「昨夜の二十三時半ごろ、飯原町四丁目で殺人事件が発生しました。現場には甲矢見君と小的君も、偶然ながら居合わせています。そして先ほど正式に、うちにも声がかかりました。なので一課と協力して、これから調査・分析を始めたいと思います」


 緊迫感を感じられないのんびりとした口調で、伊豆子が号令をかけた。本来であれば、情報管理室じょうほうかんりしつの統括官、大門寺ダイモンジがかけるべき言葉だったが、あいにく大門寺は出張のため不在。なので次官の伊豆子が今はまとめ役だ。


 甲矢見たちが所属する第六区分署の情報管理室は、コンピュータ技術や電気通信技術を悪用した、サイバー犯罪の対策と解析をメインとしている。ただ、ほかのサイバー対策課と異なるのは、捜査一課の中に位置づけられている点だ。ゆえに情報管理室も、殺人・誘拐・放火・立てこもりといった、凶悪犯罪を専門に扱う。

 東京二十三区内にサイバー対策班を持つ分署は多いものの、一課に専属でついているのは、六分署独自の取り組みといえる。


 メンバーは五人。


 筆頭は大門寺。

 サイバー犯罪という言葉が生まれる前から、その対策の必要性を説き、情報管理室設立の立役者となった人物である。

 彼自身が優秀な捜査官でもあったが、現在は統括官として、メンバーをサポートする位置にいる。ふだんは冗談ばかり言う「人のいいオッサン」という印象だが、割り振りは精確で頭が切れる。メンバーへのフォローも忘れない。まさに「統括」の適任者といえるだろう。


 大門寺の下には、分析官が二人と捜査官が二人。


 分析官の一人、伊豆子。

 もとは本局の分析官だったが、大門寺が引き抜いてきたそうだ。そして四十路の独身だが、子供がいる、らしい。どちらも真実かどうか定かではない。

 温厚でのんびりとした人柄で、大門寺に負けず劣らず冗談を言うことが多い。そのため、相棒のハギからしょっちゅう小言を言われているが、伊豆子の分析能力は萩も信頼をおいている。調査・分析において伊豆子はエキスパートといえる。


 伊豆子の相棒で、もう一人の分析官、萩。

 三十半ばくらいにも見えるが、四十路を越えているとも噂されている。年齢不詳。ともするとあちこち分散しやすい情報を、端的かつわかりやすくまとめることに長けている。

 さばさばとしていてクール、しかし面倒見のいい一面もあることから、彼女を「お萩さん」と慕う者が多い。

情報管理室の真の室長は彼女であると、裏で囁かれている。


 そして残る二人の捜査官が、甲矢見と小的だ。

 

 毎朝八時半から始まる捜査会議は、別室を使わずにそのままフロア内で行われることが多い。空席が多かったデスクも今は捜査官たちで埋まり、フロアは一時の過密状態となっていた。


「では、会議を始める」


 落ちついたテノールの声で、捜査一課の綜馬ソウマが告げた。

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